師に国を貧に之らせしむ者は、遠ざかりて遠に輸れしむ者なり。遠ざかりて遠に輸れしむ者は、則ち百姓は貧し。

其二3-5

國之貧於師者、遠者遠輸。遠者遠輸、則百姓貧。

guó zhī pín yú shī zhě、yuǎn zhě yuǎn shū。yuǎn zhě yuǎn shū、zé bǎi xìng pín。

解読文

①兵糧を輸送するお手本に従って国家を困窮した状態に至らせる将軍は、敵国の町、村、里、集落に近づかず、遠方の国まで兵糧を輸送させる者である。敵国の町、村、里、集落に近づかず、遠方の国まで兵糧を輸送させる将軍は、すぐに多くの人民が財産や衣食に欠乏する。

②敵人民が自軍の占領を許すお手本に従って困窮している敵国の町、村、里、集落に赴く将軍は、気持ちが通じ合う諸侯に知らせて敵軍の進路を妨害するものである。気持ちが通じ合う諸侯に知らせて敵国の町、村、里、集落を奪い取れば、姓を持った敵国の有力者の多くが困窮した状態になる道理である。

③財産や衣食に欠乏している敵国の町、村、里、集落が豊かに変わる時は産物をつくる技能に優れた者が存在するが、敵人民が技能に優れた者を避ければ長期間に渡って産物をつくる技能を捧げる。長期間に渡って産物をつくる技能を捧げる優れた者を疎遠にするならば、多くの人民は学問や能力が乏しいのである。

④陣地にした町、村、里、集落において、学問や能力が乏しい敵人民を尊び従わせて治める将軍は、自軍を疎遠にする敵人民の年貢等を免除するのである。年貢等を免除するならば、財産や衣食が欠乏している多くの人民を敵国から寝返らせるのである。
書き下し文
①師(し)に国を貧に之(いた)らせしむ者は、遠ざかりて遠に輸(おく)れしむ者なり。遠ざかりて遠に輸(おく)れしむ者は、則ち百姓は貧し。

②師(し)に貧しき国を之(ゆ)く者は、遠に輸(いた)して遠ざける者なり。遠に輸(いた)して遠ざける者は、百なる姓あるものを貧たる則(そく)なり。

③貧しき国の之(ゆ)くに師たる者に於(お)いてするも、遠ざかれば遠く輸(いた)す。遠く輸(いた)す者を遠ざければ、則ち百姓は貧しきなり。

④貧しき之を師(したが)わせしむを於(な)して国する者は、遠ざける者に輸(いた)せしむこと遠ざかるなり。輸(いた)せしむこと遠ざかれば、則ち貧しき百姓を遠ざけしむなり。
<語句の注>
・「国」は①独立した国家、②③地区、④国を治める、の意味。
・「之」は①ある地点や事情に達する、②赴く、③変わる、④彼ら、の意味。
・1つ目の「貧」は①困窮した状態、②困窮したさま、③④財産や衣食に欠乏するさま、の意味。
・「於」は①②~に従って、③在る、④~である、の意味。
・「師」は①②模範、③工芸・技術などに優れた技能のある人への呼称、④尊び従う、の意味。
・1つ目の「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・1つ目の「遠」は①近づかない、②疎遠にする、③避ける、④疎遠にする、の意味。
・2つ目の「者」は①②助詞「もの」、③仮定表現の助詞、④助詞「もの」、の意味。
・2つ目の「遠」は①②遠方の国、③時間が長い、④避ける、の意味。
・1つ目の「輸」は①運送する、②知らせる、③捧げる、④税金を納める、の意味。
・3つ目の「遠」は①近づかない、②③④疎遠にする、の意味。
・3つ目の「者」は①②③助詞「もの」、④仮定表現の助詞、の意味。
・4つ目の「遠」は①②遠方の国、③時間が長い、④避ける、の意味。
・2つ目の「輸」は①運送する、②知らせる、③捧げる、④税金を納める、の意味。
・「則」は①すぐに、②道理、③④~ならば、の意味。
・「百」は①「百姓」で“多くの人民”、②多くの、③④「百姓」で“多くの人民”、の意味。
・「姓」は①「百姓」で“多くの人民”、②家族の系統の標識となる称号、③④「百姓」で“多くの人民”、の意味。
・2つ目の「貧」は①財産や衣食に欠乏するさま、②困窮した状態、③学問や能力が乏しい、④財産や衣食に欠乏するさま、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「師」の“模範”は、其二1-2①「千里先の敵国に将軍が兵糧を輸送すれば、国内の財貨を失う。その内訳は、訪問客に対して賓客の礼をもって対応する費用、接着剤や塗料の材料、荷車の操縦士と鎧を着た兵士の俸禄、一日に千金が必要である。そうしてやっと大軍十万を扶養するのである」を指すと考察。結果、「兵糧を輸送するお手本」と解読。

