兵は、詭る道なり。

其一5-1

兵者、詭道也。

bīng zhě、guǐ daò yĕ。

解読文

①戦略、戦術とは、人を欺く手段である。

②武器で敵兵を殺そうと見せかける技術は、敵を欺くことである。

③武器で敵兵を殺そうと見せかける正攻法部隊は、奇策部隊が隠れている場所に誘導するのである。

④戦略、戦術とは、軍隊を隠す手段を説くのである。
書き下し文
①兵は、詭(いつわ)る道なり。

②兵せんとする道は、詭(いつわ)ることなり。

③兵せんとする者は、詭(いつわ)るものあるに道(よ)らしむなり。

④兵は、詭(いつわ)ること道(い)うなり。
<語句の注>
・「兵」は①戦略、戦術、②③武器で人を殺す、④戦略、戦術、の意味。
・「者」は①~とは、②助詞「こと」、③助詞「もの」、④~とは、の意味。
・「詭」は①②欺く、③④隠す、の意味。
・「道」は①手段、②技、③経由する、④説く、の意味。
・「也」は①②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・其一4-3①「戦略、戦術に必要な技術」に関する記述と考察。

・「人を欺く手段」と欺く相手を敵に限定せずに解読した理由は、敵以外を欺く記述があるからである。その一つとして、其十一5-5⑦「羊が苦痛から逃げ出す道理」があり、人は苦痛から逃げ出す道理が働けば逃亡するのであり、孫子兵法においては敵と命を取り合うことになる「死地」から兵士達が逃げ出そうとするのが道理とする。つまり、自軍の兵士達が危険を感じて逃亡しないように「死地」に向かっていることを感じさせないように欺く必要があり、九地篇でその方法が記述されている。
また、孫子兵法においては、其十4-2④「可愛がる兵士を死亡させて敵将軍を可哀想に思わせれば、敵将軍を死者に等しく無気力にさせて職務を行わせる状態に至るのである」と、敵将軍の可愛がる者を殺害することで敵将軍が任務を遂行できない状態に追い込む戦術があり、その戦術に対応するための手段として其十4-2④「可愛がる兵士を連れ立って「死地」に向き合えば、敵の目を欺いて、可愛がる者を殺害して心を痛めさせる敵将軍の戦術に対処するのである」がある。これは可愛がる兵士を死地に連れていくことで敵を欺くと同時に、将軍は自分自身の感情を欺かなければならない戦術と解釈できる。

<②について>
・「武器で敵兵を殺そうと見せかける技術」は、後述の句で明らかになるが「正攻法部隊」に求められる技術である。其五2-1①「一般的に戦争は、正攻法部隊を率いて交戦し、奇策部隊によって打ち破る」を基本としながら、孫子兵法では其十二3-3②「敵軍に虚が無ければ、隙間なく詰まった堅固な自軍によって敵軍に損害を与えるように見せかけて、大いに後退させることに力を尽くすのである」等で記述されるように、正攻法部隊は敵兵を傷つけることなく、敵を奇策部隊が待ち構える場所に誘導していく教えになっている。ここでは詳細は割愛するが、正攻法部隊は敵兵を傷つけることなく、軍隊の勢いで恐れ震えさせて後退させるのであり、奇策部隊は敵兵を傷つけて攻め取る(捕虜にする)のである。

<③について>
・②「解読の注」参照。

・「者」は②「解読の注」に基づき「正攻法部隊」と解読し、「詭(いつわ)るもの」の「もの」は「奇策部隊」と解読した。

・「道」の“経由する”は、使役形で“経由させる”となる。これは、正攻法部隊は敵兵を傷つけることなく、敵を“奇策部隊が待ち構える場所に誘導していく”ことを指す。結果、簡潔に「誘導する」と解読。

<④について>
・「戦術」に対する「軍隊を隠す手段」は、③で解読した奇策部隊を用いる奇正の戦術を指す。一方、「戦略」に対する「軍隊を隠す手段」は、其十一9-3③「使者は、同盟を結んだ諸侯を待つことを予期させること無く、「自軍の正攻法部隊は衰えた状態に至った」と敵将軍に陳述する」等で記述される合従策を実行していることを敵軍に悟られないことが「軍隊(連合軍)を隠す」ことに繋がる。なお、合従策を実行していることを敵軍に悟られないためには、其十二5-5④「敵将軍に自軍を侮らせる戦術を実行する将軍は、敵軍を圧倒する合従策を実現させて自軍の有利を確固たるものにするのである」等で記述される「敵将軍に自軍を侮らせる戦術」があり、状況に応じた事例が後述される。

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