日に戦いあるに之くと知ること不く、戦う地に之きて知ること不ければ、前むものは後れて救うこと能わず、前むこと後にするものは救わんとするも能えず、救あらしむこと左にして右なるものに能ず、右せんとするも左されて救うこと能わず。数里の近き者より数十里の遠き者に皇あり。

其六4-9

不知戰之日、不知戰之地、前不能救後、後不能救前、左不能救右、右不能救左。皇遠者數十里、近者數里乎。

bù zhī zhàn zhī rì、bù zhī zhàn zhī dì、qián bù néng jiù hòu、hòu bù néng jiù qián、zuǒ bù néng jiù yoù、yoù bù néng jiù zuǒ。huáng yuǎn zhě shù shí lǐ、jìn zhě shù lǐ hū。

解読文

①日を追う毎に戦闘勃発に向かっていると感じること無く、戦闘する場所に赴いて知識を得ることも無ければ、前進する自軍は劣勢となって敵軍を防ぐことができず、自軍が戦地に先駆けることを重視しない将軍は敵軍の攻撃を防ごうとしても耐えられず、諸侯の援護部隊を出現させることを蔑ろにして勢力ある敵軍に耐えられず、敵将軍に謁見しようとしても却下されて敵軍を制止することができない。この将軍は、数里先の近い敵軍よりも、数十里先に離れている敵軍に対してゆとりがある。

②日を追う毎に戦闘勃発に向かっていると大いに感じても、戦闘する場所に赴いて知識を得ることも無ければ、自軍が戦地に先駆ける時に敵軍を制止して遅れさせることができず、自軍が劣勢の時に前進してくる敵軍を制止することができず、自軍を補佐する諸侯の援護部隊を出現させても勢力ある敵軍には耐えられず、敵将軍に酒や食事を勧めて敵軍を制止しようとしても敵将軍は自軍を侮って打ち解けることが無い。恐れる自軍が数十里離れて近づかなくても、数里まで接近してくる敵軍が出現するだろう。

③戦闘する場所に赴いて大いに知識を得ても、日を追う毎に戦闘勃発に向かっていると感じること無ければ、前もって防御することができずに敵軍よりも劣勢になり、諸侯の援護部隊を前進させることができずに決戦の期日に間に合わず、諸侯の援護部隊と考えが食い違って全軍で勢いを生み出すことができず、有能な将軍が謁見して大いに敵軍を制止させておこうとすれば侮られるのである。自軍の態勢を立て直すために敵軍を避ける将軍は、元敵里に入って戦略、戦術を完全な内容に練り直そうとするが、元敵里で将軍に接近してくる者は敵将軍が仕掛けた間者だろう。

④戦闘に使う戦地を大いに識別して、日を追う毎に戦闘勃発に向かっていると敵国に感じさせることが無い将軍は、自軍が戦地に先駆ける時は大いに敵軍を制止させて劣勢にさせ、決戦の期日に遅れること無く諸侯の援護部隊を前進させることができ、諸侯の援護部隊と考えが食い違うこと無く自軍の戦略、戦術を尊重させることができ、敵将軍に謁見すれば自軍を侮らせること無く敵軍を制止させるのである。この将軍は、数十の敵里を自国に服従させれば、荘厳な軍隊で数里先の敵軍に接近するだろう。
書き下し文
①日に戦いあるに之(ゆ)くと知ること不(な)く、戦う地に之(ゆ)きて知ること不(な)ければ、前(すす)むものは後(おく)れて救うこと能(あた)わず、前(すす)むこと後にするものは救わんとするも能(た)えず、救(きゅう)あらしむこと左にして右なるものに能(たえ)ず、右せんとするも左されて救うこと能(あた)わず。数里の近き者より数十里の遠き者に皇(いとま)あり。

②日に戦いあるに之(ゆ)くと不(おお)いに知るも、戦う地に之(ゆ)きて知ること不(な)ければ、前(すす)むに救いて後(おく)れしむこと能(あた)わず、後(おく)れるに前(すす)むもの救うこと能(あた)わず、左(さ)する救(きゅう)あらしむも右なるものに能(たえ)ず、右(すす)めて救わんとするも左にして能(よ)すること不(な)し。皇(こう)する者は数十里より遠ざけるも、数里に近づく者ある乎(か)。

