故を用いる兵の法は、十なれば則ち之を囲むなり、五なれば則ち之を攻めるなり、倍なれば則ち之を分かれしむなり、敵なれば則ち能く之と戦うなり、少なければ則ち能く之を逃れるなり、若かざれば則ち能く之を避けるなり。

其三3-1

故用兵之法、十則圍之、五則攻之、倍則分之、敵則能戰之、少則能逃之、不若則能避之。

gù yòng bīng zhī fǎ、shí zé wéi zhī、wŭ zé gōng zhī、bèi zé fēn zhī、dí zé néng zhàn zhī、shǎo zé néng taó zhī、bù ruò zé néng bì zhī。

解読文

①過去の戦争事例に従った戦略、戦術のお手本は、自軍の兵士数が、十倍であれば敵軍を包囲するのであり、五倍であれば敵軍を武力で撃つのであり、二倍であれば敵軍を分散させるのであり、同等であればせめぎ合うことができるのであり、兵士数がわずかであれば回避しなくてはならないのであり、兵士数が及ばなければ敵軍をかわして遠ざからなくてはならないのである。

②戦争が起これば、これをお手本として軍隊を編制するのであり、敵軍を包囲する時はその十倍規模の軍隊にするのであり、敵軍を武力で撃つ時はその五倍規模の軍隊にするのであり、敵軍を分散させる時は二倍規模の軍隊にするのであり、敵軍とせめぎ合わなくてはならない時は同等規模の軍隊にするのであり、敵軍を回避しなくてはならない時は小規模の軍隊にするのであり、敵軍をかわして遠ざからなくてはならない時はこのお手本に従わないのである。

③これをお手本として敵軍を衰えさせるために力を尽くす時は、十倍規模の軍隊で敵軍を包囲し、生きたまま敵を取得する間者のお手本を使って敵部隊を武力で撃って自軍に寝返らせ、歯向かおうとする攻め取った元敵兵を中隊の真ん中に配置するお手本を使えば、敵軍を恐れ震えさせることができるのである。敵兵達が不満を感じれば敵軍から逃走させることができ、兵士数が自軍に及ばなければ敵軍に自軍をかわし遠ざけさせることができるのである。

④これをお手本として戦略、戦術を使う時は、必ず、軍隊の勢いを完全な状態に保った利点を備えた正攻法部隊で防御を固めるお手本を使い、生きたまま敵を取得する間者にお手本を習熟させて戦地に赴き、敵軍を分散させるお手本を使って自軍に寝返らせるのである。大いに敵軍に自軍をかわし遠ざけさせることができるお手本を選択するのであり、敵と同等規模にした正攻法部隊にせめぎ合う任務を耐えさせれば、敵軍は、間もなくしんがり部隊を捨て置かなくてはならない道理である。
書き下し文
①故を用いる兵の法は、十なれば則ち之を囲むなり、五なれば則ち之を攻めるなり、倍なれば則ち之を分かれしむなり、敵なれば則ち能(よ)く之と戦うなり、少なければ則ち能(よ)く之を逃れるなり、若(し)かざれば則ち能(よ)く之を避けるなり。

②故あれば之に法(のっと)りて兵を用いるなり、之を囲むに十なる則(そく)たり、之を攻めるに五なる則(そく)たり、之を分かれしむに倍なる則(そく)たり、能(よ)く之と戦うに敵なる則(そく)なり、能(よ)く之を逃れるに少なき則(そく)たり、能(よ)く之を避けるに則(そく)に若(したが)わざるなり。

③之に法(のっと)りて兵を故(ふ)らせしむこと用いるに、十なる則ありて囲み、五の則(そく)を之(もち)いて之を攻めて倍(そむ)けしめ、敵せんとする之を分ける則(そく)を之(もち)いれば、則ち能(よ)く戦(おのの)かせしむなり。之の少とすれば則ち能(よ)く之に逃れしめ、若(し)かざれば則ち能(よ)く之に避けしむなり。

