其の戦いに用いて、勝つも久しくすれば則ち頓れる兵は、鋭は挫けるなり、城を攻めれば則ち力は屈きるなり、久しく師を暴さば則ち国の用は足らず。

其二2-1

其用戰、勝久則頓兵、挫銳、攻城則屈力、久暴師則國用不足。

qí yòng zhàn、shèng jiŭ zé dùn bīng、cuò ruì、gōng chéng zé qū lì、jiŭ bào shī zé guó yòng bù zú。

解読文

①敵国との戦争に兵士達が力を尽くして、敵軍を抑えても長く戦地に留まるならば疲弊した軍隊は、勇猛果敢な気勢は打ち砕かれるのであり、城壁に囲まれた都市を武力で撃てば軍隊の勢いは尽き果てるのであり、長期間に渡って大軍十万を露営させれば国家の資力が不十分になる。

②敵軍が侵略戦争に力を尽くして自国を打ち破ろうとしても、敵軍を自国に長く引き止めるならば露営している敵軍は、選りすぐりの兵士達に城壁に囲まれた都市を武力で撃たせようとして失敗するのである。敵軍の勢いを押さえつける道理は、長期間に渡って敵軍を露営させてから自国内に敵軍を封じることであり、寝返らせて自国の人民に加えることに大いに力を尽くすのである。

③敵軍の資力を揺れ動かすのであり、敵軍が長く戦地に留まって持ち堪えようとすれば、その敵軍は、かえって敵国から不要と判断されて捨てられた軍隊となるのである。選りすぐりの兵士達は恥をかかされたのであり、その兵士達が自分達の国家を咎めるならば、国家のために尽力することを不当と思わせたのである。荒々しく自分達の国家を咎める敵兵達を自国内で長く留まらせるお手本を使って自国内に封じれば、その敵兵達を大いに満足させるのである。

④侵略戦争は敵里を経由して奪い取り、統治した敵里を長く引き止めるお手本で軍隊を整えて自軍の権勢を盛大にして、勇猛果敢な気勢が生じるのを待つのである。堅固な城壁に囲まれた都市を抑えつけるお手本に尽力し、荒々しく自分達の国家を咎める敵兵達を自国内で長く留まらせるお手本を使えば、自国を大いに奉らせて自国の人民に加えるのである。
書き下し文
①其の戦いに用いて、勝つも久しくすれば則ち頓(つか)れる兵は、鋭(えい)は挫(くじ)けるなり、城を攻めれば則ち力は屈(つ)きるなり、久しく師(し)を暴(さら)さば則ち国の用は足らず。

②其の戦いに用いて勝たんとするも、久しくすれば則ち頓(とど)まる兵は、鋭(えい)に城を攻めんとせしめて挫(くじ)けるなり。力を屈する則(そく)は、久しく師(し)を暴(さら)せしめば則ち国して、足(た)すことに不(おお)いに用いるなり。

③其の用を戦(そよ)げしむなり、久しくして勝(た)えんすれば則ち頓(す)てられる兵たるなり。鋭(えい)は挫(くじ)かるなり、城を攻めれば、則ち力(つと)めること屈するなり。暴(あら)き師(し)に久しくせしむ則(そく)を用いて国すれば、不(おお)いに足らせしむなり。

④戦いは其の用(よ)りて、久しくする則(そく)に兵を頓(ととの)えて勝(しょう)たりて、鋭(えい)あること挫(ざ)するなり。攻(かた)き城を屈する則(そく)に力(つと)め、暴(あら)き師(し)に久しくせしむ則(そく)を用いれば、国を不(おお)いに用いらせしめて足すなり。
<語句の注>
・「其」は①②③④敵の代名詞、の意味。
・1つ目の「用」は①力を尽くす、②力を尽くす、③資力、④経由する、の意味。
・「戦」は①②戦争、③揺れ動く、④戦争、の意味。
・「勝」は①抑える、②敵を打ち破る、③持ち堪える、④盛大な、の意味。
・1つ目の「久」は①長くとどまる、②長く引き止める、③長くとどまる、④長く引き止める、の意味。
・1つ目の「則」は①②~ならば、③かえって、④模範、の意味。
・「頓」は①くたびれるさま、②宿る、③不要としてほうる、④整える、の意味。
・「兵」は①②③④軍隊、の意味。
・「挫」は①打ち砕かれる、②失敗する、③はずかしめる、④待つ、の意味。
・「鋭」は①勇猛果敢な気勢、②③選りすぐりの兵士、④勇猛果敢な気勢、の意味。
・「攻」は①②武力で相手を撃つ、③咎める、④堅固なさま、の意味。
・「城」は①②都市(都市はその全域を城壁で囲んでいる)、③国、④都市(都市はその全域を城壁で囲んでいる)、の意味。
・2つ目の「則」は①~ならば、②道理、③~ならば、④模範、の意味。
・「屈」は①尽き果てるさま、②抑えつける、③不当と思わせる、④抑えつける、の意味。
・「力」は①②勢い、③④尽力する、の意味。
・2つ目の「久」は①②時間が長い、③④長くとどまる、の意味。
・「暴」は①②野外で雨風にさらす、③④荒々しい、の意味。
・「師」は①其二1-2①「師」、②軍隊、③④猛獣のシシ、の意味。
・3つ目の「則」は①~ならば、②~してから、③④模範、の意味。
・「国」は①独立した国家、②③国に封じる、④独立した国家、の意味。
・2つ目の「用」は①資力、②力を尽くす、③使用する、④奉る、の意味。
・「不」は①無い、②③④大いに、の意味。
・「足」は①十分備わっているさま、②加える、③満足するさま、④加える、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「其用戰也、勝久則頓兵、挫銳、攻城則力屈、久暴師則國用不足。」と「戰」の後に「也」が入り、「屈力」は「力屈」と順番が入れ替わるが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「力」の“勢い”は、其一4-4①「埶」の「軍隊の勢い」と考察。

