其七1-3
故汙其途、而誘之以利。
gù wū qí tú、ér yoù zhī yǐ lì。
解読文
①敵軍の進路を妨害する戦略は、将軍が、気持ちが通じ合う諸侯を教え導くのであり、分岐路にある瞿地に布陣させて利点を得る。 ②気持ちが通じ合う諸侯を分岐路にある瞿地に布陣させて利点を得れば、将軍は、必ず陣地にする敵里を経由して、自国による統治をその人民に認めさせる方法によって教え導くのである。 ③陣地にした敵里の生活水準が低ければ、特に自国による統治をその人民に認めさせる方法を使うのであり、教え導いて里が豊かになれば自国による統治を認めさせることができる。 ④このように勢いが最高潮に達した正攻法部隊の大軍になることが、戦うことなく相手を抑えつけて完全な状態に保てる道理を得る方法であり、将軍が、気持ちが通じ合う諸侯を誘い込んで権勢を掲げれば戦争を終えるのである。 |
書き下し文
①其の途(みち)を迂(よご)す故は、而(なんじ)は之に誘(いざな)うなり、以(や)めしめて利あり。 ②之をして以(や)めしめて利あれば、而(なんじ)は故(もと)より其の迂(う)なりて、途(みち)に誘(いざな)うなり。 ③其の汙(くだ)らば、故(ことさら)に途(みち)を之(もち)いるなり、而(よ)く誘(いざな)いて利たれば以(おも)わしむ。 ④其れ汙(う)たること故ある途(みち)なり、而(なんじ)は之を誘(さそ)いて利あれば以(や)めるなり。 |

<語句の注>
・「故」は①たくらみ、②必ず、③特に、④道理、の意味。 ・「汙」は①物事を損なう、②曲がっているさま、③程度や水準が低い、④池、の意味。 ・「其」は①②③敵の代名詞、④このように、の意味。 ・「途」は①道路、②③④方法、の意味。 ・「而」は①②あなた、③~できる、④あなた、の意味。 ・「誘」は①②③教え導く、④誘い込む、の意味。 ・「之」は①彼ら、②代名詞、③使う、④代名詞、の意味。 ・「以」は①②留める、③認める、④終える、の意味。 ・「利」は①②利益を得る、③豊かさ、④権勢、の意味。 |
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「故迂其途、而誘之以利。」と「汙」を「迂」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。 ・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。 ・この句について詳しく解説したページがあります。 ⇒孫子の名言「人に後れて発するも人に先んじて至る者は、迂直の計を知る者なり」の間違い <①について> ・「其の途」は直訳すると“敵の道路”となる。これは敵軍が進む道と考察し、「敵軍の進路」と解読。 ・「汙」の“物事を損なう”の“物事”は、「敵軍の進路」を指すと解釈すれば、「(敵軍の進路)を妨害する」と解読できる。 ・「之」の“彼ら”は、話の流れより其七1-2②「気持ちが通じ合う諸侯」を指すと考察。結果、「気持ちが通じ合う諸侯」と解読。なお、“彼”ではなく、“彼ら”の意味を採用した理由は、多くの諸侯に協力してもらって連合軍をつくる記述が後半で頻出するためである。 ・「以」の“留める”は、其七1-2②「気持ちが通じ合う諸侯に文書を届けて分岐路にある瞿地に布陣させ、敵軍の進路を妨害してその前進を制止する」に基づき、「分岐路にある瞿地に布陣させる」と言い換えた。②も同様に解読。 <②について> ・「之」は、①「之」の「気持ちが通じ合う諸侯」を指示する代名詞と解読。④も同様に解読。 ・「其の迂なり」は、其七1-2①「直に迂なり」の「陣地にする敵里を経由する」と同意と考察。 ・「途」の“方法”は、其七1-2①「為めること以わしむ」の「自国による統治をその人民に認めさせる」の意味を積み上げていると考察し、「自国による統治をその人民に認めさせる方法」と補って解読。③も同様に解読。 <③について> ・「其の汙る」の直訳は“敵の程度や水準が低い”となる。これは、陣地にした敵里の生活水準が低いことを指すと考察。結果、「陣地にした敵里の生活水準が低い」と解読。 ・「以」の“認める”は、話の流れより、陣地にした敵里に対する自国による統治と考察できる。結果、「自国による統治を認める」と解読。 <④について> ・「汙」の“池”は、其七1-2④「汙」同様に「勢いが最高潮に達した正攻法部隊の大軍」と解読。 ・「故」の“道理”は、其七1-2④「直」で記述された「戦うことなく相手を抑えつけて完全な状態に保てる道理」と同意と考察。結果、「戦うことなく相手を抑えつけて完全な状態に保てる道理」と解読。 |
