将は、知あり、信あり、仁あり、勇あり、厳あるなり。

其一2-6

將者、知、信、仁、勇、嚴也。

jiāng zhě、zhī、xìn、rén、yŏng、yán yĕ。

解読文

①将軍とは、実践できる知恵があり、信頼があり、思いやりがあり、勇敢さがあり、厳格さがあるのである。

②将軍に実践できる知恵があれば兵士達は信じることができ、将軍が思いやりのある軍人であれば兵士達から尊重されるのである。

③実践できる知恵のある将軍は気持ちが通じ合う諸侯に手紙を送り届けて、勇猛な連合軍をきちんと整えるのである。

④将軍は、生きたまま敵を取得する間者を尊重して心にかけて、敵を攻め取ることができる節目が出現する時機を識別させるのである。
書き下し文
①将は、知あり、信あり、仁あり、勇あり、厳あるなり。

②将に知あれば信あり、仁ある勇たれば厳(とうと)ばれるなり。

③知ある者は信を将(おく)りて、勇ましき仁を厳(げん)するなり。

④将は、勇を厳(とうと)びて仁(いつく)しみて、信なること知らしむなり。
<語句の注>
・「将」は①②将軍、③送り届ける、④将軍、の意味。
・「者」は①~とは、②仮定表現の助詞、③助詞「もの」、④助詞「こと」、の意味。
・「知」は①②③知恵、④識別する、の意味。
・「信」は①②信ずるに足る、③手紙、④時期を外さないさま、意味。
・「仁」は①②思いやり、③人、④心にかける、の意味。
・「勇」は①勇敢な、②軍人、③勇猛な、④兵士、の意味。
・「厳」は①厳格さ、②尊重する、③きちんと整える、④尊重する、の意味。
・「也」は①②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「將者、智、信、仁、勇、嚴也。」と「知」を「智」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「知」を伴う記述は、全篇解読すると孫武は“実践する”ことで本当の理解を得ること要求していると考察でき、“実践できる”ことが重要視される。結果、「実践できる知恵」と訳す。

<②について>
・この解読文で「実践できる知恵」と「思いやり」が強調されており、後述の句において頻出するのはこの二つである。それぞれの具体的な内容は、徐々に理解が深まっていくように構成されている。

<③について>
・「将軍は気持ちが通じ合う諸侯に手紙を送り届けて、勇猛な連合軍をきちんと整える」は、其九5-1⑥「将軍の戦略を雄健な筆勢で記して会盟を世話する使者を遣わして、将軍と大いに気持ちが通じ合い、その上、必ず恭しく将軍の戦略に了解し、敵軍を除き去るために大々的に協力してくれる古い付き合いの諸侯を迎えて連れて来させるのである」、其九5-1⑦「将軍が順々に逆算して対峙している戦況を見抜き、厳密に敵軍を防いで自軍の有利を確固たるものにする理由は、時間をかけて兵士達の士気を旺盛にする戦術で自軍は勢いを強くして、将軍は大いに諸侯と連合して、その上、大いに諸侯と力を合わせて敵軍を除き去るからである」に基づいて解読。類似の記述は後半で頻出する。

・「仁」の“人”は、諸侯を戦地に連れて来て編制した「連合軍」と解読。

<④について>
・「勇」の “兵士”は、其十二2-3④「軍神である将軍は、生きたまま敵を取得する間者の養育係になるのである。間者を一人前にする時は、何度も戦争に連れ立って起用して、敵兵達の士気が殺がれる時機を識別することを指導して習熟させるのである」の「生きたまま敵を取得する間者」と考察。

・「敵を攻め取ることができる節目が出現する時機を識別」について、「信」の“時期を外さないさま”は、其五3-2①「鷹が獲物の鳥に追いついて強奪する時は、周到に行き届いているのであり、獲物の鳥を傷つけて挫折させる要因は、攻め取る節目と時機が出現したからである」の「攻め取る節目と時機(=節)」を見極めて、その好機を見逃さないことと解釈して解読。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。