水の疾きに之かしめ、至りに石を漂かすことは、埶なり。

其五3-1

水之疾、至於漂石者、埶也。

shuǐ zhī jí、zhì yú piào shí zhě、yì yĕ。

解読文

①水の流れを速い状態に変化させ、最も極まった状態になって石を揺り動かすことは技術である。

②技術を身につけた将軍は、獲物となる敵部隊を揺り動かして堅固な“実”の奇策部隊に誘導して、奇策部隊と正攻法部隊が力を尽くして獲物となった敵部隊の周囲を取り囲ませるである。

③奇策部隊と正攻法部隊で獲物となった敵部隊を取り囲む奇正の戦術を使って迅速に兵士数を増やして最も極まった状態に至り、充実して堅固な“実”の敵軍を揺さぶって獲物となる敵部隊を出現させる理由は、軍隊に勢いが生じたからである。

④ひどく激しい軍隊の勢いを利用して獲物となる敵部隊を次々と出現させる将軍は、充実して堅固な“実”の自軍を流動的な風のように軍隊を分断して勢いよく急いで行軍して戦地に行き着かせるのである。
書き下し文
①水の疾(はや)きに之(ゆ)かしめ、至りに石を漂(うご)かすことは、埶(げい)なり。

②埶(げい)ある者は、於(う)を漂(うご)かして石に至らせ、疾(つと)めて之を水にせしむなり。

③水にすること之(もち)いて疾(はや)く至り、石を漂(うご)かして於(う)あらしむは、埶(せい)あればなり。

④疾(しつ)なる埶(せい)を之(もち)いて水たらしむ者は、石の漂(ふ)くを於(な)して至らしむなり。
<語句の注>
・「水」は①水の流れ、②③水没させる、④水の氾濫、の意味。
・「之」は①変わる、②③代名詞、④使う、の意味。
・「疾」は①速い、②力を尽くす、③迅速に、④ひどく激しい、の意味。
・「至」は①最も極まった状態、②行きつく、③極限にまで至る、④行きつく、の意味。
・「於」は①~になって、②③カラス、④~とする、の意味。
・「漂」は①②揺り動かす、③揺さぶる、④風が吹く、の意味。
・「石」は①②③④石、の意味。
・「者」は①助詞「こと」、②助詞「もの」、③重文で因果関係を表す助詞、④助詞「もの」、の意味。
・「埶」は①②技、③④勢い、の意味。
・「也」は①②断定の語気、③因果関係を表す助詞、④断定の語気、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「水之疾、至於漂石者、勢也」と「埶」を「勢」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「水の疾きに之かしむ」は「水の流れを速い状態に変化させる」と解読できる。この“水の流れ”が其四4-4①「洫」の“耕作地の用水路”を指すと考察すれば、「軍隊の兵士数がどんどん増えていく状態」を説くために用いられた表現と解釈できる。その意味を見据えれば、将軍が“軍隊の兵士数が増えていく”速さを意図的に操る内容が説かれると推察できる。

<②について>
・「於」の“カラス”は、其五3-2①「鷹が獲物の鳥に追いついて強奪する時は、周到に行き届いているのであり、獲物の鳥を傷つけて挫折させる要因は、攻め取る節目と時機が出現したからである」の「獲物の鳥」と考察。結果、「獲物となる敵部隊」と解読。③も同様に解読。

・「至」の“行きつく”は、「獲物となる敵部隊」を奇策部隊が隠れている場所に誘導することと考察し、使役形で「誘導する」と解読。

・「石」は、其五1-4①「戦略、戦術を使って敵軍を凌駕する道理は、自分の方に投げられた脆い卵を目にとめて固い木槌で打つに等しく自軍に向かって来る脆い敵軍を認識して固い自軍で打ち破るのであり、充実して堅固な“実”と虚弱な“虚”の正確な判断をするからである」で記述された「固い木槌」に類似すると考察すれば、「充実して堅固な“実”の状態の自軍」を指すと推察できる。さらに“自軍に向かって来る脆い敵軍を認識して固い自軍で打ち破る”のは「奇策部隊」の役割である。結果、「石」は「堅固な“実”の奇策部隊」と解読できる。
なお、其五5-2「任埶者、戰民也、如轉木石」において堅固な「石」が「自軍、堅固な軍隊」を指し、相対的に脆い「木」は「敵軍、脆い軍隊」を指すと考察できる。

・「之」は、「於」の「獲物となる敵部隊」を指示する代名詞と考察し、話の流れに合わせて「獲物となった敵部隊」と解読。

・「疾めて之を水にせしむ」は“力を尽くして獲物となった敵部隊を水没させることを行わせる”となる。これは、其五2-9③「奇策部隊が敵部隊の周囲を取り囲んで一斉に出撃した時、正攻法部隊が形勢逆転のきっかけを無くすようにその奇策部隊の周囲を取り囲む」状態を指すと考察。結果、「奇策部隊と正攻法部隊が力を尽くして獲物となった敵部隊の周囲を取り囲ませる」と解読。

<③について>
・「水」の“水没させる”は、②「水」で記述された「奇策部隊と正攻法部隊が力を尽くして獲物となった敵部隊の周囲を取り囲ませる」の意味を積み上げていると考察。結果、「水にすること」で「奇策部隊と正攻法部隊で獲物となった敵部隊を取り囲む奇正の戦術を使う」と解読。

・「至」の“極限にまで至る”は、取り囲んだ敵部隊を自軍に編制していく結果であるため、「兵士数を増やして極限に至る」と補って解読。

・「石」は、話の流れより敵軍全体を指すと解釈し、②の解釈を参考にして「充実して堅固な“実”の敵軍」と解読した。

<④について>
・「水」の“水の氾濫”は、其十三3-1③「」と同意と考察し、「獲物となる敵部隊を次々と出現させる」と解読。

・「石」は、話の流れより自軍全体を指すと解釈し、②の解釈を参考にして「充実して堅固な“実”の自軍」と解読した。

・「漂くを於す」の“風が吹くとする”は“風”の意味より、其七4-2①「其の疾きこと風の如く」の「自軍が勢いよく急いで行軍する時は流動的な風のように大軍十万は隊列を変化して分断する」と考察。結果、「流動的な風のように軍隊を分断して勢いよく急いで行軍する」と解読。
蛇足だが、「石の漂くを於して至らしむ者」を積み上げた内容に置き換える前の意味を見ると”重くて固い石に風を吹き付けて目的地に行きつかせる者“となる。

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