埶とは弩を彉る如くするなり、節とは幾しあるに発する如くするなり。

其五3-4

埶如彍弩、節如發幾。

yì rú kuò nŭ、jiē rú fā jǐ。

解読文

①軍隊の勢いとは、引き金装置を備えた弓を引き絞るに等しく軍隊の士気を最大限に高めることであり、攻め取る節目と時機とは、かすかな前触れが出現した瞬間に矢を射ることに等しく獲物となる敵部隊が出現した瞬間に奇策部隊を出撃させることである。

②引き金装置を備えた弓を引き絞るに等しく軍隊の士気が最大限に高まる理由は技術があるからであり、かすかな前触れが出現する瞬間を見つけ出すに等しく獲物となる敵部隊が出現する瞬間を見つけ出す要因は正攻法部隊にあるのである。

③引き金装置を備えた弓を引き絞るに等しく正攻法部隊の士気を最大限に高めて奇策部隊が出撃する準備を整えるのであり、正攻法部隊の周囲を取り囲んでいる奇策部隊は巡り合わせのような正攻法と奇策の移り変わりを実行するのである。

④引き金装置を備えた弓を引き絞るに等しく正攻法部隊の士気を最大限に高めて奇策部隊が出撃する準備を整え、敵軍から獲物となる敵部隊が出現したと判断すれば、矢を射るに等しく奇策部隊を出撃させるのである。
書き下し文
①埶(せい)とは弩(ど)を彉(は)る如くするなり、節(せつ)とは幾(きざ)しあるに発する如くするなり。

②弩(ど)を彉(は)る如くするは埶(げい)あればなり、幾(きざ)しあるに発(あば)く如くするは節(せつ)なればなり。

③弩(ど)を彉(は)る如くして埶(う)えるなり、幾(き)するもの節(せつ)の如く発するなり。

④弩(ど)を彉(は)る如くして埶(う)え、節(せつ)あるを幾(み)れば、発(はな)つ如くするなり。
<語句の注>
・「埶」は①勢い、②技、③④栽培する、の意味。
・1つ目の「如」は①②③④等しくする、の意味。
・「弩」は①②③④引き金装置を備えた弓、の意味。
・「彉」は①②③④弓を引き絞る、の意味。「彉」は「彍」の異字体。
・「節」は①其五3-2①「節」、②季節、③巡り合わせ、④其五3-2②「節」、の意味。
・2つ目の「如」は①②等しくする、③~のようである、④等しくする、の意味。
・「発」は①矢を射る、②見つけ出す、②実行する、④矢を射る、の意味。
・「幾」は①②かすかな前触れ、③ふちを飾る、④審査する、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は欠落しているため、孫子(講談社)の原文を採用した。但し、「勢」は他句から類推して「埶」に置き換えた。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「弩を彉る如くする」の直訳は“引き金装置を備えた弓を引き絞るに等しくする”となる。“弓を引き絞る”状態は張力を最大限に高めた状態と言えるため、“引き金装置を備えた弓”を“軍隊”の喩えと解釈すれば、“張力”は“(兵士達の)士気”を指すと考察できる。結果、「引き金装置を備えた弓を引き絞るに等しく軍隊の士気を最大限に高める」と解読。②も同様に解釈。
なお、“張力”を“(兵士達の)士気”と解釈できる理由は、主語が「軍隊の勢い」であることを踏まえて、其五3-3①「軍隊に勢いを生じさせて敵軍を不安定にして、獲物となる敵部隊を出現させて敵軍の兵士数を奇策部隊が攻め取って減らす」に着眼し、“敵軍を不安定にする”ことを敵軍に虚が生じた状態と解釈すれば、其四4-5②「どんどん自軍の士気が旺盛になれば整った敵軍は虚を生じるのである」より、自軍の士気を旺盛にすることが軍隊に勢いを生じさせる要因になると考察できるためである。

・「幾しあるに発する如くする」の直訳は“かすかな前触れが出現した瞬間に矢を射ることに等しくする”となる。其五3-2③「おとり部隊を狙った敵部隊が自軍の獲物に変わったのであり、堅固な”実”の奇策部隊に誘導していき、”攻め取る時機”の判断を下して容易く打ち破るのである」に基づけば、“かすかな前触れが出現した瞬間”は“獲物となる敵部隊が出現した瞬間”、“矢を射る”は“奇策部隊を出撃させる”ことと解釈できる。結果、「かすかな前触れが出現した瞬間に矢を射ることに等しく獲物となる敵部隊が出現した瞬間に奇策部隊を出撃させる」と解読。

<②について>
・「幾しあるに発く如くする」の直訳は“かすかな前触れが出現する瞬間を見つけ出すに等しくする”となる。“かすかな前触れが出現した瞬間”は②同様に解釈すれば“獲物となる敵部隊が出現する瞬間”となる。結果、「かすかな前触れが出現する瞬間を見つけ出すに等しく獲物となる敵部隊が出現する瞬間を見つけ出す」と解読。

・「節」の“季節”は、其五2-4「時」の”季節“を「正攻法部隊(を構成する各部隊)」と解釈した結果に基づき、「正攻法部隊」と解読。

<③について>
・「弩を彉る如くする」は、①②同様に「引き金装置を備えた弓を引き絞るに等しく軍隊の士気を最大限に高める」と解読できるが、②から話の流れ続いていると考察すれば、「弩」が指す“軍隊”は「正攻法部隊」を指すと解釈できる。結果、「引き金装置を備えた弓を引き絞るに等しく正攻法部隊の士気を最大限に高める」と解読。④も同様に解読。

・「埶」の“栽培する”は、其五2-3②「太陽と月が規則正しく動けば、冬は植物を枯らすけれども植物が芽生える準備をする」の「植物が芽生える準備をする」と同意と考察。そして、「植物が芽生える準備」は其五2-3③「月を出現させるに至る太陽は、植物が芽生える準備ができたことを告げる冬のように、隠れている奇策部隊が出撃する準備を整える正攻法部隊である」に基づけば、「隠れている奇策部隊が出撃する準備を整える」の喩えとわかる。結果、「奇策部隊が出撃する準備を整える」と解読。④も同様に解読。

・「幾」の“ふちを飾る”とは、其五2-9①「正攻法部隊の周囲を取り囲んでいる奇策部隊」を指すと考察。結果、「幾するもの」で「正攻法部隊の周囲を取り囲んでいる奇策部隊」と解読。

・「節の如く」の直訳は“巡り合わせのようである”となる。“巡り合わせ“は、其五2-9①「正攻法と奇策の移り変わり」を指すと考察。結果、「巡り合わせのような正攻法と奇策の移り変わり」と解読。

<④について>
・「節」は、其五3-2②「節」の「攻め取る節目」と解釈。其五3-2③「解読の注」、“「自軍の獲物」となった敵部隊は、出現した「攻め取る節目」”の解釈に基づき、「獲物となる敵部隊」と解読。

・「発つ如くす」は、①の解釈に基づき、「矢を射るに等しく奇策部隊を出撃させる」と解読。

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