千里にして而は糧を饋れば、則ち内の費えを外す。客に之いて賓とする用、膠と漆の財、車と甲の奉、日に千金なり。然る後に十万の師は挙げる矣。

其二1-2

千里而饋糧、則外内之費。賓客之用、膠漆之財、車甲之奉、日千金、然後十萬之師舉矣。

qiān lǐ ér kuì liáng、zé waì neì zhī fèi。bīn kè zhī yòng、jiāo qī zhī caí、chē jiǎ zhī fèng、rì qiān jīn、rán hòu shí wàn zhī shī jŭ yǐ。

解読文

①千里先の敵国に将軍が兵糧を輸送すれば、国内の財貨を失う。その内訳は、訪問客に対して賓客の礼をもって対応する費用、接着剤や塗料の材料、荷車の操縦士と鎧を着た兵士の俸禄、一日に千金が必要である。そうしてやっと大軍十万を扶養するのである。

②兵糧を納付させるお手本を疎んじて、千里先の敵国で自軍の兵士達が食事を取れば軍隊は消耗した状態に至る。敵軍を服従させても元敵兵達が力を尽くすのは本心を隠した偽りであるため、いずれ自国に仕返しする覚悟に変わるのであり、指揮官が戦車の操縦士と親しくすれば必ず毎日金銭の世話をするのである。そうした末に大軍十万が十分の一に減れば、諸侯の大軍十万が進攻してくるのである。

③数多くの敵里から自軍に兵糧を送り届けさせるお手本は、敵里を敵国から寝返らせて自軍が統治することであり、自国に仕返ししようとする敵人民は国費を使って礼遇することで服従させて、本心を隠した偽りの態度を定着させて自国に仕返しする感情を消す処置を行い、一日に千金を使って養うのである。そうして将来は自軍の操縦士や鎧を着た兵士に変わる。猛獣の獅子のように荒々しい敵人民であっても扶養すれば大軍十万の一員に変わるのである。

④自軍から数多くの貧しい敵里に食糧を与えるお手本を疎んじれば、敵里の人民達の心が離れ、敵軍の来襲に対して力を尽くして服従していても、自国に仕返しする覚悟に変わって、自軍の操縦士や鎧を着た兵士の首をはねることになる。そうした末に一日に千金を使って敵里の人民を養おうとしても、大軍十万が十分の一に減ることになり、軍師は検挙されるのである。
書き下し文
①千里にして而(なんじ)は糧(かて)を饋(おく)れば、則ち内の費(つい)えを外(はず)す。客(かく)に之(お)いて賓とする用、膠(にわか)と漆(うるし)の財、車と甲(こう)の奉(ほう)、日に千金なり。然(しか)る後に十万の師(し)は挙げる矣(なり)。

②糧(かて)を内(おさ)めしむ則(そく)を外(はず)して、千里にして而(なんじ)は饋(き)せば費やすことに之(いた)る。客(かく)を賓(したが)わせしむも之の用いることは漆(うるし)して膠(こう)なるに財(た)つことに之(ゆ)くなり、之は車に甲(な)れれば千に日に金を奉ずるなり。然(しか)して後に万(よろづ)は十に之(ゆ)けば、師(し)挙がる矣(なり)。

③千(ちぢ)なる里の而(なんじ)に糧(かて)を饋(おく)れしむ則(そく)は、外(はず)せしめて内(い)れるなり、費(さか)らわんとする之は用を之(もち)いて客(かく)として賓(したが)わせしめて、漆(うるし)して膠(かた)きに之(いた)らしむこと財(さば)き、日に千金を奉(ほう)じるなり、然(しか)して後に車と甲(こう)に之(ゆ)く。師(し)も挙げれば十万に之(ゆ)く矣(なり)。