③戦う地に之(ゆ)きて不(おお)いに知るも、日に戦いあるに之(ゆ)くと知ること不(な)ければ、前(さき)に救うこと能(あた)わざりて後(おく)れ、救(きゅう)を前(すす)めしむこと能(あた)わざりて後(おく)れ、救(きゅう)と左(たが)いて右たらしむこと能(あた)わず、能の右して不(おお)いに救(きゅう)せしめんとすれば左にされるなり。皇(ただ)さんとするに遠ざかる者は、里に数(すう)を十たらしまんとするも、里の近づく者は数なる乎(か)。

④戦いに之(もち)いる地を不(おお)いに知りて、日に戦いあるに之(ゆ)くと知らしむこと不(な)きものは、前(すす)むに不(おお)いに能(よ)く救わしめて後(おく)れしめ、後(おく)れること不(な)く能(よ)く救(きゅう)に前(すす)めしめ、救(きゅう)と左(たが)うこと不(な)く能(よ)く右(たうと)ばしめ、右すれば左にせしむこと不(な)く能(よ)く救わしむなり。数十の里を遠ざけしめば、皇(こう)なりて数里に近づく者乎(か)。
<語句の注>
・1つ目の「不」は①無い、②大いに、③④無い、の意味。
・1つ目の「知」は①②③④感じる、の意味。
・1つ目の「戦」は①②③④争い、の意味。
・1つ目の「之」は①②③④赴く、の意味。
・「日」は①②③④日を追う毎に、の意味。
・2つ目の「不」は①②無い、③④大いに、の意味。
・2つ目の「知」は①②③知識を得る、④識別する、の意味。
・2つ目の「戦」は①②③戦をする、④争い、の意味。
・2つ目の「之」は①②③赴く、④使う、の意味。
・「地」は①②③其一2-5①「地」、④其一2-5②「地」、の意味。
・1つ目の「前」は①前進する、②先駆けをする、③前もって、④先駆けをする、の意味。
・3つ目の「不」は①②③~しない、④大いに、の意味。
・1つ目の「能」は①②③④~することができる、の意味。
・1つ目の「救」は①防ぐ、②制止する、③防ぐ、④制止する、の意味。
・1つ目の「後」は①能力や地位が劣る、②他のものよりも後になる、③④能力や地位が劣る、の意味。
・2つ目の「後」は①重視しない、②能力や地位が劣る、③④決まった時間に間に合わない、の意味。
・4つ目の「不」は①②③~しない、④無い、の意味。
・2つ目の「能」は①②耐えられる、③④~することができる、の意味。
・2つ目の「救」は①防ぐ、②制止する、③④援護兵、の意味。
・2つ目の「前」は①先駆けをする、②③④前進する、の意味。
・1つ目の「左」は①蔑ろにする、②補佐する、③④食い違う、の意味。
・5つ目の「不」は①②③~しない、④無い、の意味。
・3つ目の「能」は①耐えられる、②③④~することができる、の意味。
・3つ目の「救」は①②③④援護兵、の意味。
・1つ目の「右」は①②③勢力のあるさま、④尊重する、の意味。
・2つ目の「右」は①近づく、②酒や食事を勧める、③④近づく、の意味。
・6つ目の「不」は①~しない、②無い、③大いに、④無い、の意味。
・4つ目の「能」は①~することができる、②打ち解ける、③有能な人、④~することができる、の意味。
・4つ目の「救」は①②③④制止する、の意味。
・2つ目の「左」は①反対する、②③④蔑ろにする、の意味。
・「皇」は①ゆとりがある、②恐れる、③匡正する、④荘厳なさま、の意味。
・「遠」は①隔たりが大きい、②近づかない、③避ける、④疎遠にする、の意味。
・1つ目の「者」は①②助詞「もの」、③助詞「こと」、④仮定表現の助詞、の意味。
・1つ目の「数」は①②いくつかの、③策略、④いくつかの、の意味。
・「十」は①②数の名、③完全なさま、④数の名、の意味。
・1つ目の「里」は①②長さの単位、③④住民の集落(里)、の意味。
・「近」は①距離がわずか、②③④接近する、の意味。
・2つ目の「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・2つ目の「数」は①②いくつかの、③策略、④いくつかの、の意味。
・2つ目の「里」は①②長さの単位、③住民の集落(里)、④長さの単位、の意味。
・「乎」は①比較を補う前置詞、②③④推測を表す語気助詞、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「不知戰之日、不知戰之地、前不能救後、後不能救前、左不能救右、右不能救左、況遠者數十里、近者數里乎。」と「皇」を「況」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・2つ目の「前」の“先駆けをする”は、其六1-1①「立場の優劣を争って戦地を先制した将軍が敵軍に諫言すれば恐れ震える敵兵達が逃亡し、立場の優劣を争っても戦地に遅れた将軍は差し迫って敵軍と優劣を争う方法について悩む」を実現することが目的と考察。結果、「自軍が戦地に先駆ける」と補って解読。②④1つ目の「前」も同様に解読。

