其一6-4
吾以此觀之、勝負見矣。
wú yǐ cǐ guàn、zhī shèng fù jiàn yǐ。
解読文
①私を採用して戦略、戦術の計画を考察する役目で起用すれば、勝利と敗北を明らかにするだろう。 ②私を戦略、戦術の計画を考察する役目で採用すれば、優れた将軍になることを心に抱く武将達が出現するだろう。 ③優れた将軍になることを心に抱く武将達は、私が認める戦略、戦術の計画について考察して詳しく聞くだろう。 ④私が認める戦略、戦術の計画について考察する武将達は、自軍の権勢が敵軍を越える戦略、戦術に頼ることを悟るだろう。 ⑤自軍の権勢が敵軍を越える戦略、戦術に頼ることを悟れば、防御した上で戦略、戦術の計画を実行して、その様子を観賞する将軍になるだろう。 ⑥防御した上で戦略、戦術の計画を実行しても、計画の過ちが露呈した時は、将軍は態度を変えてその局面を持ち堪えるだろう。 ⑦露呈した計画の過ちによって陥った局面を持ち堪える時は、局面が優勢に変わる戦略、戦術の計画を採用して乗り切るだろう。 ⑧私が認める戦略、戦術の計画について考察し、自軍の権勢が敵軍を越える戦略、戦術に頼る武将達こそが将軍に推薦されるだろう。 |
書き下し文
①吾を以(もち)いて此を観ることに之(もち)いれば、勝ちと負けを見(あらわ)す矣(か)。 ②吾の此を観ることに以(もち)いれば、勝(しょう)たらんとして負う之は見(あらわ)る矣(か)。 ③勝(しょう)たらんとして負う之は、吾の以(おも)う此を観て見る矣(か)。 ④吾の以(おも)う此を観る之は、勝(まさ)ること負(たの)むを見ゆ矣(か)。 ⑤勝(まさ)ること負(たの)むこと見えれば、吾(ふせ)ぎて此を以(な)して観るに之(いた)る矣(か)。 ⑥吾(ふせ)ぎて此を以(な)すも、負の見(あらわ)れるに、観の之(ゆ)きて勝(た)える矣(か)。 ⑦見(あらわ)れる負に勝(た)えるに、観の之(ゆ)く此を以(もち)いて吾(ふせ)ぐ矣(か)。 ⑧吾の以(おも)う此を観て、勝(まさ)ること負(たの)む之を見(すす)めらるる矣(かな)。 |
<語句の注>
・「吾」は①②③④私、⑤⑥⑦防御する、⑧私、の意味。 ・「以」は①②採用する、③④認める、⑤⑥事を行う、⑦採用する、⑧認める、の意味。 ・「此」は①②③④⑤⑥⑦⑧代名詞、の意味。 ・「観」は①②③④考察する、⑤観賞する、⑥事物に対する見方・態度、⑦眺め、⑧考察する、の意味。 ・「之」は①使う、②③④彼ら、⑤ある地点や事情に達する、⑥⑦変わる、⑧彼ら、の意味。 ・「勝」は①勝利、②③優れたさま、④⑤越える、⑥⑦持ち堪える、⑧越える、の意味。 ・「負」は①敗北、②③心に抱く、④⑤頼む、⑥⑦過失、⑧頼む、の意味。 ・「見」は①明らかにする、②出現する、③詳しく聞く、④⑤悟る、⑥⑦露呈する、⑧推薦する、の意味。 ・「矣」は①②③④⑤⑥⑦推測の語気、⑧賛美の語気、の意味。 |
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する ・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。 <①について> ・「吾」の“私”は、孫武が自分自身を指す代名詞として記述されている。この「吾」も同様である。 ・「此」は、其一6-1から其一6-3で記述された「筭」の「戦略、戦術の計画」を指示する代名詞と解読。②③④⑤⑥⑦⑧も同様に解読。 ・「私を採用して戦略、戦術の計画を考察する役目で起用すれば」は、孫武が呉王に対して自分を起用することを求めている記述と考察する。蛇足だが、計篇最後の一句まで呉王が耳を傾けている時点で、呉王は其一4-1「孫武の考え」だけに集中すること、其一4-2「孫武の戦略、戦術」と孫武自身を採用することについて前向きに検討していると推察でき、計篇最後の一句は孫武が自分自身を売り込んだ押しの一句と思われる。 