④之に法(のっと)りて兵を用いるに、故(もと)より、十たりて囲む則(そく)を之(もち)い、五に則(そく)を攻(おさ)めしめて之(ゆ)き、分かれしむ則(そく)を之(もち)いて倍(そむ)けしむなり。不(おお)いに能(よ)く之に避けしむ則(そく)を若(えら)ぶなり、敵なる則(そく)たる之に戦うこと能(よ)くせしめば、少(しばら)くして能(よ)く之を逃れること則(そく)なり。
<語句の注>
・「故」は①成例、②事変、③衰える、④必ず、の意味。
・「用」は②従う、②採用する、③力を尽くす、④使用する、の意味。
・「兵」は①戦略、戦術、②戦士、③軍隊、④戦略、戦術、の意味。
・1つ目の「之」は①助詞「の」、②③④代名詞、の意味。
・「法」は①手本、②③④手本とする、の意味。
・「十」は①②③十倍、④完全なさま、の意味。
・1つ目の「則」は①~ならば、②③④模範、の意味。
・「囲」は①②③戦術として包囲する、④防ぐ、の意味。
・2つ目の「之」は①②③④使う、の意味。
・「五」は①②五倍である、③④五番目という序数、の意味。
・2つ目の「則」は①~ならば、②等級、③④模範、の意味。
・「攻」は①②③武力で相手を撃つ、④学問を修める、の意味。
・3つ目の「之」は①②③彼ら、④赴く、の意味。
・「倍」は①②二倍にする、③④裏切る、の意味。
・3つ目の「則」は①~ならば、②等級、③④模範、の意味。
・「分」は①②ばらばらになる、③割り当てる、④ばらばらになる、の意味。
・4つ目の「之」は①②③彼ら、④使う、の意味。
・「敵」は①②等しい、③歯向かう、④等しい、の意味。
・4つ目の「則」は①~ならば、②等級、③~ならば、④等級、の意味。
・1つ目の「能」は①~することができる、②~しなくてはならない、③~することができる、④任に堪える、の意味。
・「戦」は①②せめぎ合う、③(恐れや寒さのために)震える、④せめぎ合う、の意味。
・5つ目の「之」は①②彼ら、③使う、④彼ら、の意味。
・「少」は①②数がわずか、③不満である、④間もなく、の意味。
・5つ目の「則」は①~ならば、②等級、③~ならば、④道理、の意味。
・2つ目の「能」は①②~しなくてはならない、③~することができる、④~しなくてはならない、の意味。
・「逃」は①②回避する、③逃げて走る、④捨て置く、の意味。
・6つ目の「之」は①②③彼ら、④彼ら、の意味。
・「不」の①「不若」で“AはBに及ばない”、②~しない、③「不若」で“AはBに及ばない”、④大いに、の意味。
・「若」の①「不若」で“AはBに及ばない”、②素直に従う、③「不若」で“AはBに及ばない”、④選択する、の意味。
・6つ目の「則」は①~ならば、②模範、③~ならば、④模範、の意味。
・「避」は①②③④かわし遠ざかる、の意味。
・3つ目の「能」は①②~しなくてはならない、③④~することができる、の意味。
・7つ目の「之」は①②③④彼ら、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は「故用兵之法、十則圍之、五則攻之、倍則分之、敵則能戰之、・・・・」と後半が欠落している。そのため、「少則能逃之、不若則能避之」は孫子(講談社)の原文を採用した。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「故を用いる兵の法」の直訳は“成例に従う戦略、戦術のお手本”となる。この“成例”は、其九5-1④「将軍は大いに戦況が一致する過去の戦争事例から未来を予測するうえに、さらに過去の勝ち戦を大いに鑑定し、その勝ち戦を恭しく細部まで再現することを決行する」で記述されている“過去の戦争事例”を指すと解釈し、「過去の戦争事例に従った戦略、戦術のお手本」と解読した。

・漢字「十、五、倍」等は数値比較ができるため、自軍と敵軍の兵士数を比較していると考察できる。また、漢字「十、五、倍」等は敵軍に対する自軍の兵士数であるため「自軍の兵士数が」と補った。

・2つ目以降、七つある「之」の“彼ら”は、自軍が戦略、戦術を仕掛ける相手であるため「敵軍」と解読。②も同様に解読。

<②について>
・「兵を用いる」の直訳は“戦士を採用する”となる。これは①で記述された兵士数のお手本に従って軍隊を編制することと考察し、「軍隊を編制する」と解読。

