其二5-2
故知兵之將、民之司命、國之安危之主也。
gù zhī bīng zhī jiāng、mín zhī sī mìng、guó zhī ān weī zhī zhǔ yĕ。
解読文
①災いを理解して戦争に赴く将軍は、人民の生活を偵察して、国家に対して、どこに危害を与える災いがあるかを主張するのである。 ②将軍は、災いに繋がる原因があると感じれば、役人に命じて人民が生活する町、村、里、集落で従事させて治めるに至り、リーダーとなって物事を処理する役人を配置して災いに繋がる原因を正すのである。 ③リーダーとなって物事を処理する役人は、人民の生活を支える職務を主管し、災いする人民と交流して馴染みになり、危害を与えようとする自国に仕返ししたい人民を町、村、里、集落に封じるに至るのである。 ④人民が生活する町、村、里、集落に赴き、人民の生計を偵察して扶養すれば、自国に仕返ししたい人民が自国に順応する道理である。危険と思う自国に仕返ししたい人民は、養うことで自国に宿らせるのである。 ⑤自国に順応させる道理によって人民が生活する町、村、里、集落を治める役人は、自国に仕返ししたい人民を服従させて、主管する人民の名簿に記録するのであり、人民の名簿を重要視してきちんと運用すれば国家は平穏になるのである。 ⑥常日頃から人民の名簿を記録すれば、役人は無事に町、村、里、集落を維持するに至り、戦争に赴く将軍と交流する時には、役人が危険と思う自国に仕返ししたい人民を主張するのである。 ⑦将軍が、自国に仕返ししたい人民を識別する理由は、人民が生活する町、村、里、集落に赴いて、どこに自国に仕返ししたい人民がいるかを重要視して、人民の名簿を継承して使用することにある。 ⑧だから、自国に仕返ししたい人民が存在することを理解している将軍は、町、村、里、集落に自国に仕返ししたい人民を封じて落ち着かせ、人民の名簿を主管する役人にきちんと運用させるのであり、将軍はこの名簿を使って軍隊を統率するのである。 |
書き下し文
①故を知りて兵に之(ゆ)く将は、民の命(めい)を司(うかが)いて、国に之(お)いて、安(いず)くにか危(あや)うくする之あるかを主とするなり。 ②兵するに之(いた)る故(ゆえ)ありと知れば、司(つかさ)に命じて民の将(しょう)に之(もち)いて国するに之(いた)り、主(つかさど)るものを安んじて之を危(たか)くするなり。 ③主(つかさど)るものは、民の命(めい)を将(たす)けること司(つかさど)り、兵する之と知りて故たり、危(あや)うくせんとする之を安んじて国するに之(いた)るなり。 ④国に之(ゆ)きて民の命(めい)を司(うかが)いて将(やしな)えば、兵する之は知(い)える故なり。危(あや)ぶむ之は、安んじて主とせしむなり。 ⑤故に知るものは兵する之を将(したが)わせしめ、司(つかさど)る民の命を之(もち)いるなり、之を主として危(たか)くすれば国は安きに之(いた)るなり。 ⑥故(もと)より、民の命(めい)を之(もち)いれば、司(つかさ)は安くして国するに之(いた)り、兵の将と知るに、危(あやぶ)む之を主とするなり。 ⑦将の兵する之を知る故(ゆえ)は、国に之(ゆ)きて安(いず)くにか危(あや)うくせんとする之あるかを主として、民の命(めい)を司(つ)ぎて之(もち)いればなり。 ⑧故に、兵する之あること知る将は、之を国して安んじ、民の命(めい)を司(つかさど)る之に危(たか)くせしむなり、之(もち)いて主(つかさど)るなり。 |

<語句の注>
・「故」は①災い、②原因、③馴染み、④⑤道理、⑥常日頃、⑦理由、⑧だから、の意味。 ・「知」は①理解する、③感じる、③交わる、④病気が治る、⑤司る、⑥交わる、⑦識別する、⑧理解する、の意味。 ・「兵」は①戦争、②③④⑤災いする、⑥戦争、⑦⑧災いする、の意味。 ・1つ目の「之」は①赴く、②ある地点や事情に達する、③④⑤彼ら、⑥赴く、⑦⑧彼ら、の意味。 ・「将」は①将軍、②傍、③支える、④養う、⑤服従する、⑥⑦⑧将軍、の意味。 ・「民」は①②③④⑤⑥⑦⑧庶民、の意味。 ・2つ目の「之」は①助詞「の」、②使う、③助詞「の」、④変わる、⑤使う、⑥⑦使う、⑧彼、の意味。 ・「司」は①偵察する、②役人、③職務を主管する、④偵察する、⑤職務を主管する、⑥役人、⑦継承する、⑧職務を主管する、の意味。 ・「命」は①生活、②指示する、③生活、④生計、⑤⑥⑦⑧名簿、の意味。 ・「国」は①独立した国家、②国を治める、③国に封じる、④地区、⑤独立した国家、⑥国家として維持する、⑦地区、⑧国に封じる、の意味。 ・3つ目の「之」は①対して、②③ある地点や事情に達する、④赴く、⑤⑥ある地点や事情に達する、⑦赴く、⑦⑧代名詞、の意味。 ・「安」は①どこに、②配置する、③なだめる、④養う、⑤平穏なさま、⑥無事であるさま、⑦どこに、⑧落ち着かせる、の意味。 ・「危」は①危害を与える、②正しくする、③危害を与える、④危険と思う、⑤きちんとする、⑥危険と思う、⑦危害を与える、⑧きちんとする、の意味。 ・4つ目の「之」は①②③④⑤⑥代名詞、⑦彼ら、⑧使う、の意味。 ・「主」は①主張する、②③リーダーとなって物事を処理する、④宿る、⑤重要視する、⑥主張する、⑦重要視する、⑧統率する、の意味。 ・「也」は①②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。 |
