凡そ此の五は、将の聞かざるもの莫し。之を知る者は勝たるも、知らざる者は勝たらず。

其一2-8

凡此五者、將莫不聞。知之者勝、弗知者不勝。

fán cǐ wŭ zhě、jiāng mò bù wén。zhī zhī zhě shèng、fù zhī zhě bù shèng。

解読文

①一般的に、この五種類の教えは、耳にしたことがない将軍は誰もいない。五種類の教えを理解している将軍は優れているが、理解していない将軍は優れていない。

②平凡な将軍は、この五種類の教えが大いに評判になっても、誰も実行しない。五種類の教えに関する知識全てを使う将軍が存在するにも関わらず、五種類の教えを敬遠する将軍は戦う前から大いに敗北した状態である。

③あらゆる範囲で五種類の教えを何度も実行する将軍は、大いに理解して軍隊を力づける。五種類の教えに関する知識が、実践できる知恵に達した将軍は敵を抑えるが、知識を敬遠した将軍は敵を抑えることができない。

④軍隊を力づけて、将軍に大いなる名声を与える要旨は、この五種類の教えにある。この要旨を理解する者は、知識を敬遠しようとする感情を抑制し、大いに優れた将軍になるだろう。
書き下し文
①凡そ此の五は、将の聞かざるもの莫(な)し。之を知る者は勝(しょう)たるも、知らざる者は勝(しょう)たらず。

②凡なるものは、此の五者の不(おお)いに聞こえるも、将(おこな)うもの莫(な)し。勝(あ)げて知を之(もち)いる者あるも、知を弗(はら)う者は不(おお)いに勝(しょう)たり。

③凡そ此を五たび将(おこな)う者は、不(おお)いに聞きて莫(はげ)ます。知に之(いた)る者は勝つも、知を弗(はら)う者は勝たず。

④莫(はげ)まして、将に不(おお)いなる聞(き)こえあらしむ凡(はん)は、此の五者にあり。之を知る者は、知を弗(はら)わんとすることに勝ち、不(おお)いに勝(しょう)たらん。
<語句の注>
・「凡」は①一般的に、②傑出せずに普通であるさま、③あらゆる範囲で、④要旨は、の意味。
・「此」は①②③④代名詞、の意味。
・「五」は①②数の名、③何度も、④数の名、の意味。
・1つ目の「者」は①②種類、③助詞「もの」、④種類、の意味。
・「將」は①将軍、②③する、④将軍、の意味。
・「莫」は①②誰も~ない、③④力づける、の意味。
・1つ目の「不」は①~しない、②③④大いに、の意味。
・「聞」は①耳にする、②評判になる、③理解する、④名声、の意味。
・1つ目の「知」は①理解する、②知識、③知恵、④理解する、の意味。
・「之」は①代名詞、②使う、③ある地点や事情に達する、④代名詞、の意味。
・2つ目の「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・1つ目の「勝」は①優れたさま、②全部、③抑える、④抑制する、の意味。
・「弗」は①~しない、②③④厄払いする、の意味。
・2つ目の「知」は①理解する、②③④知識、の意味。
・3つ目の「者」は①③③助詞「もの」、④助詞「こと」、の意味。
・2つ目の「不」は①~しない、②大いに、③~しない、④大いに、の意味。
・2つ目の「勝」は①優れたさま、②既に滅ぼされたさま、③抑える、④優れたさま、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「凡此五者、將莫不聞。知之者勝、不知者不勝。」と「弗」を「不」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「此」は、其一2-1から其一2-7で記述された「道、天、地、将、法」の内容を指示する代名詞。

・「五」は、其一1-2①「」の「五つの教え」と同意だが、続く「者」と合わせて「五種類の教え」と解読した。

・「之」は、「五」の「五種類の教え」を指示する代名詞と解読。

・「弗」は打消の副詞だが先秦までは目的語が省略される。この省略された目的語は「之」であり、「五」の「五種類の教え」を指示する代名詞と解読。

<②について>
・「此」は、其一2-1から其一2-7で記述された「道、天、地、将、法」の内容を指示する代名詞。

・「弗」の“厄払いする”は、厄介払いする喩えと解釈すれば、対象を遠ざけたい文意になる。結果、「敬遠する」と解読。③④も同様に解読。

・2つ目の「勝」の“既に滅ぼされたさま”は、戦いが始まっていなくても、既に敵に滅ぼされた状態に等しいことと解釈できる。結果、「戦う前から敗北した状態」と解読。

・2つ目の「知」は“知識”の意味だが、話の流れに合わせてわかりやすく「五種類の教え」と解読した。

<③について>
・「此」は、其一2-1から其一2-7で記述された「道、天、地、将、法」の内容を指示する代名詞。

・1つ目の「知」は、其一2-6①「」等と同様に、「実践できる知恵」と訳す。なお、実践できる知恵に達する事柄として②「五種類の教えに関する知識」を補った。

・二つの「勝」は“抑える”の意味を採用して、「敵を抑える」と解読している。「勝」の意味は“敵を打ち破る”等の印象が強いが、孫子兵法が推奨する“敵を武力で打ち破る”場面は、奇策部隊が敵部隊や敵兵を攻め取る瞬間だけである。一般的な戦争のイメージである大軍と大軍の戦いを繰り広げる正攻法部隊は武力で敵兵を傷つけるのではなく、圧倒的な軍事力で威圧する、又はせめぎ合っても敵を傷つけずに持ち堪える、と後述の句で何度も説かれている。そのため、「敵を抑える」と解読した。

<④について>
・「此」は、其一2-1から其一2-7で記述された「道、天、地、将、法」の内容を指示する代名詞。

・「之」は、「凡」を指示して前半「将軍を力づけて大いに名声を与える要旨は、この五種類の教えにある」全てを指示する代名詞と解読。但し、冗長になるため「この要旨」と簡潔にした。

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