計は利と以いて聴かば、乃ち埶を為ぶに之り、其の外す佐けたりと以うなり。

其一4-3

計利以聽、乃爲之埶、以佐其外。

jì lì yǐ tīng、nǎi wéi zhī yì、yǐ zuǒ qí waì。

解読文

①将軍が、戦略、戦術を利点と認めて考察すれば、そうしてはじめて戦略、戦術に必要な技術を学習するに至り、敵軍を撤退させる助力になると考えるのである。

②戦略、戦術を利点として用いるようになれば将軍の勝手にさせることで、かえって兵士達を管理して成長させ、敵軍を後退させる助力に達するのである。

③利害損得をはかって間者の真価を認めて利点として用いる将軍は、必ず間者に奇正の戦術に必要な技術を学習させ、敵国から離反させて自国に寝返るように勧めること実行させるのである。

④兵士達の士気が旺盛で切れ味の鋭い武器に及ぶことを計算して待てば、旺盛で切れ味の鋭い士気が軍隊の勢いに変わるだろう。そうしてはじめて敵軍を撤退させる助力になると見なすのである。
書き下し文
①計は利と以(おも)いて聴かば、乃ち埶(げい)を為(まな)ぶに之(いた)り、其の外(はず)す佐(たす)けたりと以(おも)うなり。

②計を利とするに以(およ)べば聴(まか)せるに、乃ち之を為(おさ)めて埶(う)え、其の外(はず)す佐(たす)けに以(およ)ぶなり。

③計(はか)りて聴(ちょう)を以(おも)いて利とするものは、乃ち之に埶(げい)を為(まな)ばしめ、其の外(そむ)けしむ佐(すす)めること以(な)せしむ。

④利(と)きに以(およ)ぶこと計(かぞ)えて聴けば、之は埶(せい)に為(な)らん。乃ち其の外(はず)す佐(たす)けたりと以(おも)うなり。
<語句の注>
・「計」は①②策略、③利害損得をはかる、④計算する、の意味。
・「利」は①利益、②③利益あるものとして用いる、④鋭い、の意味。
・1つ目の「以」は①認める、②押し及ぶ、③認める、④押し及ぶ、の意味。
・「聴」は①考察する、②勝手にさせる、③スパイ、④待つ、の意味。
・「乃」は①そうしてはじめて、②かえって、③必ず、④そうしてはじめて、の意味。
・「為」は①学習する、②管理する、③学習する、③変わる、の意味。
・「之」は①ある地点や事情に達する、②彼ら、③④代名詞、の意味。
・「埶」は①技、②栽培する、③技、④勢い、の意味。
・2つ目の「以」は①考える、②押し及ぶ、③事を行う、④見なす、の意味。
・「佐」は①②助力、③すすめる、④助力、の意味。
・「其」は①②③④敵の代名詞、の意味。
・「外」は①除去する、②遠ざける、③離背する、④除去する、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「計利以聽、乃爲之勢、以佐其外。」と「埶」を「勢」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「埶」の“技”は、話の流れから“戦略、戦術の技“とわかる。但し、この”技“は見聞きした程度の「戦略、戦術」の知識を暗記するようものでなく、その知識を其一2-6①「知」の「実践できる知恵」にしていくために必要な「技術」を指すと考察。一般的に、知識としてある「戦略、戦術」は、これら「技術」を前提に実現した結果を一般化したものであり、この「技術」が無ければ”正しく真似る“ことができない。結果、「戦略、戦術に必要な技術」と解読した。
蛇足だが、竹簡孫子で記述されている漢字「埶」は、後世に全て「勢」に置き換えられている。これは「実践できる知恵」を得る大事な教えを他国に広めないために、漢字「勢」に置き換えて“勢い”という曖昧な意味でわかった気にさせる狙いがあったのではないか、と推察している。

<②について>
・「之」の“彼ら”は、将軍が管理する者達であるため「兵士達」と解読。

・「埶」の“栽培する”は、将軍が管理する兵士達を兵士として成長させることと解釈、簡潔に「成長させる」と解読。

・「敵軍を後退させる助力に達する」は、其九4-10①「強く命令して駆り立てて前進することは、敵を後退させる要因になるのである」が実現できるようになることと考察。この敵を後退させる戦術は、後半で頻出する。

<③について>
・「聴」の“スパイ”は、漢字「閒」の“スパイ”と同意であり、「間者」と解読。

・「之」は、「聴」の「間者」を指示する代名詞と解読。

・「埶」の“技”は、間者が身につける技術であり、②の記述よりここで起用する間者は其十二2-2①「生きたまま敵を取得する間者」とわかるため、「奇正の戦術に必要な技術」と解読した。

・「佐」の“すすめる”は、離反させた敵兵に対して、自国に寝返るように勧めることと解釈。結果、「自国に寝返るように勧める」と解読。

<④について>
・「利」の“鋭い”は、其七6-2②「早朝の旺盛な士気は切れ味の鋭い武器」を指すと考察。結果、「利きに以ぶ」で「兵士達の士気が旺盛で切れ味の鋭い武器に及ぶ」と解読。

・「之」は、「利」の「兵士達の士気が旺盛で切れ味の鋭い武器に及ぶ」を指示する代名詞と考察。冗長になるため「兵士達の旺盛で切れ味の鋭い士気」と解読。

・「埶」は、埶篇で記述される「軍隊の勢い」と解読。

・「旺盛で切れ味の鋭い士気が軍隊の勢いに変わる」は、基本的な考え方は其四4-5①「兵士数がどんどん増えていく軍隊を使って兵士数が減っていくしかない敵軍を思うままに操って抑える将軍は敵兵達を恐れ震えさせるのであり、あぜ道にある水の流れを停滞させれば充満した状態に達して隙間を生じて充満した水が決壊に至る現象をお手本にするのである」であり、これを“時間”の視点だけで記述している。軍隊に勢いを生み出す要因は、“時間”だけでなく、人の属性、教育、陣形、人間心理など多岐に渡るため注意が必要である。
参考までに、具体的な事例として其九4-27⑧「最も重要なことは、兵士達に、敵軍に対する荒々しい闘争心を湧かせて恐怖心は後回しにして考えさせなければ、大いに活気溢れた勢いが最も極まった状態に達するのである」がある。

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