・3つ目の「救」の“援護兵”は、其六3-3②「救」の「同盟を結んだ諸侯の援護部隊」と同意と考察。結果、簡潔に「諸侯の援護部隊」と解読。②も同様に解読。

・「右せんとするも左される」の直訳は“近づこうとしても反対される”となる。これは自軍から敵将軍に謁見したくても却下されて会えないことと考察。結果、「敵将軍に謁見しようとしても却下される」と解読。

<②について>
・特に無し。

<③について>
・2つ目と3つ目の「救」の“援護兵”は、①②3つ目の「救」同様に「諸侯の援護部隊」と解読。

・2つ目の「後」の“決まった時間に間に合わない”は、其十一9-3②「敵将軍の考えていた計画を制止しても、約束した時間に同盟を結んだ諸侯が戦地に到達しなければ、使者を往来させられたい」で記述される「約束した時間」に間に合わないことと考察。この時間は、合従策によって其三1-3①「せめぎ合うことなく敵軍を抑えつけるのは、完全な状態に保つ」ことで敵国を降服させる日であるため、「決戦の期日に間に合わない」と解読した。

・「諸侯の援護部隊と考えが食い違って全軍で勢いを生み出すことができない」は、戦闘勃発に向かっていると感じていなかった将軍が、其十一1-6②「周到に行き届いて指導する将軍は諸侯が仰ぎ頼る存在となるが、あらゆる事柄に対して命令を出す方法を具備して学習させた時、諸侯を驚き恐れさせるのである」を実践していないため起こった不具合と考察する。

・2つ目の「右」の“近づく”は、①2つ目の「右」同様に解釈して「謁見する」と解読。④も同様に解読。

・「有能な将軍が謁見して大いに敵軍を制止させておこうとすれば侮られる」は、其十一9-3②「敵将軍の考えていた計画を制止しても、約束した時間に同盟を結んだ諸侯が戦地に到達しなければ、使者を往来させられたい」の教えを実行して諸侯が到着するまで時間稼ぎをしようとしたが失敗したのだと推察する。

・2つ目の「数」の“策略”は、敵将軍が仕掛けた戦術であり、話の流れから自軍の練り直した戦略、戦術に関する情報を得るために間者を送り込んだのだと考察。つまり、この結果、「敵将軍が仕掛けた間者」と解読。

<④について>
・2つ目の「後」の“決まった時間に間に合わない”は、③2つ目の「後」の「決戦の期日に間に合わない」の解釈から類推し、話の流れに合わせて「決戦の期日に遅れる」と解読。

・2つ目と3つ目の「救」の“援護兵”は、①②3つ目の「救」同様に「諸侯の援護部隊」と解読。

・「遠」の“疎遠にする”は、敵里を自国に服従させることと考察。結果、「自国に服従させる」と解読。

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