・1つ目の「之」は、①「法」の「過去の戦争事例に従った戦略、戦術のお手本」であり、その内容全てを指示する代名詞と解読。解読文では、「之に法る」で「これをお手本とする」と解読。③④も同様に解読。

・1つ目から5つ目の「則」の“等級”は、軍隊の兵士数の“等級”と考察できるため、「規模」と言い換えた。なお、わかりやすくする目的で「◇なる則」を「◇規模の軍隊」と解読した。

・6つ目の「則」の“模範”は、①「法」の「過去の戦争事例に従った戦略、戦術のお手本」と同意と考察し、話の流れに合わせて「このお手本」と解読した。

<③について>
・「五」の “五番目という序数”は、其十二2-2①で五番目に記述された「生きたまま敵を取得する間者」を指すと考察。④も同様に解読。

・3つ目の「之」は、「生きたまま敵を取得する間者」が武力で撃って攻め取る相手と考察。ここでは「敵部隊」と解読した。

・4つ目の「之」は、「生きたまま敵を取得する間者」が攻め取った「敵部隊」と考察し、「攻め取った元敵兵」と解読。

・「歯向かおうとする攻め取った元敵兵を中隊の真ん中に配置するお手本」は、其三1-1②「背こうとすれば中隊の真ん中に配置して前進する」に基づいて解読。

・6つ目の「之」は、敵軍から逃走する者達であるため「敵兵達」と解読。

・7つ目の「之」は、自軍に兵士数が及ばない敵軍と考察し、「敵軍」と解読。

・「兵士数が自軍に及ばなければ敵軍に自軍をかわし遠ざけさせることができる」は、②「敵軍をかわして遠ざからなくてはならない時はこのお手本に従わない」に対する答えであり、自軍から遠ざかるのではなく、自軍の強大さを増すことで、敵軍に自軍を遠ざけさせるのだと考察できる。視点を変えれば、衰えた敵軍が①「兵士数が及ばなければ敵軍をかわして遠ざからなくてはならない」のお手本を使うのだと言える。

<④について>
・「十」の“完全なさま”は、其三2-6④「将軍は、軍隊の勢いを完全な状態に保った利点を備えて、敵軍を傷つけても必ず大いに屈伏させて治療する」の「軍隊の勢いを完全な状態に保った利点を備える」ことと同意と考察。

・「囲」の“防ぐ”は、其四2-2①「守備するお手本は有り余る兵士達を備える」を指すと考察。この「有り余る兵士達」は多人数の正攻法部隊であるため、ここでは簡潔に「正攻法部隊で防御を固める」と解読する。

・「五に則を攻めしむ」は“生きたまま敵を取得する間者にも模範を修めさせる”となり、其十二2-3④「軍神である将軍は、生きたまま敵を取得する間者の養育係になるのである。間者を一人前にする時は、何度も戦争に連れ立って起用して、敵兵達の士気が殺がれる時機を識別することを指導して習熟させるのである」を指すと考察。結果、「生きたまま敵を取得する間者にお手本を習熟させる」と解読。

・「敵軍を分散させるお手本」は、例えば 其九4-10①「強く命令して駆り立てて前進することは、敵を後退させる要因になるのである」、其九4-10②「強く命令して退却する敵は、しんがり部隊を差し出して速く走るのである」によって、奇策部隊の獲物となるしんがり部隊を出撃させること等と考察。

・7つ目の「之」は、自軍をかわし遠ざける相手であるため「敵軍」と解読。

・「敵軍に自軍をかわし遠ざけさせることができるお手本」とは、解読文③の教え全体を指すと考察。

・5つ目の「之」の“彼ら”は、敵軍とせめぎ合う軍隊と考察し、「正攻法部隊」と解読。

・「之を逃れる則」の直訳は“彼らを捨て置く道理”となる。「敵と同等規模にした正攻法部隊に、敵軍とせめぎ合う任務を耐えさせた」後に働く道理であるため、彼ら“は其九4-10②「強く命令して退却する敵は、しんがり部隊を差し出して速く走るのである」の「しんがり部隊」と考察できる。結果、「しんがり部隊を捨て置く道理」と解読。

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