将は心之きて忿ること勝えざれば、之に蟻の附く而く一に之いるなり、三分の士を殺さん。而も城を抜かざる者は、之を攻めて𢦏するなり。

其三2-4

將不勝心之忿、而蟻附之、殺士三分之一。而城不拔者、攻之𢦏也。

jiāng bù shèng xīn zhī fèn、ér yǐ fù zhī、shā shì sān fēn zhī yī。ér chéng bù bá zhě、gōng zhī zāi yĕ。

解読文

①将軍は、気持ちが変わって憤ることを我慢できなければ、敵都市の城門の外側にある小城壁に蟻がくっつくように兵士達を小城壁に張り付かせてひたすら攻め込ませるのであり、兵士達の三割が命を失うだろう。そのうえ、城壁に囲まれた敵都市を攻め取れない将軍は、小城壁に攻め込ませた兵士達を咎めて鞭打つ処罰で傷つけるのである。

②将軍に優れた計画が無ければ憤りの感情に達して、将軍を頼る兵士達を攻め込ませて害するのである。全軍を半分にして、この半分の部隊を正攻法部隊に従事させても、城壁に囲まれた敵都市にいる敵兵の逃げ場を奪い取って誘導しない将軍は、城壁に囲まれた敵都市にいる敵兵達を武力で撃って軍隊を損なうのである。

③優れた計画を用いる将軍は憤ることが無く、将軍に従う兵士達を使って敵軍を減らすのである。全軍を半分にして、この半分の部隊を正攻法部隊に従事させて、城壁に囲まれた敵都市にいる敵兵の逃げ場を大いに奪い取って誘導する将軍は、誘導した敵兵を傷つけて攻め取り、治療するのである。

④大いに優れた計画を用いる将軍は、敵将軍を憤らせて兵士達の三割を減少させ、自軍は兵士数を増やすことになって城壁に囲まれた敵都市を統治下に置く。そのうえ、城壁に囲まれた敵都市を大いに攻め取る将軍は、敵都市を損なっても修理するのである。
書き下し文
①将は心之(ゆ)きて忿(いか)ること勝(た)えざれば、之に蟻の附(つ)く而(ごと)く一(いつ)に之(もち)いるなり、三分の士を殺さん。而(しか)も城を抜かざる者は、之を攻めて𢦏(さい)するなり。

②将に勝(しょう)なる心不(な)ければ忿(いか)るに之(いた)り、而(なんじ)を附(つ)く蟻を之(もち)いて殺(そこな)うなり。
三を分にし、之の一つを士(こと)とせしむも城より抜かざる者は、之を攻めて𢦏(さい)するなり。

③勝(しょう)なる心を之(もち)いる将は忿(いか)ること不(な)く、而(なんじ)を附(つ)く蟻を之(もち)いて殺(そ)ぐなり。三を分にし、之の一つを士(こと)とせしめて城より不(おお)いに抜く者は、之を𢦏(さい)して攻(おさ)めるなり。

④不(おお)いに勝(しょう)なる心を之(もち)いる将は、忿(いか)らせしめて三分の士を殺(そ)げしめ、而(なんじ)は蟻を附(つ)けるに之(いた)りて之を一にす。而(しか)も城を不(おお)いに抜く者は、之を𢦏(さい)するも攻(おさ)めるなり。
<語句の注>
・「将」は①②③④将軍、の意味。
・1つ目の「不」は①~しない、②③無い、④大いに、の意味。
・「勝」は①忍ぶ、②③④優れたさま、の意味。
・「心」は①気持ち、②③④其七6-1①「心」、の意味。
・1つ目の「之」は①変わる、②ある地点や事情に達する、③④使う、の意味。
・「忿」は①②③④憤る、の意味。
・1つ目の「而」は①~のように、②③④あなた、の意味。
・「蟻」は①②③④蟻、の意味。
・「附」は①くっつく、②頼る、③従う、④増やす、の意味。
・2つ目の「之」は①代名詞、②③使う、④ある地点や事情に達する、の意味。
・「殺」は①人や動物の生命を絶つ、②害する、③減らす、④減少する、の意味。
・「士」は①男子の通称、②③従事する、④男子の通称、の意味。
・「三」は①数の名、②③其十一3-2①「三」等、④数の名、の意味。
・「分」は①十分の一、②③半分、④十分の一、の意味。
・3つ目の「之」は①使う、②③④代名詞、の意味。
・「一」は①ひたすら、②③数の名、④統一する、の意味。
・2つ目の「而」は①累加の関係を表す接続詞、②逆接の関係を表す接続詞、③順接の関係を表す接続詞、④累加の関係を表す接続詞、の意味。
・「城」は①②③④都市(都市はその全域を城壁で囲んでいる)、の意味。
・2つ目の「不」は①②~しない、③④大いに、の意味。
・「抜」は①攻め取る、②③移す、④攻め取る、の意味。
・「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・「攻」は①咎める、②武力で相手を撃つ、③治療する、④治す、の意味。
・4つ目の「之」は①代名詞、②③彼ら、④代名詞、の意味。
・「𢦏」は①傷つける、②損なう、③傷つける、④損なう、の意味。
・「也」は①②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「將不勝其忿、而蟻附之、殺士三分之一。而城不拔者、此攻之災也。」と「心之」を「其」とし、「𢦏」を「災」とし、「此」が入るが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・2つ目の「之」は、其三2-3④「闉」の「城壁に囲まれた敵都市の城門の外側にある小城壁」を指示する代名詞と解読。

