謀を伐つ兵を故より上とし、其の次なるは交を伐るなり、其の次なるは兵に伐るなり。其れ、下るは城を攻めるなり。

其三2-1

故上兵伐謀、其次伐交、其次伐兵、其下攻城。

gù shàng bīng fá moú、qí cì fá jiāo、qí cì fá bīng、qí xià gōng chéng。

解読文

①敵将軍の考えている計画を破壊する戦略、戦術を最上とし、この次に良い戦略、戦術は敵の交流を断ち切るのであり、この次に良い戦略、戦術は敵軍に軍隊の勢いを比較させるのである。それなら、劣る戦略、戦術は城壁に囲まれた敵都市を武力で撃つことである。

②敵兵を殺害することを重視して敵軍を破壊する計画をすれば、敵軍は他国と行き来しやすい戦地「交地」に停留して自国と諸侯の交流を断ち切るのであり、続いて敵軍は、自軍を破壊して傷つけるのであり、たぶん堅固な城壁に囲まれた都市によって攻め落とすだろう。

③戦争が起こって戦略、戦術を施す時は敵将軍の考えていた計画を破壊するのであり、他国と行き来しやすい戦地「交地」に同盟を結んだ諸侯を停留させて敵と諸侯の交流を断ち切り、続いて敵軍に全軍の権勢を掲げて、敵国に降伏させることを巧みにこなす。

④敵将軍が可愛がる者と会合する場所で駐屯していることを自慢する随行者の近くにいる間者が敵将軍の可愛がる者を斬った時、その事件について敵将軍が咎めれば、城壁に囲まれた敵都市から離れる者が出現して災いとなるのである。可愛がる者を殺害して敵将軍の考えていた計画を破壊すれば、完全な状態に保つ上策を実現するのである。
書き下し文
①謀を伐つ兵を故(もと)より上とし、其の次なるは交を伐(き)るなり、其の次なるは兵に伐(ほこ)るなり。其れ、下(くだ)るは城を攻めるなり。

②故せしむこと上(たっと)びて兵を伐つを謀(はか)れば、其の次(やど)りて交を伐(き)るなり、次(つ)ぎて其の伐ちて兵せしめ、其れ攻(かた)き城に下さん。

③故ありて兵を上(くわ)えるに其の謀を伐つなり、次(やど)らせしめて其の交を伐(き)り、次ぎて其の兵に伐(ほこ)りて、城に下(くだ)らせしむこと攻(たく)みとす。

④其の交に次(やど)ること伐(ほこ)るものの次(じ)にあるものの伐(き)るに、其の攻めれば、城より下るものありて兵するなり。故に兵せしめて其の謀を伐てば上たり。
<語句の注>
・「故」は①特に、②死ぬ、③事変、④馴染み、の意味。
・「上」は①等級や品質が高い、②尊重する、③施す、④其三1-1「上」、の意味。
・1つ目の「兵」は①戦略、戦術、②軍隊、③戦略、戦術、④災いする、の意味。
・1つ目の「伐」は①②③④破壊する、の意味。
・「謀」は①計画、考え、②計画する、③④計画、考え、の意味。
・1つ目の「其」は①この、②③④敵の代名詞、の意味。
・1つ目の「次」は①次の、②③停留する、④駐屯する、の意味。
・2つ目の「伐」は①②③木などを切る、④自慢する、の意味。
・「交」は①②③交流、④会合する場所、の意味。
・2つ目の「其」は①この、②③④敵の代名詞、の意味。
・2つ目の「次」は①次の、②③第一位のあとに続く、④付近、の意味。
・3つ目の「伐」は①ひけらかす、②破壊する、③ひけらかす、④木などを切る、の意味。
・2つ目の「兵」は①軍隊、②傷つける、③軍隊、④災いする、の意味。
・3つ目の「其」は①それなら、②たぶん、③④敵の代名詞、の意味。
・「下」は①劣る、②攻め落とす、③降伏する、④離れる、の意味。
・「攻」は①武力で相手を撃つ、②堅固なさま、③巧みにこなす、④咎める、の意味。
・「城」は①②都市(都市はその全域を城壁で囲んでいる)、③国、④都市(都市はその全域を城壁で囲んでいる)、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「謀」は自軍の戦略、戦術によって破壊するものであり、“計略”の意味を採用して“敵の戦略、戦術”と解釈しても良いが、これでは曖昧でよくわからない。そこで「謀」の“計画”の意味に着眼すれば、“敵の戦略、戦術”とは具体的には“(戦略、戦術を成功させるための)敵の計画”を破壊することと考察できる。
さらに“敵の計画を破壊する”とは、其七6-1①「軍する将は心を奪う可し」の「敵全軍を統率する敵将軍からは考えていた計画を強制的に取るのが良い」を指すと考察できる。結果、「謀」は話の流れに合わせて「敵将軍の考えている計画」と解読。③④も同様に解読。

・「故より上」の直訳は“特に等級や品質が高い”となる。つまり、「敵将軍の考えている計画を破壊する戦略、戦術」を“最も良い”と評価しているのだと解釈できる。結果、「故より上」は「最上」と解読した。

・2つの「其の次なるは」は、1つ目の「兵」と「上」の記述が省略されていると考察。おそらく本来は「其の次なる上兵は」になると思われる。結果、「この次に良い戦略、戦術は」と解読した。