④而(なんじ)は千(ちぢ)なる里に糧(かて)を饋(おく)る則(そく)を外(はず)せば、之の内は費(さか)らい、客(かく)に之(お)いて用いて賓(したが)うも、膠(こう)なる漆(うるし)は之(ゆ)きて、車と甲(こう)を財(た)つに之(いた)る。然して後に日に千金を奉(ほう)ぜんとするも、万(よろづ)は十に之(ゆ)き、師(し)は挙げられる矣(なり)。
<語句の注>
・1つ目の「千」は①②数の名、③④非常に数が多いさま、の意味。
・「里」は①②長さの単位、③④住民の集落(里)、の意味。
・「而」は①②③④あなた、の意味。
・「饋」は①(食物などを)送り届ける、②食事をとる、③(食物などを)送り届ける、④食物や金品を与える、の意味。
・「糧」は①②③④食糧、の意味。
・「則」は①~ならば、②③④模範、の意味。
・「外」は①除去する、②疎んじる、③離背する、④疎んじる、の意味。
・「内」は①内部、②(物や税などを)納付する、③(人などを内部へ)引き入れる、④心、の意味。
・1つ目の「之」は①助詞「の」、②ある地点や事情に達する、③④彼ら、の意味。
・「費」は①財貨、②消耗する、③④背く、の意味。
・「賓」は①賓客の礼をもって対応する、②③④服従する、の意味。
・「客」は①訪問してきた人、②外来の敵軍、③礼遇する、④外来の敵軍、の意味。
・2つ目の「之」は①対して、②彼ら、③使う、④対して、の意味。
・「用」は①経費、②力を尽くす、③経費、④力を尽くす、の意味。
・「膠」は①動物の皮や骨を煮出して作った接着剤、②いつわりのさま、③しっかり固定されたさま、④いつわりのさま、の意味。
・「漆」は①漆の木の樹液から作った黒褐色の塗料、②③漆を塗る、④漆の木の樹液から作った黒褐色の塗料、の意味。
・3つ目の「之」は①助詞「の」、②変わる、③ある地点や事情に達する、④変わる、の意味。
・「財」は①材料、②首をはねる、③処置する、④首をはねる、の意味。
・「車」は①②③④車を操縦する人、の意味。
・「甲」は①鎧を着た兵士、②親しくする、③④鎧を着た兵士、の意味。
・4つ目の「之」は①助詞「の」、②彼、③変わる、④ある地点や事情に達する、の意味。
・「奉」は①俸禄、②世話する、③④養う、の意味。
・「日」は①一日、②毎日、③④一日、の意味。
・2つ目の「千」は①数の名、②必ず、③④数の名、の意味。
・「金」は①②③④銭、の意味。
・「然」は①「然後」で“そうしてやっと”、②③④そうして、の意味。
・「後」は① 「然後」で“そうしてやっと”、 ②末、③将来、④末、の意味。
・「十」は①数の名、②十分の一、③数の名、④十分の一、の意味。
・「万」は①数の名、②極めて多い、③数の名、④極めて多い、の意味。
・4つ目の「之」は①助詞「の」、②③④変わる、の意味。
・「師」は①②軍隊、③猛獣のシシ、④軍師、の意味。
・「挙」は①扶養する、②行動を起こす、③扶養する、④検挙する、の意味。
・「矣」は①②③④必然的な判断の語気、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「千里而饋糧、則外内之費。賓客之用、膠漆之材、車甲之奉、日千金、然後十萬之師舉矣。」と「財」が「材」になっており、「日」の後に「費」が入るが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
なお、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」は、「日千金」以降、「◇內◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇、然後十萬之師舉矣。」と記述されており、15文字欠落と推察。欠落部分は明らかにできないため、省略した。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「千里」は千里先の場所を指すが、侵略戦争における教えであるため、その場所は敵国です。そのため、「敵国」と補った。②も同様に補う。

・「馬車の操縦士と鎧を着た兵士の俸禄」は、輸送する荷車の操縦士とその荷車を護衛する兵士達に対する俸禄と考察。

<②について>
・「而」の“あなた”は、食事を取って兵糧を減らす者達であるため「自軍(の兵士達)」と解読。③④も同様に解読。

・「則」の“模範”は、其一2-7③「法」の「お手本」と同意と考察し、解読。③④も同様に解読。

・「漆」の“漆を塗る”は、黒色に塗りつぶすことで元々の色を隠すことになることから、「本心を隠す」ことの喩えであると考察。

・「財つことに之く」の直訳は“首をはねることに変わる”となる。話の流れに従えば、本心を隠している元敵兵がいずれ自国に復讐することとなり、其十三4-6④「自国に仕返しすることを心に覚えた元敵兵達」を指すと考察。仕返しする隙を伺うためにすぐには決行しないと思われるため、「いずれ」と補って「いずれ自国に仕返しする覚悟に変わる」と解読。

