刑を无せしむに則れば、深くする閒は規ること能わざるなり、知ある者は弗うこと能く謀るなり。

其六5-3

无刑則、深閒弗能規也、知者弗能謀也。

wú xíng zé、shēn xián fù néng guī yě、zhī zhě fù néng moú yě。

解読文

①敵軍に陣形等の型を無視させる方法をお手本にすれば、潜んでいる敵の奇策部隊は奇正の戦術の実現を求めることができないのであり、知恵ある将軍は敵の奇策部隊の厄介払いを計画することができるのである。

②敵軍に陣形等の型を無視させるお手本を蔑ろにして自軍を整え治めても、隠れている自軍の奇策部隊は奇正の戦術の実現を求めることができないのであり、知識だけある将軍は戦略、戦術を計画することができないのである。

③鞭打つ処罰が存在しない真心のある法規や決まりがあれば、慣れ合いの感情が広まって兵士達の心が自軍から離れていく時は道義的に正しくすれば国に宿ることをお手本にして、兵士達の任務に対する気持ちを改めさせて自国に潜んでいる敵間者を厄介払いできるのであり、敵間者を厄介払いできる理由は、里等で人民と交流する役人が有能な将軍のために働くからである。

④真心のある法規や決まりが存在せずに鞭打つ処罰を行えば、里等で人民と交流する役人は有能な将軍のために働かないのであり、任務を成功させようとする敵間者を周到に遠ざけることができないのである。
書き下し文
①刑を无(なみ)せしむに則(のっと)れば、深くする閒(かん)は規(はか)ること能(あた)わざるなり、知ある者は弗(はら)うこと能(よ)く謀るなり。

②則(そく)を无(なみ)して刑(おさ)めるも、深くする閒(かん)は規(はか)ること能(あた)わざるなり、知のみある者は謀ること能(あた)わざるなり。

③刑无(な)き則(そく)あれば、規(き)なりて深くする閒を能(よ)く弗(はら)うなり、弗(はら)うは、知る者の能を謀ればなり。

④則(そく)无(な)くして刑すれば、知る者は能に謀らざるなり、規(はか)るもの深く閒(へだ)てること能(あた)わざるなり。
<語句の注>
・「无」は①無視する(「無」より)、②蔑ろにする(「無」より)、③④存在しない、の意味。
・「刑」は①鋳型、②整え治める、③仕置き(死刑を含む重大な身体的仕置きを指し、罰よりも重い)、④罰する、の意味。
・「則」は①模範とする、②模範、③④決まり、の意味。
・「深」は①潜む、③隠す、③潜む、④周到に、の意味。
・「閒」は①②③スパイ、④遠ざける、の意味。
・1つ目の「弗」は①②~しない、③厄払いする、④~しない、の意味。
・1つ目の「能」は①②③④~することができる、の意味。
・「規」は①②実現しようと求める、③円い、④実現しようと求める、の意味。
・1つ目の「也」は①②③④断定の語気、の意味。
・「知」は①知恵、②知識、③④交わる、の意味。
・「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・2つ目の「弗」は①②③厄払いする、④~しない、の意味。
・2つ目の「能」は①②~することができる、③④有能な人、の意味。
・「謀」は①②計画する、③④~のために働く、の意味。
・2つ目の「也」は①②断定の語気、③因果関係を表す助詞、④断定の語気、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「无形、則深閒弗能窺也、智者弗能謀也。」と「刑」を「形」とし、「規」を「窺」とし、「知」を「智」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「无」は漢字「無」と同じと解釈。ここでは「無」の“無視する”意味を採用した。

・「刑」の“鋳型”は、其五4-5④「刑」の「敵軍からの攻撃を誘う陣形等の型」と同意と考察。結果、「陣形等の型」と解読。

・「深くする閒」の直訳は“潜むスパイ”となる。文意より敵軍が潜ませた奇策部隊の間者を指すと考察。結果、「潜んでいる敵の奇策部隊」と解読。

・「規」の“実現しようと求める”は、潜んでいる敵の奇策部隊が主語と解釈でき、奇正の戦術を実現しようと求めることと考察できる。結果、「奇正の戦術の実現を求める」と解読。

・2つ目の「弗」の“厄払いする”は、隠れている敵の奇策部隊を厄介払いすることと考察。結果、「弗うこと」で「敵の奇策部隊の厄介払い」と補って解読。

<②について>
・「則」の“模範”は、①「敵軍に陣形等の型を無視させる方法をお手本にする」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵軍に陣形等の型を無視させるお手本」と解読。

・「无」は漢字「無」と同じと解釈。ここでは「無」の“蔑ろにする”意味を採用した。

・「深くする閒」の直訳は“隠したスパイ” となる。文意より自軍が隠れさせた奇策部隊の間者を指すと考察。結果、「隠れている自軍の奇策部隊」と解読。

・「規」の“実現しようと求める”は、隠れている自軍の奇策部隊が主語と解釈でき、奇正の戦術を実現しようと求めることと考察できる。結果、「奇正の戦術の実現を求める」と解読。

<③について>
・「刑」の “仕置き(死刑を含む重大な身体的仕置きを指し、罰よりも重い)”は、其九4-26②「行き詰まっている敵の隊長は、一つひとつの罪状を数え挙げて責めてから鞭打つのである」で記述された「鞭打つ」ことを指すと考察。結果、「鞭打つ処罰」と解読。

・「則」の“決まり”は、其一2-7①「法」の「法規やお手本」と同意であり、ここでは特に其十一7-7②「好き勝手にする敵人民にも真心のある法規や決まりを与えて誠実に実行すれば、自国に対する思いを厚くするのである」等で記述される「真心」の表現が適当と判断し、「真心のある法規や決まり」と解読。④も同様に解読。

・「深くする閒」の直訳は“潜むスパイ” となる。文意より敵将軍が自国に潜ませた間者を指すと考察。結果、「自国に潜んでいる敵間者」と解読。

・「規」の“円い”は、其五5-3⑥「円」と同意と考察。其五5-3⑥「円なりて行けば則ち止まることに則りて方せしむ」で記述された「慣れ合いの感情が広まって兵士達の心が自軍から離れていくならば道義的に正しくすれば国に宿ることをお手本にして任務に対する気持ちを改めさせる」の意味を積み上げていると考察し、「規なり」で「慣れ合いの感情が広まって兵士達の心が自軍から離れていく時は道義的に正しくすれば国に宿ることをお手本にして、兵士達の任務に対する気持ちを改めさせる」と解読。

・「知る者」の直訳は“交わる者”となる。これは、「自国に潜んでいる敵間者」を厄介払いすることに貢献する存在であるため、其二5-2③「リーダーとなって物事を処理する役人は、人民の生活を支える職務を主管し、災いする人民と交流して馴染みになり、危害を与えようとする自国に仕返ししたい人民を町、村、里、集落に封じるに至るのである」で記述された役人を指すと考察。結果、「里等で人民と交流する役人」と解読。④も同様に解読。

<④について>
・「刑」の“罰する”は、③「刑」の「鞭打つ処罰」の意味を積み上げていると考察し、「鞭打つ処罰を行う」と解読。

・「規」の” 実現しようと求める“は、「自国に潜んでいる敵間者」が任務を成功させようと考えていることと考察。結果、「規るもの」で「任務を成功させようとする敵間者」と解読。

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