水の故なして地を因ねれば而ち制を行わしむなり、敵を因らしめて兵たりて勝を制めるなり。

其六6-3

故水因地而制行、兵因敵而制勝。

gù shuǐ yīn dì ér zhì xíng、bīng yīn dí ér zhì shèng。

解読文

①どんどん豊かにさせる政策を実行して元敵里等の豊かさを増し加えれば真心のある法規や決まりを流布させるのであり、敵人民を服従させて自軍の兵士にして豊かな陣地を掌握するのである。

②敵国から里等を奪って陣地を増やした将軍は、商売や交易をする店を制御して必ず自軍の財政を潤すのであり、自軍は敵国の里等を頼みにして軍隊規模を盛大にするのである。

③敵国の里等を頼みとする将軍は、必ず、どんどん兵士数を増やして自軍に従事させて統率するのであり、自軍が兵士数を増し加えれば敵国から勝利を断ち切るのである。

④将軍は、敵将軍が可愛がる者を自軍から遠ざける役目の者として間者を潜伏させる戦術を頼みとして敵将軍の考えていた計画を禁じるのであり、敵将軍の大切にしている者を殺害する戦術を利用すれば、将軍は敵将軍を抑えて掌握するのである。

⑤敵将軍の大切にしている者を殺害する戦術を実行して、将軍が敵将軍を抑えて掌握すれば敵国は既に滅ぼされた状態と同じであり、将軍が敵国を既に滅ぼされた状態にして抑えて従わせる理由は、可愛がる者を武器で殺して敵将軍を無気力にさせるからである。

⑥既に滅ぼされた状態の敵国は必ず自国に服従させて真心のある法規や決まりを流布させるのであり、将軍は、戦争を経て敵国を抑えてその法規や決まりを正すのである。

⑦敵国に真心のある法規や決まりを流布させる将軍は、敵国に貧しい地区があれば開墾してどんどん豊かにさせる政策で収穫を増やすのであり、将軍は、自軍の兵士達を働かせて敵国の貧しい地区で木を伐採して豊かな地区にするのである。

⑧開墾してどんどん豊かにさせる政策で収穫を増やす将軍が存在すれば自国領土の規模は必ず広まるのであり、将軍は、戦争を通して意見が対立している他国を抑えて従わせて豊かな国にするのである。
書き下し文
①水の故なして地を因(かさ)ねれば而(すなわ)ち制を行わしむなり、敵を因らしめて兵たりて勝(しょう)を制(おさ)めるなり。

