渾渾なるものありて沌沌なるに、円に刑れば而ち敗ることに可たること不し。

其五4-2

渾渾沌沌、刑圓而不可敗。

hún hún dún dún、xíng yuán ér bù kĕ baì。

解読文

①自国に仕返しする覚悟を持った数多くの元敵兵達が存在してどんどん増えていく状態の時は、慣れ合いが広まっても正しく厳格過ぎても人民の心は離れていく道理をお手本にすれば元敵兵達が自国に仕返しする事態に向き合うことが無い。

②元敵兵達が自国に仕返しする事態に向き合うことが無い将軍は、自国に仕返しする覚悟を持った数多くの元敵兵達の衣食住を整えて、どんどん豊かにさせることに成功するのである。

③自国に仕返しする覚悟を持った数多くの元敵兵達をどんどん豊かにさせて、真心のある法規や決まりを元敵兵達に順応させて浸透させていけば、災いが生じる事態を許すことが無い。

④将軍は、人民をどんどん豊かにさせて真心のある法規や決まりに順応させて浸透させていき、自国に仕返しする覚悟を持った数多くの元敵兵達の反抗心を大いに落ち着かせなければならない。
書き下し文
①渾渾(こんこん)なるものありて沌沌(とんとん)なるに、円に刑(のっと)れば而(すなわ)ち敗(やぶ)ることに可(あ)たること不(な)し。

②敗(やぶ)ることに可(あ)たること不(な)き而(なんじ)は、渾渾(こんこん)なるもの円せしめて、沌沌(とんとん)たらしむこと刑(な)るなり。

③渾渾(こんこん)なるもの沌沌(とんとん)たらしめて、刑を円たらしめば而(すなわ)ち敗あること可(き)くこと不(な)し。

④而(なんじ)は、沌沌(とんとん)たらしめて刑を円たらしめ、渾渾(こんこん)なるもの不(おお)いに敗(やぶ)る可し。
<語句の注>
・1つ目の「渾」は①②③④澄んでいないさま、の意味。
・2つ目の「渾」は①②③④澄んでいないさま、の意味。
・1つ目の「沌」は①②③④「沌沌」で“水が流れるさま”、の意味。
・2つ目の「沌」は①②③④「沌沌」で“水が流れるさま“、の意味。
・「刑」は①手本にする、②成功する、③④規則、手本、の意味。
・「円」は①其五5-3①「円」、②完全に備わって欠けていないさま、③④よく慣れて行き渡っているさま、の意味。
・「而」は①条件関係を表す接続詞、②あなた、③条件関係を表す接続詞、④あなた、の意味。
・「不」は①②③無い、④大いに、の意味。
・「可」は①②向き合う、③許す、④~しなければならない、の意味。
・「敗」は①②背く、③災い、④萎む、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は欠落しているため、孫子(講談社)の原文を採用した。但し、「形」は他句から類推して「刑」に置き換えた。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「渾渾」は“澄んでいないさま”の意味を繰り返す畳字。事物が複数あることを表す意味があると考察し、この“澄んでいない”が其二1-2②「敵軍を服従させても元敵兵達が力を尽くすのは本心を隠した偽りであるため、いずれ自国に仕返しする覚悟に変わる」で記述された元敵兵達を指すと考察。結果、「渾渾なるもの」で「自国に仕返しする覚悟を持った数多くの元敵兵達」と解読。②③④も同様に解読。

・「沌沌」は、漢辞海によると“水が流れるさま“の意味になる畳字。この“水の流れ”が其四4-4①「洫」の“耕作地の用水路”を指すと考察すれば、「(軍隊の兵士数が)どんどん増えていく状態」と解読できる。

・「円」は、其五5-3②④「円」の「正しさが厳格過ぎれば人民の心は自国から離れていく」と「兵士達の心が自軍から離れていくならば慣れ合いの感情が広まっている」の意味を積み上げていると考察。結果、話の流れに合わせて「慣れ合いが広まっても正しく厳格過ぎても人民の心は離れていく道理」と解読。

・「敗」の“背く”は、其二4-2⑤「自国に仕返ししたい感情に揺れ動く敵兵達はその感情が極限に達すれば、戦車を具備して自軍の上級武将と見なした相手を虐げようとするのであり、自軍が敵の旗印を自軍の旗印に取り替えさせた敵戦車で巡回して上級武将の隙を狙って殺害しようとする」で記述されるような事態が生じることと考察。結果、「元敵兵達が自国に仕返しする」と解読。②も同様に解読。

<②について>
・「円」の“完全に備わって欠けていないさま”は、其二5-2④「人民が生活する町、村、里、集落に赴き、人民の生計を偵察して扶養すれば、自国に仕返ししたい人民が自国に順応する道理である。危険と思う自国に仕返ししたい人民は、養うことで自国に宿らせるのである」に基づけば、「自国に仕返しする覚悟を持った数多くの元敵兵達」の生活に必要な物事を完全に備えることと解釈できる。結果、「衣食住を整える」と解読。

・「沌沌」は、漢辞海によると“水が流れるさま“の意味になる畳字。この“水の流れ”が其四4-4④2つ目の「洫」の“耕作地の用水路”で説かれた「どんどん増える自国での収入」を参考にすれば、「どんどん豊かにさせる」と解読できる。③④も同様に解読。

<③について>
・「刑」の“規則、手本”は、其一2-7①「法」の「法規やお手本」と同意であり、ここでは特に其十一7-7②「好き勝手にする敵人民にも真心のある法規や決まりを与えて誠実に実行すれば、自国に対する思いを厚くするのである」等で記述される「真心」の表現が適当と判断し、「真心のある法規や決まり」と解読。④も同様に解読。

・「円」の“よく慣れて行き渡っているさま”は、「真心のある法規や決まり」に元敵兵達が順応して浸透していくことと考察し、使役形で「順応させて浸透させていく」と解読。④も同様に解読。

<④について>
・「敗」の“萎む”は、「自国に仕返しする覚悟を持った数多くの元敵兵達」の「自国に仕返しする覚悟」を萎ませて落ち着かせることと考察。結果、使役形で「反抗心を落ち着かせる」と解読。

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