故に是れ、勝つ兵は勝を先んじて後に戦い、敗れる兵は戦うこと先にして勝を求むこと後れる。

其四3-8

是故、勝兵先勝而後戰、敗兵先戰而後求勝。

shì gù、shèng bīng xiān shèng ér hòu zhàn、baì bīng xiān zhàn ér hòu qiú shèng。

解読文

①だから、敵を負かす軍隊は軍隊を損なう事態に至らない場所を先制した後に軍隊の勢いで優劣を争い、敵に負ける軍隊は敵軍とせめぎ合うことを第一にして敵軍よりも優勢になる場所を探すのが後になるのである。

②軍隊を損なう事態に至らない場所を先制しても軍隊の勢いで優劣を争うことを重視しない将軍の戦術は敵将軍に打ち破られて災いに至り、崩れた軍隊で優劣を争うことを第一にして優勢になることを願っても間に合わない。

③正しい戦術は、敵軍よりも優勢になった軍隊で盛大に前進して敵軍を恐れ震えさせた後に、自軍を敵本軍から遠ざけようとするしんがり部隊を奇策部隊で打ち負かして、攻め取った敵兵達が恐れ震えているならば、抑えた後に自軍に寝返ることを要求する。

④正しい道理は、優勢になる軍隊は軍隊を損なう事態に至らない場所を先制した後に敵軍を恐れ震えさせるのであり、恐れ震えている攻め取った敵兵達を自軍に寝返らせる時は、自軍に寝返る要求を後回しにして抑えることを第一にする。
書き下し文
①故に是れ、勝つ兵は勝(しょう)を先んじて後に戦い、敗(やぶ)れる兵は戦うこと先にして勝(しょう)を求むこと後(おく)れる。

②勝(しょう)を先んずるも戦うこと後にする而(なんじ)の兵は勝たれて故に是(ゆ)き、敗たる兵の戦うこと先にして勝(まさ)ること求めるも後(おく)れる。

③是なる故は、勝(まさ)る兵は勝(しょう)なる先んじて戦(おのの)かしむ後に、而(なんじ)を先だたんとする兵を敗(やぶ)り、戦(おのの)けば勝つ後に求める。

④是なる故は、勝(まさ)る兵は勝(しょう)を先んじて後に戦(おのの)かしむなり、戦(おのの)く兵を敗(やぶ)らしむに而(なんじ)求めること後にして勝つこと先にす。
<語句の注>
・「是」は①~である、②至る、③④正しい、の意味。
・「故」は①だから、②災い、③たくらみ、④道理、の意味。
・1つ目の「勝」は①戦いで負かす、②敵を打ち破る、③④越える、の意味。
・1つ目の「兵」は①軍隊、②戦術、③④軍隊、の意味。
・1つ目の「先」は①②先制する、③前進する、④先制する、の意味。
・2つ目の「勝」は①②景色の優れた土地、③盛大な、④景色の優れた土地、の意味。
・1つ目の「而」は①順接の関係を表す接続詞、②あなた、③④順接の関係を表す接続詞、の意味。
・1つ目の「後」は①後、②重視しない、③④後、の意味。
・1つ目の「戦」は①②優劣を争う、③④(恐れや寒さのために)震える、の意味。
・「敗」は①負ける、②崩れているさま、③打ち負かす、④背く、の意味。
・2つ目の「兵」は①②③④軍隊、の意味。
・2つ目の「先」は①②第一にする、③導く、④第一にする、の意味。
・2つ目の「戦」は①せめぎ合う、②優劣を争う、③④(恐れや寒さのために)震える、の意味。
・2つ目の「而」は①②順接の関係を表す接続詞、③④あなた、の意味。
・1つ目の「後」は①他のものよりも後になる、②決まった時間に間に合わない、③後、④後回しにする、の意味。
・「求」は①探す、②願う、③④要求する、の意味。
・3つ目の「勝」は①景色の優れた土地、②越える、③④抑える、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・2つ目の「勝」の“景色の優れた土地”は、其四3-7①「軍隊を損なう事態に至らない場所」を指すと考察。そのまま「軍隊を損なう事態に至らない場所」と解読。②④も同様に解読。

・1つ目の「戦」の“優劣を争う”は、其三6-1⑧「戦」の「軍隊の勢いで優劣を争う」の意味を積み上げていると考察し、「軍隊の勢いで優劣を争う」と解読。②1つ目の「戦」も同様に解読。

・3つ目の「勝」の“景色の優れた土地”は、自軍が敵軍よりも優勢になる場所を指すと考察。2つ目の「勝」の「軍隊を損なう事態に至らない場所」との意味の対比を考慮して「敵軍よりも優勢になる場所」と解読。

<②について>
・3つ目の「勝」の“越える”は、自軍が敵軍よりも優勢になる状態を指すと考察し、「(自軍が)優勢になる」と解読。③④1つ目の「勝」も同様に解読。

<③について>
・「敵軍よりも優勢になった軍隊で盛大に前進して敵軍を恐れ震えさせる」は、其九4-10①「強く命令して駆り立てて前進することは、敵を後退させる要因になるのである」を実践することと考察。

・「而を先だたんとする兵」の直訳は“自軍を導こうとする敵軍隊”となる。これは、其九4-10③「励まして別れを告げれば、追撃部隊を遠ざけるしんがり部隊は全力を尽くして導くのである」で記述される「しんがり部隊」を指すと考察。結果、「自軍を敵本軍から遠ざけようとするしんがり部隊」と解読。

・「敗」の“打ち負かす”は、其九4-10②「強く命令して退却する敵は、しんがり部隊を差し出して速く走るのである」に基づけば、「敵軍よりも優勢になった軍隊」は敵軍にしんがり部隊を出撃させる「正攻法部隊」とわかるため、奇策部隊が攻め取る意味で記述されていると考察。結果、「奇策部隊」と補った。

・「求」の“要求する”は、奇策部隊がしんがり部隊を攻め取った後で要求する事柄であるため、「自軍に寝返ること」と補った。④も同様に補う。

<④について>
・特に無し。

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