・「其れ下るは」は、1つ目の「兵」の記述が省略されていると考察。おそらく本来は「其れ下る兵は」になると思われる。結果、「しかし、劣る戦略、戦術は」と解読した。

・「兵に伐る」の直訳は“軍隊にひけらかす”となる。戦略、戦術として“軍隊にひけらかす”事柄は、其十1-13②「兵士達の士気を大いに旺盛で切れ味の鋭い武器にして、軍隊の勢いで優劣を争う将軍は、敵軍に回避させる木石の道理をお手本にするのであり、軍隊の勢いを比較して危機と見なして恐れ震えている敵兵達を、敵軍から逃亡させるのである」等に基づけば、“自軍の勢い”だと考察できる。さらに、“ひけらかす”目的は敵将軍が両軍の勢いを比較させることだと解釈できるため、「敵軍に軍隊の勢いを比較させる」と解読。

<②について>
・「其の次りて交を伐る」の直訳は“敵が停留して交流を断ち切る”となる。これは、其十一6-12①「他国と行き来しやすい戦地「交地」では、その他国を治める諸侯と同盟を取り交わすのであり、自軍の将軍は、その諸侯達と連合して敵軍を閉じ込めるのである」に基づけば、敵軍が他国と行き来しやすい戦地「交地」に停留することで、諸侯が自国を補佐できなくすることと考察。結果、「敵軍は他国と行き来しやすい戦地「交地」に停留して自国と諸侯の交流を断ち切る」と解読。

<③について>
・「次らせしめて其の交を伐る」は、其十一9-3①「正しく戦略、戦術を実行する時、将軍は、約束した時間に同盟を結んだ諸侯を戦地に到達させるのであり、敵将軍に、その考えていた計画を遂行させてはならない」及び其十一6-12①「他国と行き来しやすい戦地「交地」では、その他国を治める諸侯と同盟を取り交わすのであり、自軍の将軍は、その諸侯達と連合して敵軍を閉じ込めるのである」に基づけば、他国と行き来しやすい戦地「交地」に同盟を結んだ諸侯を停留させて敵軍を封じ込めることと考察できる。結果、「他国と行き来しやすい戦地「交地」に同盟を結んだ諸侯を停留させて敵と諸侯の交流を断ち切る」と解読。

・「兵に伐る」の直訳は“軍隊にひけらかす”となる。解読文①では「敵軍に軍隊の勢いを比較させる」と解読したが、締めくくりが敵国を巧みに降伏させる内容になっている。そのため、其十二5-5⑤「有能な将軍は、秘密裏に合従策の準備を進めて、突然、自軍の権勢が敵軍を凌駕すれば、はっきりと敗北を悟った敵将軍は、ただ才能と徳を持った自軍の将軍に服従するだけであり、きっと自国と敵国の両方を完全な状態に保ったまま平和な和解に至るのである」を実現する教えと解釈。結果、「敵軍に全軍の権勢を掲げる」と解読した。

<④について>
・「敵将軍が可愛がる者と会合する場所で駐屯していることを自慢する随行者の近くにいる間者が敵将軍の可愛がる者を斬る」は、其十一9-6⑦「攻め取った敵兵達が味方になれば、敵将軍の可愛がる者について調べることを第一にするのであり、汚職を働きそうな可愛がる者の随行者が礼物に満足すれば、敵将軍の可愛がる者を殺害する任務を間者に実行させて、敵兵達を恐れ震えさせる敵将軍の異変を期待するのである」と同意と考察して解読。なお、この役割を担う者は「間者」は、其十二2-2①「将軍の可愛がる者を殺害する間者」と考察。

・「故に兵せしむ」の直訳は”馴染みに災いを生じさせる“となる。この目的は「敵将軍の考えている計画を破壊する」であるため、其八3-2①「兵士達を可愛がることを許容する将軍は、軍隊を掻き乱す」に対する「“将軍が可愛がる者を殺害する”お手本」を実行することだと考察できる。その上で、其十一9-6⑦「攻め取った敵兵達が味方になれば、敵将軍の可愛がる者について調べることを第一にするのであり、汚職を働きそうな可愛がる者の随行者が礼物に満足すれば、敵将軍の可愛がる者を殺害する任務を間者に実行させて、敵兵達を恐れ震えさせる敵将軍の異変を期待するのである」等に基づけば、主に殺害することを指すとわかる。結果、「(敵将軍の)可愛がる者を殺害する」と解読。

・「上」は、①其三1-1「上」の「自他を問わず完全な状態に保つ上策」の意味が積み上げられていると解釈し、「完全な状態に保つ上策」と解読。

・「城壁に囲まれた敵都市から離れる者が出現して災いとなる」は城壁に囲まれた敵都市の武将や兵士の人数が減ることであるため、③「敵軍に全軍の権勢を掲げる」自軍に対して敗北を悟ることになる。結果、籠城している敵軍であっても、せめぎ合うことなく「完全な状態に保つ上策」が実現することを説いたと考察できる。
もう少し解釈の補足しておくと、敵将軍の可愛がる者を守り切れなかった責任を“城壁に囲まれた敵都市”を警護していた武将や兵士を追及されるのであり、その理不尽な振る舞いによって武将や兵士が離れていくと推察。堅固な城壁に囲まれた都市だからこそ内部から崩壊させるための謀略だと言える。つまり、解読文④は、最上とする①「敵将軍の考えている計画を破壊する戦略、戦術」、そして③「敵国に降伏させることを巧みにこなす」方法が記述されていることになる。

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