夫れ、将は国するに輔けを之いるなり。輔けの周たれば則ち国して強くすること必し、輔けの隙たれば則ち国は弱ると必す。

其三4-1

夫將者國之輔也。輔周則國必強、輔隙則國必弱。

fú jiāng zhě guó zhī fǔ yĕ。fǔ zhoū zé guó bì qiáng、fǔ xì zé guó bì ruò。

解読文

①そもそも、将軍は国家を治める時に補佐官を任用する存在である。補佐官が用意周到であれば国家を治めて強大にすることを必ず実行し、補佐官に欠陥があれば国家は衰えると断定する。

②成年に達して役務や肉体労働に従事する人民を統率する将軍は、彼らの力添えとなって国家を維持するのである。補佐官に領地をあまねく歩き回らせて産業のお手本を必ず実行させて国家を豊かで強くするのであり、補佐官が仕事をしなければ国事に関わる資格の喪失を必ず実行する。

③力添えとなって人民達を服従させれば、彼らを国内に留まらせるのである。補佐官は、自説にしがみついて頑固な人民を国内に封じる年貢等免除のお手本を繰り返すが、町、村、里につけこむ隙があれば敗北した元敵人民は国を建てて自分達の立場を確かにするだろう。

④自国を衰えさせることを決行しようとする頑固な元敵人民は、町、村、里のつけいる隙を力添えとするのが道理であり、必ず町、村、里を完備させてから年貢等免除のお手本を繰り返し、頑固な元敵人民を国内に封じなければならない。国家を維持している将軍は、扶養するこれら人民達を戦争に赴かせて、国家のために力添えさせるのである。
書き下し文
①夫れ、将は国するに輔(たす)けを之(もち)いるなり。輔(たす)けの周(しゅう)たれば則ち国して強くすること必し、輔(たす)けの隙(げき)たれば則ち国は弱ると必す。

②夫(おとこ)を将(ひき)いる者は、之を輔(たす)けて国するなり。輔(たす)けに国を周(めぐ)らせしめて則(そく)を必せしめて強たり、輔(たす)けの隙(げき)たれば則ち国より弱めしむこと必す。

③輔(たす)けて夫(おとこ)は将(したが)わせしめば、之を国するなり。輔(たす)けは必して強なるものを国する則(そく)を周(めぐ)るも、輔(ほ)に隙(げき)あれば則ち弱めるものは国すること必せん。

④国を弱めしむを必せんとする強(こわ)きものは、隙(げき)に輔(たす)けらるる則(そく)なり、必ず輔(ほ)を周(あまね)くせしば則ち国する。国する者は、夫(おとこ)を将(やしな)う之(ゆ)かせしめて、輔(たす)けしむなり。
<語句の注>
・「夫」は①そもそも、②③④成年に達して役務や肉体労働に従事する人、の意味。
・「将」は①将軍、②統率する、③服従する、④養う、の意味。
・「者」は①②助詞「もの」、③仮定表現の助詞、④助詞「もの」、の意味。
・1つ目の「国」は①国を治める、②国家として維持する、③国に封じる、④国家として維持する、の意味。
・「之」は①使う、②③彼ら、④赴く、の意味。
・1つ目の「輔」は①主君を補佐する官、②③④力添えする、の意味。
・「也」は①②③④断定の語気、の意味。
・2つ目の「輔」は①②③主君を補佐する官、④力添えする、の意味。
・「周」は①行き届くさま、②あまねく歩き回る、③反復する、④完備するさま、の意味。
・1つ目の「則」は①~ならば、②③模範、④~してから、の意味。
・2つ目の「国」は①国を治める、②領地、③④国に封じる、の意味。
・1つ目の「必」は①②必ず実行する、③自説にしがみつく、④必ず~しなければならない、の意味。
・「強」は①強大にする、②豊かで強い、③④頑固なさま、の意味。
・3つ目の「輔」は①②主君を補佐する官、③都付近の地区、④力添えする、の意味。
・「隙」は①欠陥のあるさま、②空いているさま、③④つけこむべき機会、の意味。
・2つ目の「則」は①②③~ならば、④道理、の意味。
・3つ目の「国」は①独立した国家、②国に関わるような大事、③国を建てる、④独立した国家、の意味。
・2つ目の「必」は①断定する、②必ず実行する、③立場を確かにする、④決行する、の意味。
・「弱」は①衰える、②喪失する、③敗れる、④衰える、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は欠落しているため、孫子(講談社)の原文を採用した。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・特に無し。