②地を因(かさ)ねる而(なんじ)は、行(みせ)を制(おさ)めて故(もと)より水にするなり、兵は敵に因りて制は勝(しょう)たるなり。

③地に因る而(なんじ)は、故(もと)より水を行わしめて制するなり、兵を因(かさ)ねれば而(なんじ)は敵より勝ちを制するなり。

④而(なんじ)は地に水にする故に因りて行いを制するなり、兵に因れば而(なんじ)は敵に勝ちて制(おさ)えるなり。

⑤故を行いて而(なんじ)の制(おさ)めれば地を水にする因(ごと)し、而(なんじ)は敵を勝(しょう)たらしめて制する因(よし)は兵すればなり。

⑥水にする地は故(もと)より因(よ)らしめて制を行わしむなり、而(なんじ)は兵に因(よっ)て敵に勝ちて制するなり。

⑦制を行わしむ而(なんじ)は、故(ふ)る地あれば水に因(かさ)ねるなり、而(なんじ)は兵に因(よ)りて敵を制して勝(しょう)たらしむなり。

⑧水に因(かさ)ねる而(なんじ)あれば地の制を故(もと)より行るなり、而(なんじ)は兵に因(よっ)て敵を制して勝(しょう)たらしむなり。
<語句の注>
・「故」は①たくらみ、②③必ず、④⑤たくらみ、⑥必ず、⑦衰える、⑧必ず、の意味。
・「水」は①水の流れ、②潤す、③水の流れ、④水を染み込ませる、⑤⑥水没させる、⑦⑧水の流れ、の意味。
・1つ目の「因」は①②増し加える、③④頼みとする、⑤同じである、⑥順応する、⑦増し加える、⑧頼みとする、の意味。
・「地」は①②③其一2-5④「地」、④其一2-5③「地」、⑤⑥国土、⑦地区、⑧領土、の意味。
・1つ目の「而」は①条件関係を表す接続詞、②③④⑤あなた、⑥順接の関係を表す接続詞、⑦⑧あなた、の意味。
・1つ目の「制」は①制度、②制御する、③統率する、④禁じる、⑤掌握する、⑥⑦制度、⑧規模、の意味。
・「行」は①流布する、②商売、交易をする店、③従事する、④行為、⑤実行する、⑥⑦流布する、⑧広まる、の意味。
・「兵」は①戦士、②③軍隊、④戦術、⑤武器で人を殺す、⑥戦争、⑦戦士、⑧戦争、の意味。
・2つ目の「因」は①順応する、②頼みとする、③増し加える、④利用する、⑤理由、⑥~を経て、⑦利用する、⑧~を通して、の意味。
・「敵」は①②③④⑤⑥⑦戦争や競争で対抗する相手、⑧利害や意見が対立する相手、の意味。
・2つ目の「而」は①②順接の関係を表す接続詞、③④⑤⑥⑦⑧あなた、の意味。
・2つ目の「制」は①掌握する、②規模、③(木を)断ち切る、④掌握する、⑤抑えて従わせる、⑥正す、⑦(木を)断ち切る、⑧抑えて従わせる、の意味。
・「勝」は①景色の優れた土地、②盛大な、③勝利、④抑える、⑤既に滅ぼされたさま、⑥抑える、⑦⑧景色の優れた土地、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「水の故」の直訳は“水の流れのたくらみ”となる。これは其六6-2⑦「水」で記述された「開墾して盛大にどんどん豊かにさせる政策」を指すと考察。結果、簡潔に「どんどん豊かにさせる政策」と解読。

・「地」は、其一2-5④「地」の「敵国の町、村、里、集落」を指すと解釈。結果、其六6-2からの話の流れに合わせて「元敵里等」と解読する。

・1つ目の「因」の“増し加える”は、話の流れより「豊かさを増し加える」と解読。

・1つ目の「制」の“制度”は、其一2-7①「法」の「法規やお手本」と同意と解釈。ここでは特に其十一7-7②「好き勝手にする敵人民にも真心のある法規や決まりを与えて誠実に実行すれば、自国に対する思いを厚くするのである」等で記述される「真心」の表現が適当と判断し、「真心のある法規や決まり」と解読。⑥⑦も同様に解読。

・「勝」の“景色の優れた土地”は、豊かさを増し加えた元敵里等を指すと考察。この元敵里等は、其三1-3①「せめぎ合うことなく敵軍を抑えつけるのは、完全な状態に保つ」ことで敵国を降服させるための陣地であることを踏まえて「豊かな陣地」と解読。②も同様に解読。

<②について>
・「地」は、其一2-5④「地」の「敵国の町、村、里、集落」を指すと解釈。結果、話の流れに合わせて「敵国の里等」と解読する。③も同様に解読。

・「地を因ねる」は、「地」を「敵国の里等」と解釈すれば“敵国の里等を増し加える”となる。これは自軍が里等を奪い取って陣地を増やしていくことと考察。結果、「敵国から里等を奪って陣地を増やす」と補って解読。

・「水」の“潤す”は、「豊かな陣地」で繁盛していく「商売や交易をする店」を制御した結果であり、其二3-9①「戦略を理解している将軍は、必ず敵国の町、村、里、集落を自軍が生活する拠り所とする」に基づけば、「自軍の財政を潤す」と補って解読。

・「敵」の“戦争や競争で対抗する相手”は、其一2-5④「地」の「敵国の町、村、里、集落」を指すと解釈。結果、「敵国の里等」と解読。

<③について>
・「水」の“水の流れ”は、其四4-4⑤2つ目の「洫」の“耕作地の用水路”を指すと考察。其四4-4⑤「兵士数が減るしかない敵軍とどんどん兵士数が増える自軍を比較させれば敵軍は士気が殺がれると考えるのである」に基づき、「水を行わしむ」で「どんどん兵士数を増やして自軍に従事させる」と解読する。

