其一6-2
未戰而廟筭不勝者、得筭少也。
wèi zhàn ér miaò suàn bù shèng zhě、 deǐ suàn shǎo yĕ。
解読文
①将来に戦争が起こりそうな時に将軍が朝廷で戦略、戦術の計画を立てて勝利を得られない要因は、実現した計画が少ないことにあるのである。 ②兵士達を羊の集まりのように揺れ動かしても実現した計画が少ない将軍は、朝廷で計画を立てた戦略、戦術が優れていないのである。 ③将軍が朝廷で計画を立てた戦略、戦術が優れていなければ、恩恵を施した計画が少なく、羊が苦痛から逃げ出す道理を働かせて兵士達を恐れで震えさせたのである。 ④羊が苦痛から逃げ出す道理を働かせて兵士達を恐れで震えさせれば、将軍は朝廷に自軍の権勢が敵軍を越える計算させることが無く、徳のある者は将軍が立てた戦略、戦術を非難するのである。 ⑤将軍が立てた戦略、戦術を非難して得意になる者は戦争した経験は無く、朝廷における将軍の立場を大いに抑えようとして謀略を企てるのである。 ⑥朝廷における将軍の立場を大いに抑えようとして謀略を企てる者は、将軍よりも等級が低い武将を、将軍の地位を褒賞にして駆り立てて優劣を争わせて謀略を実現しようとするのである。 ⑦将軍よりも等級が低い武将に謀略を実現させようとする者は、将軍が朝廷で計画を立てた戦略、戦術を大いに担ぎ上げて、将軍の資質に関する優劣は争わないのである。 ⑧戦略、戦術は計画を削って適合させるのであり、その上で、兵士達を羊の集まりのように揺れ動かせば、将軍は大いに朝廷に自軍の権勢が敵軍を越える計算をさせるだろう。 |
書き下し文
①未に戦いあらんとするに而(なんじ)の廟(びょう)に筭(さん)して勝ち不(な)きは、筭(さん)を得ること少なければなり。 ②未として戦(そよ)がせしむも筭(さん)を得ること少なき者は、廟(びょう)に筭(さん)すること勝(しょう)ならざるなり。 ③而(なんじ)の廟(びょう)に筭(さん)すること勝(しょう)ならざれば、得する筭(さん)は少なくして、未たらしめて戦(おのの)かせしむなり。 ④未たらしめて戦(おのの)かせしめば、而(なんじ)は廟(びょう)に勝(まさ)ること筭(かぞ)えしむこと不(な)く、得は筭(さん)を少(しょう)とするなり。 ⑤筭(さん)を少(しょう)として得る者は戦うこと未(な)く、廟(びょう)の而(なんじ)に不(おお)いに勝たんとして筭(さん)するなり。 ⑥廟(びょう)の而(なんじ)に不(おお)いに勝たんとして筭(さん)する者は、少(わか)きものを未たらしめて戦わせしめて筭(さん)を得んとするなり。 ⑦少(わか)きものに筭(さん)を得せしめんとする者は、而(なんじ)の廟(びょう)に筭(さん)すること不(おお)いに勝(た)えて、戦わざるなり。 ⑧筭(さん)を少(か)きて得せしむなり、未として戦(そよ)がせしめば、而(なんじ)は不(おお)いに廟(びょう)に勝(まさ)ること筭(かぞ)えしめん。 |
<語句の注>
・「未」は①将来、②③④羊、⑤まだない、⑥羊、⑦~しない、⑧羊、の意味。 ・「戦」は①戦争、②揺れ動く、③④(恐れや寒さのために)震える、⑤戦をする、⑥⑦優劣を争う、⑧揺れ動く、の意味。 ・「而」は①あなた、②逆接の関係を表す接続詞、③④⑤⑥⑦⑧あなた、の意味。 ・「廟」は①②③④⑤⑥⑦⑧朝廷、の意味。 ・1つ目の「筭」は①②③計画、④計算する、⑤⑥はかりごと、⑦計画、⑧計算する、の意味。 ・「不」は①無い、②③~しない、④無い、⑤⑥⑦⑧大いに、の意味。 ・「勝」は①勝利、②③優れたさま、④越える、⑤⑥抑える、⑦担ぎ上げる、⑧越える、の意味。 ・「者」は①重文で因果関係を表す助詞、②助詞「もの」、③仮定表現の助詞、④助詞「こと」、⑤⑥⑦助詞「もの」、⑧助詞「こと」、の意味。 ・「得」は①②実現する、③恩恵を施す、④徳のある者、⑤得意になる、⑥⑦実現する、⑧適合する、の意味。 ・2つ目の「筭」は①②③④⑤計画、⑥⑦はかりごと、⑧計画、の意味。 ・「少」は①②③数がわずか、④⑤そしる、⑥⑦等級・序列が下にあるさま、⑧削る、の意味。 ・「也」は①因果関係を表す助詞、②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。 |
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する ・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。 <①について> ・「筭」の“計画”は、其一6-1①1つ目の「筭」同様に「戦略、戦術の計画」と解読。 <②について> ・「未として戦がせしむ」は、其一6-1②同様に解釈して「兵士達を羊の集まりのように揺れ動かす」と解読。⑧も同様に解読。 <③について> ・「未たらしめて戦かせしむ」について、「未」の“羊”を恐れで震えさせているため其十一5-5⑦「羊が苦痛から逃げ出す道理」を働かせてしまった状態に追い込んだと考察。結果、「羊が苦痛から逃げ出す道理を働かせて兵士達を恐れで震えさせる」と解読。④も同様に解読。 <④について> ・「勝」の“越える”は、其一6-1②「勝」と同意と考察し、「自軍の権勢が敵軍を越える」と解読。⑧も同様に解読。 ・「徳のある者」は、君主が含まれると推察するが、他の武将や役人も含まれる内容と考察し、そのまま「徳のある者」とした。 <⑤について> ・「朝廷における将軍の立場を大いに抑えようとして謀略を企てる」は、其十二2-6①「こっそりと元々所属していた敵国に戻した間者は、敵将軍と利害や意見が対立している相手と親しくして、その対立している者を裏から操って任務に力を尽くす存在である」で登場する「利害や意見が対立している相手」に類似する存在と考察。 <⑥について> ・「少」の“等級・序列が下にあるさま”は、謀略を企てる者が、将軍を抑えるために用意した人物であるため「将軍よりも等級が低い武将」と解読した。 ・「未」の“羊”は、将軍が勝利を得られないことによって、其十一5-5⑦「羊が苦痛から逃げ出す道理」が「将軍よりも等級が低い武将」に働いている状況であるため、其十一5-5⑥「兵士達を力づける道理を理解した将軍は、駆り立てれば慰労するのであり、強要すれば褒美の品を贈呈する」をまとめた「褒賞」で「将軍よりも等級が低い武将」を駆り立てるのだと考察。そして、その「褒賞」は将軍の地位が主だと推察できる。結果、「将軍の地位を褒賞にして駆り立てる」と解読。 <⑦について> ・「戦」の“優劣を争う”は、勝利を得られなかった将軍と駆り立てられた「将軍よりも等級が低い武将」が優劣を争うのであり、「将軍よりも等級が低い武将」に対する褒賞は“将軍の地位”と推察されるため、将軍としての資質について優劣を争うことと解釈できる。結果、「将軍の資質に関する優劣を争う」と解読。 <⑧について> ・「戦略、戦術は計画を削って適合させる」は、①「実現した計画が少ないこと」が問題であるため、実現できない計画を見極めて削り、それでも戦略、戦術を成し遂げられるように適合させるのだと考察。この計画の調整を行った上で、“兵士達を羊の集まりのように揺れ動かせば”勝利を積み重ねていける見込みが高くなる話の流れであるため、その因果関係がわかるように「その上」と接続詞を補った。 |