・1つ目と3つ目の「遠」の“近づかない”対象は、其二3-4②「敵国の町、村、里、集落を経由して奪い取る」ことをしないと考察。つまり、陣地を広げていく軍争を放棄していると言える。結果、「敵国の町、村、里、集落に近づかない」と解読。

<②について>
・「国」の“地区”は、其一2-5④「」の”地区“と同意であり、汙直の計によって自国の陣地にし、統治していく「敵国の町、村、里、集落」と解読。つまり、①「敵国の町、村、里、集落」である。③も同様に解読。

・「師」の“模範”は、其二3-4②「敵国の町、村、里、集落が衰えているならば、敵国から奪い取って陣地にした時、その敵人民に食事を与えれば、満足して自軍の占領を許すのである」等と考察。結果、「敵人民が自軍の占領を許すお手本」と解読。

・1つ目と3つ目の「遠」の“疎遠にする”は、「敵国の町、村、里、集落」が汙直の計によって陣地にしていく対象であることから、其七1-2②「先を争って敵里に陣取る将軍は、気持ちが通じ合う諸侯に文書を届けて分岐路にある瞿地に布陣させ、敵軍の進路を妨害してその前進を制止するのであり、敵将軍を思い悩ませて留まらせた状態で順調に敵里を奪い取って統治し、多くの陣地を手に入れるのである」に基づいて、「町、村、里、集落」を守ろうとする敵軍の進路を妨害することと考察。結果、「敵軍の進路を妨害する」と解読した。

・1つ目の「遠」が「敵軍の進路を妨害する」意味と解読すれば、2つ目の「遠」の“遠方の国”とは、協力を求める「諸侯」と解釈できる。
さらに、1つ目の「輸」の“知らせる”と合わせて「諸侯に知らせる」と解釈でき、この知らせる方法については其十一1-4②「自軍が上手くいく筋道と利益で誘う内容もまた文書に書く将軍は、気持ちが通じ合う諸侯の軍隊を分岐路にある瞿地に布陣させて、敵軍の進路を妨害してその前進を制止するのであり、先を争って敵里に陣取るのである」と記述がある。結果、簡潔に「気持ちが通じ合う諸侯に知らせる」と解読した。

・「姓」の“家族の系統の標識となる称号”は、主に国家に貢献した家族に与えれ、その人物は限られたと推察して「(敵国の)有力者」と解読。「有力者」の支配下に「敵国の町、村、里、集落」があっと推察できるため、「敵国の町、村、里、集落」を奪い取っていけば「姓を持った敵国の有力者の多くが困窮した状態になる道理」が働くのだと考察できる。

・「姓を持った敵国の有力者の多くが困窮した状態になる道理」の解釈に基づけば、3つ目の「遠」の“疎遠にする”は、「敵国の町、村、里、集落」を有力者から遠ざけることと考察できる。解読文は簡潔に「敵国の町、村、里、集落を奪い取る」と解読した。

<③について>
・「之」の“変わる”は、「財産や衣食に欠乏している敵国の町、村、里、集落」が変わるのであり、其二3-4②「敵国の町、村、里、集落が衰えているならば、敵国から奪い取って陣地にした時、その敵人民に食事を与えれば、満足して自軍の占領を許すのである」に基づけば、「豊かに変わる」と解読できる。

・「師」の“工芸・技術などに優れた技能のある人への呼称”は、其十二1-1④「全ての人民を極めて栄えさせる要旨は、産物をつくる技能に優れた者を、必ず自国に従わせた元敵里に住ませて、元敵人民を産物の生産に励み努力させることで財貨を生み出すからである」の「産物をつくる技能に優れた者(=師)」と同意と考察。

・1つ目の「輸」の“捧げる”は、「産物をつくる技能に優れた者」自身を捧げると解釈しても良いが、回りくどい文章になるため恩恵だけに着眼して「産物をつくる技能を捧げる」と解読。

<④について>
・「之」の“彼ら”は、③「百姓」の「(学問や能力が乏しい)多くの人民」を指示する代名詞と解釈。ここでは話の流れに合わせて「(陣地にした町、村、里、集落の)敵人民」と解読。

・二つの「輸せしむこと遠ざかる」の直訳は“税金を納めさせることを避ける”である。これは、其十三4-6③「生け捕りにしても融通性がない敵兵が存在すれば、大いに年貢等を免除して考え方を改めさせる」にある「年貢等を免除する」ことと解読。

・3つ目の「遠」の“疎遠にする”は、「年貢等を免除する」ことで「敵国の町、村、里、集落の人民」を敵国から疎遠にして自国に従わせることであるため、わかりやすく「自国に寝返らせる」ことと解読。

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