また、其一2-8で単なる知識ではなく「実践できる知恵」を将軍に身につけさせることの重要性を説いた上で「戦略、戦術の計画を考察する役目」を願い出ているため、将軍の教育係を担うことを主張していると推察する。この解釈は解読文②以降より適当と判断できる。 蛇足だが、孫子兵法の概要が主たる解読文①で記述されて、その要点が解読文②以降に上手くまとめられていることから、計篇は孫武から呉王に向けたプレゼン資料だったと考えることもできる。 <②について> ・「之」の“彼ら”は、孫武の指導によって優れた将軍を目指す者達と考察。その者達は、現役の将軍だけでなく、将軍を目指す武将達も含まれると推察して「武将達」と解読した。③④⑧も同様に解読。 <③について> ・「考察して詳しく聞くだろう」の「考察」の重要性は、其一4-1③「私の考えを考察して、敵を打ち破ろうとする考えに変わる者を引き止める隊長を将軍に任用すれば、自軍は、敵よりも優勢な軍隊になると断定する」等で記述されている。 <④について> ・「勝」の“越える”は、其一6-1②「勝」の「自軍の権勢が敵軍を越える」の意味を積み上げていると考察し、「自軍の権勢が敵軍を越える」と解読。⑤⑧も同様に解読。 <⑤について> ・「観」の“観賞する”事柄は、戦略、戦術の計画を実行していく様子と考察し、「その様子を」と補った。そして、続く「之」の“ある地点や事情に達する”の意味より、この観賞する“立場”になったのであり、この“立場”は将軍だと考察した。以降⑦まで、②③④「武将達」は、将軍になったものとして解読する。 <⑥について> ・「負」の“過失”は、戦略、戦術の計画に関する過ちと考察し、「計画の過ち」と解読。 ・「勝」の“持ち堪える”事柄は、「計画の過ち」によって陥った局面と考察し、「局面」と補った。 <⑦について> ・「観」の“眺め”は、将軍の眺めであり、兵士達が戦っている戦場と解釈できる。また、話の流れは「計画の過ち」によって局面が劣勢になっているため、「観の之く」で「局面が優勢に変わる」と解読した。 ・「吾」の“防御する”は、劣勢になった局面を優勢に変えて防ぐことであるため、わかりやすく「乗り切る」と言い換えた。 ・「局面が優勢に変わる戦略、戦術の計画を採用」に関する参考の記述を二つ挙げておく。其一4-2④「私の戦略、戦術を大いに考察する将軍は、私の戦略、戦術を直面している戦況に上手く適合させることを必ず実行し、敵軍を恐れ震えさせて撤退させる」とあり、「戦略、戦術を直面している戦況に上手く適合させること」が将軍には求められており、「戦略、戦術を直面している戦況に上手く適合させること」ができるからこそ、劣勢になった局面を優勢に変えることができると解釈できる。 また、其九5-1④「将軍は大いに戦況が一致する過去の戦争事例から未来を予測するうえに、さらに過去の勝ち戦を大いに鑑定し、その勝ち戦を恭しく細部まで再現することを決行する」とあることから、「戦略、戦術」の「お手本=法」は「過去の戦争事例」にあることがわかる。つまり、自分自身の打開策を考え出すのではなく、「過去の戦争事例」を「戦略、戦術を直面している戦況に上手く適合させること」が将軍に求められていると推察。 最後に、其十一1-6②「周到に行き届いて指導する将軍は諸侯が仰ぎ頼る存在となるが、あらゆる事柄に対して命令を出す方法を具備して学習させた時、諸侯を驚き恐れさせるのである」の記述より、将軍は戦争が始まる前に「あらゆる事柄に対して用意周到」に準備しているため、「計画の過ち」が生じた場合の対策も考えておくのだとわかる。 <⑧について> ・特に無し。 |