・「師」の“軍隊”は、其二1-2①「師」の「大軍十万」の意味を積み上げていると考察し、「大軍十万」と解読。

・「暴」の“野外で雨風にさらす”は、大軍十万が敵城を囲んでいる状況と解釈し、その軍隊の宿営を漢字の意味合わせて「露営させる」と解読した。②も同様に解読。

<②について>
・「敵軍が侵略戦争に力を尽くして自国を打ち破ろうとしても」は、①とは逆に敵国が自国に侵略戦争を仕掛けてきた記述として解読。

・「頓」の“宿る”は、①「暴」を“露営させる”とした解読文に合わせて「露営する」と解読。

・「露営している敵軍は、選りすぐりの兵士に城壁に囲まれた都市を武力で撃たせようとして失敗する」は、長期間に渡って露営したことで弱体化して切羽詰まった敵軍が短期間で勝敗を決するため、又は城壁に囲まれた都市を攻め落として軍隊の勢いを回復させようとして、強引に城壁に囲まれた都市を攻め落とそうとするのだと解釈できる。

・「力」の“勢い”は、其一4-4①「埶」の「軍隊の勢い」と考察。但し、ここでは敵軍が自国に侵略戦争を仕掛けている内容であるため「敵軍の勢い」と解読。

・「足すこと」の直訳は“足すこと”であり、これは長期間に渡って自国内で露営したことで弱体化した敵軍を、寝返らせて自国の人民にすることと解釈できる。結果、「寝返らせて自国の人民に加えること」と解読。
なお、この記述は其二4-2①「敵に勝ちて而は強を益す」の「敵を抑えて自軍の強大さが増加する」に繋がると考察。

<③について>
・「その敵軍は敵国から不要と判断されて捨てられる」は、自国内で弱体化した敵軍に対して、敵国が救出する援軍を送らずに見捨てることと考察。

・「国家のために尽力することを不当と思わせた」は、自国が②「長期間に渡って敵軍を露営させてから自国内に敵軍を封じた」結果、敵兵達に思わせたことであり、②「寝返らせて自国の人民に加えること」を実現しやすくしたのだと考察。

・「師」の“猛獣のシシ”は、国家から見捨てられて自分達の国家を咎める兵士達を指すと考察し、「自分達の国家を咎める敵兵達」と解読。④も同様に解読。

・「敵兵達を自国内で長く留まらせるお手本」とは、其十三4-6⑤「この信念や理想のために命を捨てる元敵兵達は自国に仕返しすることを許さずに自国内で生活させるのである」、其十三4-6⑥「信念や理想のために命を捨てる元敵兵達を自国内で生活させて、大いに年貢等を免除する利点を繰り返せば自国に仕返しする感情が消えるのである」を指すと考察。其十三4-6では簡単には自国に服従しない「信念や理想のために命を捨てる元敵兵」が対象となっており、それでも“年貢等を免除する利点を繰り返せば、自国に仕返しする感情が消える”とある。一方、この其二2-1③「荒々しく自分達の国家を咎める敵兵達」は、自分達の国家に見捨てられて咎めているため容易く自国に服従するのだと考察できる。④も同様に解釈して解読。
なお、「荒々しく自分達の国家を咎める敵兵達」を大いに満足させる理由は、「年貢等を免除する利点」にある。

<④について>
・孫子兵法は主に侵略戦争を成功させる教えとしてまとめられており、「用」には“経由する”意味があることから、其七3-3①「都市以外の敵里を経由して治めない将軍は、陣地を手に入れることを利点と思うことができない」に関連する記述とわかる。この経由していく里は、汙直の計を用いて陣地として奪い取って統治していく記述が軍争篇にあり、その概略は其七4-3①「敵里を奪い取れば多人数の正攻法部隊に割り当て、陣地を開拓して統治して兵糧と飼料を各部隊に配分するのであり、開拓した陣地を繋ぎ止めて全軍の権勢が生じれば、自軍が行動し始めた時、敵軍に危険を感じさせることができるのである」でまとめられている。これに基づいて「戦いは其の用る」は「侵略戦争は敵里を経由して奪い取る」と解読。

・「統治した敵里を長く引き止めるお手本」とは、其十一3-3⑤「下働きの者達の疲れを取る将軍は、楽しませる礼法の儀式を計画するのである。おそらく、演奏に合わせて武器を回転させながら舞って大いに国政を害して民衆に危害を加える反逆者を改心させる儀式をすれば、停滞していた雰囲気を払拭して、敵人民は穀物を山のように蓄えることに尽力するだろう」等、其十一3-3で記述される教えと考察。なお、関連する教えは、これ以外の句にも記述されているが代表例として其十一3-3を掲載した。

・「勝」の“盛大な”は、其七4-3①や其十一3-3の教えを実行したことによって侵略した自軍の権勢を盛大にしていく内容と考察し、「自軍の権勢を盛大にする」と解読。

・「堅固な城壁に囲まれた都市を抑えつけるお手本」とは、其十一7-8②「敵里等を奪い取って陣地にする時は、必ず城壁に囲まれた敵都市を陣地で封じなければならないのであり、陣地にした敵里等に城壁を築造して対峙して墜落させるのである」、其十一7-8④「急いで敵里等を陣地にする戦略を実行する時は、敵軍を敵国に封じた状態で敵将軍を驕らせなければならないのであり、城壁に囲まれた敵都市も同様に、敵武将を怠惰にさせるのである」等の教えを指すと考察。

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