攻める城に之く法は、櫓と轒轀を脩めるに、而は三月止つ。

其三2-2

攻城之法、脩櫓轒轀、三月而止。

gōng chéng zhī fǎ、xiū lú fén wēn、sān yuè ér zhǐ。

解読文

①兵器をつくって城壁に囲まれた敵都市に赴くお手本は、大盾と城壁を攻撃する戦車を整えることに、将軍は三ヶ月間待ち受ける。

②兵器をつくるお手本に従っても城壁に囲まれた敵都市を武力で撃てば、大盾と城壁を攻撃する戦車は何度も修理し、将軍は、奇策部隊の出撃を中止するだろう。

③堅固な城壁に囲まれた敵都市が弱体化するお手本は、正攻法部隊は大盾と城壁を攻撃する戦車で長期間に渡って敵の攻撃を阻止し、何度も奇策部隊を出現させるのである。

④城壁に囲まれた敵都市が弱体化するお手本に従えば、堅固な城壁に囲まれた敵都市を枯渇させるのであり、大盾と城壁を攻撃する戦車を燃やし、奇策部隊を出現させて敵兵を減らすのである。
書き下し文
①攻(おさ)める城に之(ゆ)く法は、櫓(ろ)と轒轀(ふんうん)を脩(おさ)めるに、而(なんじ)は三月止(ま)つ。

②之に法(のっと)るも城を攻めれば、櫓(ろ)と轒轀(ふんうん)は三たび脩(おさ)め、而(なんじ)は月あらせしむこと止めん。

③攻(かた)き城の之(ゆ)く法は、而(なんじ)は櫓(ろ)と轒轀(ふんうん)に脩(なが)く止(とど)めて、三たび月あらせしむ。

④之に法(のっと)れば、攻(かた)き城を脩(ひ)らせしむなり、櫓(ろ)と轒轀(ふんうん)を三して、月あらせしめて止めるなり。
<語句の注>
・「攻」は①物をつくる、②武力で相手を撃つ、③④堅固なさま、の意味。
・「城」は①②③④都市(都市はその全域を城壁で囲んでいる)、の意味。
・「之」は①赴く、②代名詞、③変わる、④代名詞、の意味。
・「法」は①手本、②手本とする、③手本、④手本とする、の意味。
・「脩」は①治め整える、②修理する、③時間的に久しいさま、④枯れたさま、の意味。
・「櫓」は①②③④大楯、の意味。
・「轒」は①②③④「轒轀」で“城壁を攻撃する戦車”、の意味。
・「轀」は①②③④「轒轀」で“城壁を攻撃する戦車”、の意味。
・「三」は①数の名、②③何度も、④三番目という序数、の意味。
・「月」は①一年の十二分の一で時間を数える単位、②③④其五2-3④「月」、の意味。
・「而」は①②③あなた、④順接の関係を表す接続詞、の意味。
・「止」は①待ち受ける、②中止する、③阻止する、④減らす、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「攻城之法、脩櫓轒轀、具器械、三月而止。」と「具器械」が入るが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「攻」の“物をつくる”の“物”は、「大盾と城壁を攻撃する戦車を整える」を踏まえて「兵器」と言い換えた。

<②について>
・「之」は、①「法」の「兵器をつくって城壁に囲まれた敵都市に赴くお手本」を指示する代名詞と解読。解読文が冗長にならないように「兵器をつくるお手本」と簡略化した。

・「月」は、其五2-3④「」と同意と考察。「月」は「奇策部隊」の喩えであり、「」は「正攻法部隊」の喩えである。結果、②「月」は「奇策部隊」と解読。③④も同様に解読。
また、将軍が「奇策部隊の出撃を中止する」理由は、「大盾と城壁を攻撃する戦車」を使う正攻法部隊が、敵軍の攻撃に持ち堪えられなかったため、敵軍を誘導することも、敵軍に虚を生じさせることも出来なかったからだと考察できる。
ちなみに、正攻法部隊が、敵軍の攻撃に持ち堪えることができないため、何度も「大盾と城壁を攻撃する戦車」を修理しているのだと解釈している。

<③について>
・「攻き城の之く法」の直訳は“堅固な城壁に囲まれた都市が変わる手本”となる。つまり、城壁に囲まれた敵都市の“堅固さ”を弱らせるためのお手本だと考察できる。結果、「堅固な城壁に囲まれた敵都市が弱体化するお手本」と解読。

・「脩く止める」の直訳は“長い時間、阻止する”となる。奇策部隊を何度も出現させる内容が続いて記述されるため、敵軍を誘導して、敵軍に虚を生じさせる正攻法部隊が主語であり、“敵軍の攻撃を阻止する”文意だと解釈できる。結果、「長期間に渡って敵の攻撃を阻止する」と解読。この解読に伴い、「而」は「脩く止める」の主語として「正攻法部隊」と解読した。

<④について>
・「之」は、③「法」の「堅固な城壁に囲まれた敵都市が弱体化するお手本」を指示する代名詞と解読。結果、「城壁に囲まれた敵都市が弱体化するお手本」と解読。

・「三」の“三番目という序数”は、其十三1-2①「第一に俗世間に火事を起こすことであり、第二に諸侯との同盟文書を燃やすことであり、第三に武器や食糧などを運ぶ荷車を燃やすことであり、第四に物品や金銭を蓄えておく建物や場所に火事を起こすことであり、第五に谷あいの険しい道に火事を起こすことである」の三番目である「第三に武器や食糧などを運ぶ荷車を燃やすこと」を指すと考察。この目的は、其十三1-2④「物品や金銭を蓄えておく建物や場所から蓄えを消す」ことであり、敵都市を弱体化させるために火災を仕掛けることがわかる。結果、「櫓と轒轀を三する」で「大盾と城壁を攻撃する戦車を燃やす」と解読した。なお、“大盾”は木へんの“楯”ではないため燃えない材質の可能性があり、“大きな櫂”(舟を漕ぐ道具)の方が適切かもしれない。しかし、この解釈の適切性は判断できないため、ここでは話の流れを重視して「大盾」を採用した。

・「大盾と城壁を攻撃する戦車を燃やし、奇策部隊を出現させて敵兵を減らす」は、其十三3-1③「巧みに仕掛ける火災を助力として採用する理由は、災いが生じたと敵軍にはっきり悟らせて、堅固な敵軍から獲物となる敵部隊を次々と出現させることを補い助けるからである」及び其十三3-1④「奇正の戦術を補佐する将軍は、巧みに仕掛ける火災を実行した時、軍隊の勢いを激しく旺盛にした堅固な軍隊を出現させるのであり、火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していき、獲物となる敵部隊を出現させるのである」等に関連すると考察。これは、意図的に火災を発生させた瞬間に正攻法部隊で敵の逃げ場を奪い取ることで、奇策部隊が待ち構える場所に誘導していく奇正の戦術を前提に説かれた内容である(火攻篇で関連する記述が頻出する)。

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