・「蟻の附く而く」の“蟻がくっつくように”とは、蟻が小城壁を自由に這い回ることであり、この蟻は「兵士達」を喩えた表現と考察。つまり、兵士達が小城壁に張り付いて這い回り、敵都市に侵入しようとしているのである。結果、「兵士達を小城壁に張り付かせる」と補った。

・「一に之いる」の直訳は“ひたすら使う”となる。「兵士達を小城壁に張り付かせる」という描写があるため、将軍が敵都市に攻め込むことに執着して命令を出している状況と推察できる。結果、簡潔に「ひたすら攻め込ませる」と解読した。

・4つ目の「之」は、「士」の「(小城壁に張り付かせてひたすら攻め込ませた)兵士達」を指示する代名詞と考察し、「小城壁に攻め込ませた兵士達」と解読。

・「𢦏」の“傷つける”は、其九4-26②「行き詰まっている敵の隊長は、一つひとつの罪状を数え挙げて責めてから鞭打つのである」を行うのだと考察し、「鞭打つ処罰」と補った。

<②について>
・「心」は、其七6-1①「軍する将は心を奪う可し」の「敵全軍を統率する敵将軍からは考えていた計画を強制的に取るのが良い」で説かれている「考えていた計画」を指すと考察。ここでは話の流れに合わせて「計画」と解読。③④も同様に解読。

・「蟻」は、解読文①より「兵士達」の喩えと解釈し、「兵士達」と解読。③④も同様に解読。

・2つ目の「之」の“使う”は、①「一に之いる」の「ひたすら攻め込ませる」を簡潔に表現していると考察し、「攻め込ませる」と解読。

・「三」は、其十一3-2①等で記述される「三軍」の意味を積み上げたと考察。結果、「三」で「全軍」と解読。③も同様に解読。

・3つ目の「之」は、「分」の「全軍の半分」を指示する代名詞と解読。但し、解読文を冗長にしないため「之の一つ」で「この半分の部隊」と解読。③も同様に解読。

・「城より抜かざる者」の直訳は“城壁に囲まれた敵都市から敵兵を移さない者”となる。「この半分の部隊」は全軍の半分であるため、十分に多人数部隊であることから正攻法部隊とわかる。つまり、其三2-3③「城門の外側に小城壁を備えた敵都市をしっかり守る敵兵達は、大盾と城壁を攻撃する戦車を燃やし、正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導した直後、奇策部隊を出現させて攻め取るのである」の「正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導」を指すと考察できる。結果、「城より抜かざる者」は「城壁に囲まれた敵都市にいる敵兵の逃げ場を奪い取って誘導しない将軍」と解読。そして、この解釈に伴い、「この半分の部隊」が“従事する(=士)”事柄として、「正攻法部隊」と補うことができる。

・4つ目の「之」の“彼ら”は、武力で撃ってはいけない相手であり、正攻法部隊で誘導するべき相手であるため「城壁に囲まれた敵都市にいる敵兵」と考察できる。結果、「城壁に囲まれた敵都市にいる敵兵達」と解読。

<③について>
・「敵軍を減らす」は、其三2-3③「城門の外側に小城壁を備えた敵都市をしっかり守る敵兵達は、大盾と城壁を攻撃する戦車を燃やし、正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導した直後、奇策部隊を出現させて攻め取るのである」を実現することと考察。

・「城より不いに抜く者」は、②「城より抜かざる者」の逆であるため、「城壁に囲まれた敵都市にいる敵兵の逃げ場を大いに奪い取って誘導する将軍」と解読。

・4つ目の「之」の“彼ら”は、其三2-3③「正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導した直後、奇策部隊を出現させて攻め取るのである」で奇策部隊に攻め取られる敵兵と考察。結果、「誘導した敵兵」と解読。

・「𢦏」の“傷つける”相手は「誘導した敵兵」であり、傷つけた後に「攻め取る」のである。この「攻め取る」の意味は自明として省略されていると解釈し、「攻め取る」を補って解読した。

<④について>
・3つ目の「之」は、③「城」の「城壁に囲まれた敵都市」を指示する代名詞と解読。

・4つ目の「之」は、「城」の「城壁に囲まれた敵都市」を指示する代名詞と解読。但し、冗長にしない目的で簡潔に「敵都市」とした。

・「一」の“統一する”は、「城壁に囲まれた敵都市」を自国に統一することだが、“中国全土の統一”という大きな概念を彷彿とさせる。そこで、話の流れを重視して「統治下に置く」と言い換えた。

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