<④について>
・「地」は、其一2-5③「地」の「間者が隠れて出現する場所」を指すと解釈すれば、話の流れより、具体的には其一2-5③「敵将軍が可愛がる者を自軍から遠ざける役目の者」だとわかる。結果、「敵将軍が可愛がる者を自軍から遠ざける役目の者」と解読。

・「水」の“水を染み込ませる”は、“水”が人の喩えと解釈すれば、「敵将軍が可愛がる者を自軍から遠ざける役目の者」として潜伏する間者を指すと考察できる。結果、「間者を潜伏させる」と解読。

・「行」の“行為”は、③「敵国から勝利を断ち切る」文意に繋がる事柄と解釈できるため、其七6-1①「軍する将は心を奪う可し」の「敵全軍を統率する敵将軍からは考えていた計画を強制的に取るのが良い」を実践することと考察。結果、「(敵将軍の)考えていた計画」と解読。

・「兵」の“戦術”は、「敵将軍が可愛がる者を自軍から遠ざける役目の者として間者を潜伏させる戦術」と同意と解釈。また、其六5-1③「利害損得をはかって敵将軍の考えている計画をしくじらせる将軍は敵将軍の大切にしている者を殺害する計画を実現する知恵」であると解釈できるため、簡潔に「敵将軍の大切にしている者を殺害する戦術」と解読。

<⑤について>
・「故」の“たくらみ”は、④「兵」の「敵将軍の大切にしている者を殺害する戦術」を指すと考察。結果、「敵将軍の大切にしている者を殺害する戦術」と解読。

・1つ目の「制」の“掌握する”は、④2つ目の「制」の「敵将軍を抑えて掌握する」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵将軍を抑えて掌握する」と補って解読。

・「水」の“水没させる”は、其六6-2②「水」の「水が高い位置から集中して低い位置に向かって行けばほどなく水没させるのであり、堅固な自軍が集中して脆い敵軍を攻めれば、敵軍は既に滅ぼされた状態になって災いする」の意味を積み上げていると考察。“水没させる”は、敵軍を既に滅ぼされた状態にすることの喩えと解釈できるため、「既に滅ぼされた状態にする」と解読。

・「地を水にする因し」は、「水」を「既に滅ぼされた状態にする」と解釈すれば“国土を既に滅ぼされた状態にすることと同じである”となる。この国土は敵国を指すと考察できるため、「敵国は既に滅ぼされた状態と同じである」と解読。

・「兵」の“武器で人を殺す”は、其二5-1⑥「兵」の「可愛がる者を武器で殺して敵将軍に災いを生じさせ、大いに無気力にさせる」の意味を積み上げていると考察。結果、「可愛がる者を武器で殺して敵将軍を無気力にさせる」と解読。

<⑥について>
・「水にする地」は、⑤「地を水にする因し」の「敵国は既に滅ぼされた状態と同じである」の解釈に基づき、「既に滅ぼされた状態の敵国」と解読。

・2つ目の「制」の“正す”は、敵国に「真心のある法規や決まり」を流布することで正すため、「その法規や決まりを正す」と解読。

<⑦について>
・「故る地」の直訳は “衰えた地区”となる。この“衰える”は貧しい意味であり、貧しい地区があれば自国が豊かにさせるのだと解釈できるため、「(敵国の)貧しい地区」と解読。

・「水に因ねる」の直訳は“水の流れで増し加える”となる。この“水の流れ”は、其六6-2⑦「水」で記述された「開墾して盛大にどんどん豊かにさせる政策」を指すと考察。この政策によって敵国の貧しい地区の収穫を増やすのだと解釈できるため、「開墾してどんどん豊かにさせる政策で収穫を増やす」と解読。⑧も同様に解読。

・「敵」の“戦争や競争で対抗する相手”は、「故る地」の「(敵国の)貧しい地区」を指すと考察。結果、「敵国の貧しい地区」と解読。

・「勝」の“景色の優れた土地”は、自軍の兵士達が開墾することで、敵国の貧しい地区を豊かな土地にすることと考察。結果、「豊かな地区」と解読。

<⑧について>
・「敵」の“利害や意見が対立する相手”は、敵国の意味ではなく、自国と意見が対立している他国と解釈。結果、「意見が対立している他国」と解読。

・「勝」の“景色の優れた土地”は、意見が対立している他国を豊かな土地にすることと考察。結果、「豊かな国」と解読。

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