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「故知兵之將、民之司命、國家安危之主也。」と「之」を「家」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。 ・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。 <①について> ・4つ目の「之」は、「故」の「災い」を指示する代名詞と解読。 <②について> ・「民の将」の直訳は“庶民の傍”となる。これは人民の生活を偵察して災いに繋がる原因を発見した結果、人民の居住する地区に役人を派遣して治める文意と考察できるため、其一2-5④「地」の「敵国の町、村、里、集落」から類推すれば、統治している「自国の町、村、里、集落」と推察できる。なお、「自国の町、村、里、集落」とは、元々から「自国の町、村、里、集落」である場合に限らず、敵国から奪い取って統治している場合もある。「災いに繋がる原因」が生じることから、其二1-2③「自国に仕返ししようとする敵人民は国費を使って礼遇することで服従させて、本心を隠した偽りの態度を定着させて自国に仕返しする感情を消す」から「自国に仕返ししようとする元敵人民」が存在すると類推できるため、この解釈は適当と判断した。結果、「民の将」は「人民が生活する町、村、里、集落」と解読した。 ・4つ目の「之」は、「故」の「災いに繋がる原因」を指示する代名詞と解読。 <③について> ・1つ目の「之」の“彼ら”は、①②「人民」の中でも災いの原因となる者達を指すと考察。但し、解読文では形容詞によって対象者が限定されるため、そのまま「人民」とする。 ・「国」の“国に封じる”の“国”は、②「人民が生活する町、村、里、集落」を指すと考察し、「町、村、里、集落」と置き換えた。⑧も同様に解読。 ・4つ目の「之」は、1つ目の「之」の「災いする人民」を指示する代名詞と考察できるが、「国」の“国に封じる”意味より、②「解読の注」で類推した「自国に仕返ししようとする元敵人民」と同意と考察。結果、「自国に仕返ししたい人民」と解読。 <④について> ・「国」の“地区”は、②「人民が生活する町、村、里、集落」と同意と解読した。⑦も同様に解読。 ・「兵する之」の直訳は“災いする彼ら”であり、③「自国に仕返ししたい人民」と同意と考察。⑤⑦⑧も同様に解読。 ・「知」の“病気が治る”は、③「自国に仕返ししたい人民」の“自国に仕返ししたい”感情が“病気”に該当し、考え方や態度が“治る”ことで自国への仕返しを考えなくなると考察した。結果、「自国に順応する」と解読。 ・4つ目の「之」は、1つ目の「之」の「自国に仕返ししたい人民」を指示する代名詞と解読。 <⑤について> ・「故」の“道理”は、④「人民が生活する町、村、里、集落に赴き、人民の生計を偵察して扶養すれば、自国に仕返ししたい人民が自国に順応する道理」の意味を積み上げていると考察し、「自国に順応させる道理」と解読。 ・「知るもの」の“司る者”は、②「役人に命じて人民が生活する町、村、里、集落で従事させて治める」、③「人民の生活を支える職務を主管(する役人)」で記述される「役人」と同意と考察。結果、「人民が生活する町、村、里、集落を治める役人」と解読。 ・4つ目の「之」は、「命」の「人民の名簿」を指示する代名詞と解読。 ・2つ目の「之」の“使う”は、「自国に仕返ししたい人民」を管理するために「人民の名簿」を使うこと考察し、「記録する」と解読した。⑥も同様に解読。 ・「名簿」は、其九5-4⑧「将来、兵士達の親類を名簿に登録すれば、下級役人が法規を守らなかった兵士への処分に使うならば大いに兵士達を任務に従事させることになり、大々的に施行すれば人民が恐れをなす働きがある」等で賞罰制度等に用いることや、人民の統制に有効であることが記述されている。 <⑥について> ・「国」の“国家として維持する”の“国”は、②「人民が生活する町、村、里、集落」を指すと考察し、「町、村、里、集落」と置き換えた。 ・4つ目の「之」は、④⑤1つ目の「之」の③「自国に仕返ししたい人民」を指示する代名詞と解読。 <⑦について> ・「危うくせんとする之」の直訳は“危害を与えようとする彼ら”となる。 これは、③「自国に仕返ししたい人民」と同意と考察した。 <⑧について> ・2つ目の「之」の“彼”は、⑤「人民が生活する町、村、里、集落を治める役人は、自国に仕返ししたい人民を服従させて、主管する人民の名簿に記録する」を指すと「役人」と解読。 ・3つ目の「之」は、1つ目の「之」の「自国に仕返ししたい人民」を指示する代名詞と解読。 ・「之いて主る」は“使って統率する”となる。この主語は「民の命」の「人民の名簿」であり、また統率するのは①「戦争に赴く」に基づけば「軍隊」とわかる。結果、「将軍はこの名簿を使って軍隊を統率する」と解読。 |