・4つ目の「之」の“彼”は、前後の記述に基づけば、其九4-5⑤「久しく等級が上にある特出した敵の指揮官は、直属の操縦士を慰労するのである」、其九4-5⑧「高尚な人格を汚すならば、従わせた指揮官直属の操縦士を駒として利用して特出した敵の指揮官を従わせる要因となるのである」で記述される「指揮官」と解読。

・「万」の“極めて多い”は、①「大軍十万」を指すと考察し、「大軍十万」と解読。④も同様に解読。

・「諸侯の大軍十万が進攻してくる」は、其二2-2①「軍隊が疲弊して勇猛果敢な気勢が打ち砕かれ、軍隊の勢いが尽き果てて財貨をことごとく出し尽くせば、すぐに多くの諸侯がこの機会を利用するのであり、敵となった諸侯は疲れ苦しむ自国に向けて軍隊を動員するだろう」に基づいて解読。

<③について>
・「敵里を敵国から寝返らせて自軍が統治」は、其七4-3①「敵里を奪い取れば多人数の正攻法部隊に割り当て、陣地を開拓して統治して兵糧と飼料を各部隊に配分するのであり、開拓した陣地を繋ぎ止めて全軍の権勢が生じれば、自軍が行動し始めた時、敵軍に危険を感じさせることができるのである」にある「敵里を奪い取れば多人数の正攻法部隊に割り当て、陣地を開拓して統治」と同意と考察。

・「費らわんとする之」の直訳は“背こうとする彼ら”となる。これは②「自国に仕返しする覚悟に変わる元敵兵」であり、話の流れに合わせれば「自軍に仕返ししようとする(里の)敵人民」と解読できる。

・「漆」の“漆を塗る”は、②同様に、黒色に塗りつぶすことで元々の色を隠すことと解釈するが、ここでは塗りつぶした黒色が「膠」の“しっかり固定されたさま”の意味によって、漆が固定されて「隠した本心(自国に仕返しする覚悟)」が出てこないようにすることと考察。
これは、続く「財」の“処置する”の意味を合わせて考慮すると、其十三4-6⑤「この信念や理想のために命を捨てる元敵兵達は自国に仕返しすることを許さずに自国内で生活させるのである」、其十三4-6⑥「信念や理想のために命を捨てる元敵兵達を自国内で生活させて、大いに年貢等を免除する利点を繰り返せば自国に仕返しする感情が消えるのである」の過程を経ること考察できる。結果、「漆して膠きに之らせしむこと財く」で「本心を隠した偽りの態度を定着させて自国に仕返しする感情を消す処置を行う」と解読。

・「師」の“猛獣のシシ”は、自国に仕返しする感情を持った荒々しい敵人民を喩えた表現と解釈。結果、「猛獣の獅子のように荒々しい敵人民」と解読。

<④について>
・「自軍から数多くの貧しい敵里に食糧を与えるお手本」は、其十一1-7④「思いやりを持って町や村等の所得を豊かにし、城壁を築造した中小の都城を増やして自軍を優勢にする将軍は、大事な存在と見なすのである」等で記述される奪い取った敵里を豊かにして、自軍に従わせるお手本のことを指すと考察。結果、「貧しい」と補って解読した。

・1つ目の「之」の“彼ら”は、話の流れより「敵里の人民達」と解読。

・「膠なる漆は之く」は、これまで同様に「(元敵だった人民が)本心を隠す」ことの喩えである。この直訳は“偽りの漆は変わる”であり、本心を隠していた漆が剥がれて、態度が変わることと解釈できる。つまり、隠していた本心に敵里の人民が従う状態を指すと考察し、「自国に仕返しする覚悟に変わる」と解読。

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