前に備える者は後ろを寡とし、左に備える者は右を寡とすなり、備えを不いに无する者は、寡きものあるを不いに无するなり。

其六4-5

備前者後寡、備左者右寡、无不備者无不寡。

bèi qián zhě hòu guǎ、bèi zuǒ zhě yoù guǎ、wú bù bèi zhě wú bù guǎ。

解読文

①前方に対して用心する将軍は後方を取るに足りないと侮り、左側に対して用心する将軍は右側を取るに足りないと侮るのであり、敵軍に対する警戒を大いに蔑ろにする将軍は、敵の奇策部隊が出現することを大いに無視するのである。

②前方の兵士数を増やせば後方に少人数部隊が生じ、左側の兵士数を増やせば右側に少人数部隊が生じるのであり、一方だけに兵士数を増やして少人数部隊が生じることを大いに無視する将軍は、大いに侮られるのである。

③前方の兵士数を増やした状態で前進すれば少人数部隊は遅れるのであり、左側の兵士数を増やした状態で左側に進めば右側にいる少人数部隊は無視されるのであり、少人数部隊が生じても大いに無視する将軍は軍隊を整えることが無いのである。

④遅れる少人数部隊を生じさせる軍隊がある時は、前もって、軍隊を整えることを補佐する者を設置して気を配らせれば、少人数部隊が生じることが無い。大いに用心する将軍は、敵の奇策部隊が出現することを無視することが無い。
書き下し文
①前に備える者は後ろを寡(か)とし、左に備える者は右を寡(か)とすなり、備えを不(おお)いに无(なみ)する者は、寡(な)きものあるを不(おお)いに无(なみ)するなり。

②前に備えれば後ろに寡(か)あり、左に備えれば右に寡(か)あるなり、備えて寡(か)あること不(おお)いに无(なみ)する者は不(おお)いに无(なみ)されるなり。

③備えるに前(すす)めば寡(か)は後(おく)れるなり、備えるに左すれば右の寡(か)は无(なみ)されるなり、寡(か)あるも不(おお)いに无(なみ)する者は備えること不(な)きなり。

④後(おく)れる寡(か)あらしむ者あるに、前(さき)に、備えること左(さ)する者を備えて右(たす)けしめば、寡(か)あること无(な)し。不(おお)いに備える者は、寡(な)きものあるを无(なみ)すること不(な)し。
<語句の注>
・1つ目の「備」は①用心する、②③人数を加える、④整える、の意味。
・「前」は①②位置において先、③前進する、④前もって、の意味。
・1つ目の「者」は①助詞「もの」、②③仮定表現の助詞、④助詞「もの」、の意味。
・「後」は①②場所が後方であること、③④他のものよりも後になる、の意味
・1つ目の「寡」は①取るに足りないと侮る、②③④少し、の意味。
・2つ目の「備」は①用心する、②③人数を加える、④設置する、の意味。
・「左」は①②位置の名、③左側に行く、④補佐する、の意味。
・2つ目の「者」は①助詞「もの」、②③仮定表現の助詞、④助詞「もの」、の意味。
・「右」は①②③右側、④気を配る、の意味。
・2つ目の「寡」は①取るに足りないと侮る、②③④少し、の意味。
・1つ目の「无」は①蔑ろにする(「無」より)、②軽んずる(「無」より)③無視する(「無」より)、④存在しない、の意味。
・1つ目の「不」は①②大いに、③無い、④大いに、の意味。
・3つ目の「備」は①警戒、②人数を加える、③整える、④用心する、の意味。
・3つ目の「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・2つ目の「无」は①②③④無視する(「無」より)、の意味。
・2つ目の「不」は①②③大いに、④無い、の意味。
・3つ目の「寡」は①其六4-3④2つ目の「寡」、②③少し、④其六4-3④2つ目の「寡」、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・1つ目の「无」は漢字「無」と同じと解釈。ここでは「無」の“蔑ろにする”意味を採用した。

・2つ目の「无」は漢字「無」と同じと解釈。ここでは「無」の“無視する”意味を採用した。④も同様に解読。

・3つ目の「寡」は、其六4-3④2つ目の「寡」の「無視させた奇策部隊」と同意と考察。結果、ここでは「寡きもの」で「奇策部隊」と解読。④も同様に解読。

<②について>
・1つ目と2つ目と3つ目の「寡」の“少し”は、其五1-1①「寡」等同様に「少人数部隊」と解読。③も同様に解読。

・3つ目の「備」の“人数を加える”は、前半の記述より「一方だけに兵士数を増やす」と補って解読できる。

・1つ目の「无」は漢字「無」と同じと解釈。ここでは「無」の“軽んずる”意味を採用した。

・2つ目の「无」は漢字「無」と同じと解釈。ここでは「無」の“無視する”意味を採用した。

<③について>
・1つ目の「備」の“人数を加える”は、②「備」の「前方の兵士数を増やす」の意味を積み上げていると考察。結果、「前方の兵士数を増やす」と解読。

・2つ目の「備」の“人数を加える”は、②「備」の「左側の兵士数を増やす」の意味を積み上げていると考察。結果、「左側の兵士数を増やす」と解読。

・1つ目と2つ目の「无」は漢字「無」と同じと解釈。ここでは「無」の“無視する”意味を採用した。

<④について>
・1つ目と2つ目の「寡」の“少し”は、其五1-1①「寡」等同様に「少人数部隊」と解読。

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