我の戦いを欲せざるに、地を画りて之る適を守るなり、不いに得て我と戦うものを与するは、其の所を膠して之らしめばなり。

其六3-4

我不欲戰、畫地而守之、適不得與我戰者、膠其所之也。

wǒ bù yù zhàn、huà de ér shoǔ zhī、shì bù deǐ yŭ wǒ zhàn zhě、jiāo qí suǒ zhī yĕ。

解読文

①自国が戦争を望まない時は、領土を区分して侵略してくる敵軍を管理するのであり、大いに具備して自国に侵略戦争を仕掛ける敵軍をあしらう理由は、敵軍の狙う虚の場所を固定して動かないようにして侵略させるからである。

②侵略してくる敵軍に揺れ動かされることを望まない自国の将軍は、侵略させる戦地を計画するのである。将軍が具備すること無く待ち受けて敵軍を侵略させて、抵抗する自軍に恐れ震えさせれば、敵軍の狙う虚の場所をしっかり固定させた状態に達するのである。

③侵略してくる敵軍とせめぎ合う願望があって大いに我を張る将軍は、侵略させる戦地を計画しても防衛のための兵士達を赴かせて、侵略してくる敵軍が大いに具備することを許すのであり、自軍が恐れ震えれば、侵略してきた敵軍の優位な状態をしっかり固定させた状態に達するのである。

④我を張ることが無く、侵略してくる敵軍を操る戦略の実現をひたすら望む将軍は、その戦略を固く守って実行するのである。侵略してきた敵軍を偽りの優位な状態に至らせて、敵将軍を大いに得意にさせた時、自国の将軍は同盟を結んだ諸侯を出現させて恐れ震えさせるのである。
書き下し文
①我の戦いを欲せざるに、地を画(かぎ)りて之(いた)る適を守るなり、不(おお)いに得て我と戦うものを与(くみ)するは、其の所を膠(にかわ)して之(いた)らしめばなり。

②戦(そよ)がれること欲せざる我は、地を画(はか)るなり。而(なんじ)は得ること不(な)く守りて適を之(いた)らしめて、与(あ)たる我に戦(おのの)かしめば、其の所は膠(かた)きに之(いた)るなり。

③戦う欲ありて不(おお)いに我する而(なんじ)は、地を画(はか)るも守りを之(ゆ)かしめて、適の不(おお)いに得ること与(ゆる)すなり、我は戦(おのの)けば、其の所は膠(かた)きに之(いた)るなり。

④我すること不(な)く、戦(そよ)げしむ画(かく)あること地(た)だ欲する而(なんじ)は、之を守るなり。膠(こう)なる其の所を之(いた)らしめて、適を不(おお)いに得せしむに、我は与(よ)なる者あらしめて戦(おのの)かしむなり。
<語句の注>
・1つ目の「我」は①自国、②私、③④我を張る、の意味。
・1つ目の「不」は①②~しない、③大いに、④無い、の意味。
・「欲」は①②(ある状態や事態の実現を)望む、③願望、④(ある状態や事態の実現を)望む、の意味。
・1つ目の「戦」は①戦争、②揺れ動く、③せめぎ合う、④揺れ動く、の意味。
・「画」は①区分する、②③計画する、④策略、の意味。
・「地」は①領土、②③其一2-5②「地」、④ひたすら、の意味。
・「而」は①順接の関係を表す接続詞、②③④あなた、の意味。
・「守」は①管理する、②待ち受ける、③防衛のための兵士、④固く守って実行する、の意味。
・1つ目の「之」は①②ある地点や事情に達する、③赴く、④代名詞、の意味。
・「適」は①②③④敵、の意味。
・2つ目の「不」は①大いに、②無い、③④大いに、の意味。
・「得」は①②③具備する、④得意にする、の意味。
・「与」は①あしらう、②相手に抵抗する、③許可する、④同盟を結んださま、の意味。
・2つ目の「我」は①自国、②③自分の側、④私、の意味。
・2つ目の「戦」は①戦をする、②③④(恐れや寒さのために)震える、の意味。
・「者」は①重文で因果関係を表す助詞、②仮定表現の助詞、③助詞「こと」、④助詞「もの」、の意味。
・「膠」は①ものを固定して動かないようにする、②③しっかり固定されたさま、④偽りのさま、の意味。
・「其」は①②③④敵の代名詞、の意味。
・「所」は①②思い、虚実の代名詞、③④よろしき状態、虚実の代名詞、の意味。
・2つ目の「之」は①②③④ある地点や事情に達する、の意味。
・「也」は①因果関係を表す助詞、②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「我不欲戰、畫地而守之、敵不得與我戰者、膠其所之也。」と「適」を「敵」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「之る適」の直訳は“至る敵”となる。これは自国に敵軍が侵略してくることと考察し、「侵略してくる敵軍」と解読。