<②について>
・「夫」は、“成年に達して役務や肉体労働に従事する人”の意味を採用する理由は、其一6-1②「解読の注」参照。

・「之」の“彼ら”は、「成年に達して役務や肉体労働に従事する人民」と同意と考察するが、そのまま「彼ら」と解読。③も同様に解読。

・「補佐官に領地をあまねく歩き回らせて産業のお手本を必ず実行させる」は、其十二5-2②「呂牙は、殷王朝の役所に仕えており、殷国全土に広く行き渡って国家事業を始めたのである」及び其十二5-2③「呂牙は、仕えていた役所で殷国を観察して、あまねく歩き回って殷国を栄えさせたのである」に類似した内容であるため、このお手本とは国家事業で国家を豊かにすることと考察できる。そして、その国家事業のお手本に繋がると類推できる記述は、其十二1-1④「全ての人民を極めて栄えさせる要旨は、産物をつくる技能に優れた者を、必ず自国に従わせた元敵里に住ませて、元敵人民を産物の生産に励み努力させることで財貨を生み出すからである」等にある。これに基づき、「産業のお手本」とした。

・「隙」の“空いているさま”は、補佐官の手、時間が空いているのにであり、「自説にしがみついて頑固な人民を国内に封じる年貢等免除のお手本を繰り返す(補佐官)」との対比とすれば、「仕事をしていない」と解読できる。

<③について>
・「夫」の“成年に達して役務や肉体労働に従事する人”は、ここでは簡潔に「人民達」と解読。④も同様に解読。

・1つ目の「国」の“国に封じる”は、「人民達」を国内に留まらせて、他国へ移住させないことと考察し、「国内に留まらせる」と解読した。

・「自説にしがみついて頑固な人民を国内に封じる年貢等免除のお手本」とは、其十三4-6⑥「他国に亡命しようとする元敵兵達を大いに自国に封じることができれば、自国に仕返しする感情が記憶からなくなることを観察するのであり、信念や理想のために命を捨てる元敵兵達を自国内で生活させて、大いに年貢等を免除する利点を繰り返せば自国に仕返しする感情が消えるのである」で記述される「自国内で生活させて年貢等を免除する」ことと考察して解読。

・3つ目の「輔」の“都付近の地区”は、其一2-5④「地」の「敵国の町、村、里、集落」から類推すれば、自国が治める「町、村、里」と解読できる。なお、“都付近”の意味があるため、険しい山付近にある「集落」は除外した。

・「隙」の“つけこむべき機会”とは、補佐官の隙と考察できる。これは虚実における「自国の虚」と解釈できる。ここでは「つけこむ隙」と解読した。④も同様に解読。

・「敗北した元敵人民は国を建てて自分達の立場を確かにする」は、其二1-2②「敵軍を服従させても元敵兵達が力を尽くすのは本心を隠した偽りであるため、いずれ自国に仕返しする覚悟に変わる」に類似したお状態と考察。

<④について>
・「強きもの」は、③「敗北した元敵人民」と同意と考察し、「頑固な元敵人民」と解読。

・「自国を衰えさせることを決行」は、其二4-2⑤「自国に仕返ししたい感情に揺れ動く敵兵達はその感情が極限に達すれば、戦車を具備して自軍の上級武将と見なした相手を虐げようとするのであり、自軍が敵の旗印を自軍の旗印に取り替えさせた敵戦車で巡回して上級武将の隙を狙って殺害しようとする」に類似した状況が生じるのだと考察。

・2つ目の「国」の“国に封じる”は、③2つ目の「国」の「頑固な人民を国内に封じる年貢等免除のお手本を繰り返す」意味を積み上げていると考察し、「年貢等免除のお手本を繰り返して国内に封じる」と解読。

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