而の可く戦い与而の可かざる戦いを知らしめて、勝つ。

其三5-2

知可而戰與不可而戰勝。

zhī kĕ ér zhàn yŭ bù kĕ ér zhàn shèng。

解読文

①一つ目は、将軍が同意する戦争と、将軍が同意しない戦争を覚えさせて、君主による軍事の災いを抑制する。

②将軍が同意する戦争は、将軍と大いに気持ちが通じ合う、同盟を結んだ諸侯に使者を送り、軍隊の勢いで優劣を争って敵軍を抑えるのである。

③将軍が同意しない戦争は、戦う前から敗北した状態の知識に適合しているにも関わらず、戦争して敵軍に対抗することである。

④君主は、将軍が同意する戦争を理解すれば、同盟を結んだ諸侯と大いに交流を深めて、領地の豊かさで他国と優劣を争うのである。
書き下し文
①而(なんじ)の可(き)く戦い与(と)而(なんじ)の可(き)かざる戦いを知らしめて、勝つ。

②而(なんじ)の可(き)く戦いは、不(おお)いに可(よ)き与に知して戦いて勝つなり。

③而(なんじ)の可(き)かざる戦いは、勝(しょう)たる知に可(よ)くするも而(すなわ)ち戦いて与(あ)たるなり。

④而(なんじ)の可(き)く戦いを知れば、与を不(おお)いに可(よ)くして勝(しょう)を争うなり。
<語句の注>
・「知」は①覚える、②知らせる、③知識、④理解する、の意味。
・1つ目の「可」は①②同意である、③適合する、④同意である、の意味。
・1つ目の「而」は①②あなた、③逆接の関係を表す接続詞、④あなた、の意味。
・1つ目の「戦」は①②戦争、③戦をする、④戦争、の意味。
・「与」は①A及びB、②同盟を結んだ者、③相手に抵抗する、④同盟を結んだ者、の意味。
・「不」は①~しない、②大いに、③~しない、④大いに、の意味。
・2つ目の「可」は①同意である、②適合する、③同意である、④適合する、の意味。
・2つ目の「而」は①あなた、②順接の関係を表す接続詞、③あなた、④順接の関係を表す接続詞、の意味。
・2つ目の「戦」は①戦争、②優劣を争う、③戦争、④優劣を争う、の意味。
・「勝」は①抑制する、②抑える、③既に滅ぼされたさま、④景色の優れた土地、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

・この句について詳しく解説したページがあります。
孫子の名言「故に勝ちを知るに五有り」の間違い

<①について>
・其三5-1①「君主による軍事の災いを抑制する知恵は五つ存在する」の一つ目であるため、「一つ目は」と補う。

・「勝」の“抑制する”は、其三5-1①「勝」の「君主による軍事の災いを抑制する」の意味を積み上げていると考察し、「君主による軍事の災いを抑制する」と解読。

<②について>
・「与に知する」の直訳は“同盟を結んだ者に知らせる”となる。これは、其九5-1⑥「将軍の戦略を雄健な筆勢で記して会盟を世話する使者を遣わして、将軍と大いに気持ちが通じ合い、その上、必ず恭しく将軍の戦略に了解し、敵軍を除き去るために大々的に協力してくれる古い付き合いの諸侯を迎えて連れて来させるのである」を実行するのだと考察。結果、「同盟を結んだ諸侯に使者を送る」と解読。

・「不いに可き」の直訳は“大いに適合するさま”となる。これは其九5-1⑥「将軍の戦略を雄健な筆勢で記して会盟を世話する使者を遣わして、将軍と大いに気持ちが通じ合い、その上、必ず恭しく将軍の戦略に了解し、敵軍を除き去るために大々的に協力してくれる古い付き合いの諸侯を迎えて連れて来させるのである」に記述される諸侯の特徴を指すと考察。結果、簡潔に「将軍と大いに気持ちが通じ合う」と解読した。

・「戦いて勝つ」の直訳は“優劣を争って抑える”となる。これは其三1-3④「軍隊の勢いで大いに優劣を争う将軍は、完全な状態に保つことを大切にして戦略、戦術を使うのであり、思いやりを大切にする将軍は敵軍を抑えつけるのである」を指すと考察し、「軍隊の勢いで優劣を争って敵軍を抑える」と解読。

<③について>
・「勝」の“既に滅ぼされたさま”は、既に敵に滅ぼされた状態に等しいことと解釈し、「戦う前から敗北した状態」と解読。なお、「戦う前から敗北した状態」とは、其一2-4④「占いの結果に素直に従えば、軍隊は戦う前から敗北した状態」、其十三3-3③「得意になって敵軍とせめぎ合うことを求める兵士達は「戦う前から敗北した状態である」」等、随所に記述されている。

・「与」の“相手に抵抗する”は、戦争において敵軍に抵抗することである。自軍が劣勢であるため“抵抗”のままでも問題ないと思われるが、“一方的な”意味合いが強過ぎて違和感があるため「敵軍に対抗する」と言い換えた。

<④について>
・2つ目の「可」の“適合する”は、其九5-1⑥「将軍の戦略を雄健な筆勢で記して会盟を世話する使者を遣わして、将軍と大いに気持ちが通じ合い、その上、必ず恭しく将軍の戦略に了解し、敵軍を除き去るために大々的に協力してくれる古い付き合いの諸侯を迎えて連れて来させるのである」の「大々的に協力してくれる古い付き合いの諸侯」に着眼。古い付き合いの諸侯と自国は交流が深いと解釈し、「(自国との)交流を深める」と解読。

・「勝」の“景色の優れた土地”とは、同盟を結んだ諸侯と交流を深めて得られる状態と考察。景色が優れている状態を“豊かな状態”と解釈すれば、「領地の豊かさ」と解読できる。なお、“土地”は国土と言い換えることも出来るが、他国から奪い取った地区もあることを踏まえて“領地”とした。

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