・2つ目の「戦」は、敵国から自国に侵略して戦争を仕掛けている文意であるため、「侵略戦争を仕掛ける」と補って解読。

・「其の所」の直訳は“敵の思い”となる。この“思い”は、侵略戦争を仕掛けてくる敵軍の“狙う場所“と考察し、「敵軍の狙う虚の場所」と補って解読。なお、「虚」の意味は、「所」に“思い”だけでなく、“虚実の代名詞“の意味が込められていると解釈したのであり、この敵軍が狙う場所は罠であるため敵軍に虚が生じると考察した。②も同様に解読。

・2つ目の「之」の“ある地点や事情に達する”は、「之る適」の「侵略してくる敵軍」の解読に合わせて、「侵略する」と解読。

<②について>
・「戦がれる」の“揺れ動かされる”は、①「侵略戦争を仕掛ける敵軍」が侵略してくる場所を固定できていない場合、その対応によって“揺れ動かされる”のだと解釈できる。結果、「侵略してくる敵軍に揺れ動かされる」と補って解読。

・1つ目の「我」の“私”は、文意より自軍の将軍を指すと考察。結果、「自国の将軍」と解読。

・「地」は、敵軍が侵略してきた場所が戦地になるため其一2-5②「地」の「戦地」と同意と考察。また、侵略される場所が戦地になることをわかりやすくするため、「侵略させる戦地」と補って解読。③も同様に補う。

・1つ目の「之」の“ある地点や事情に達する”は、①2つ目の「之」と同様に解釈して「侵略する」と解読。

・2つ目の「我」の“自分の側”は、軍隊における“自分の側”と考察し、「自軍」と解読。③も同様に解読。

・「抵抗する自軍に恐れ震えさせる」は、自軍の兵士達に演技させるのではなく、具備していない状態で侵略してきた敵軍に対峙するため、本当に恐れ震えているのだと推察する。だからこそ、侵略してきた敵軍は狙う場所が正しかったと確信させるに至ると考察する。

<③について>
・1つ目の「戦」の“せめぎ合う”は、侵略してくる敵軍とせめぎ合うことと考察し、「侵略してくる敵軍とせめぎ合う」と解読。

・「其の所」の直訳は“敵をよろしき状態にさせる”となる。これは、侵略を狙う場所に配備された防衛のための兵士達を偵察し、その自軍を撃てるだけの備えを敵軍が整えた状態と考察。「侵略してきた敵軍の優位な状態」と補って解読。なお、この状態は「敵軍の実」と解釈できるが、解読文がわかりづらくなるため割愛した。④も同様に解読。

<④について>
・「戦げしむ画」の直訳は“揺れ動かす策略”となる。この“揺れ動かす“は、侵略してくる敵軍の狙う場所を操ることと考察。結果、「侵略してくる敵軍を操る戦略」と解読。

・1つ目の「之」は、「画」の「侵略してくる敵軍を操る戦略」を指示する代名詞と考察し、話の流れに合わせて「その戦略」と解読。

・2つ目の「我」の“私”は、文意より自軍の将軍を指すと考察。結果、「自国の将軍」と解読。

・「与なる者」の“同盟を結んだ者”は、同盟を結ぶ相手であるため「同盟を結んだ諸侯」と解読。

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