軍を挙げて争いて利れば、則ち師及ばず。

其七2-1

舉軍而爭利、則師不及。

jŭ jūn ér zhēng lì、zé shī bù jí。

解読文

①軍団をまとめて先を争って敵里に陣取ることを強く求めるならば、大軍十万は揃って敵里に到着しない。

②将軍が兵士達を褒美の品で誘ったとしても、敵里に陣取ることを成し遂げさせた時は各部隊の到着時間に差が出て、到達しない部隊も出現するのが道理である。

③将軍が敵里に陣取ること強く求める時、気持ちが通じ合う諸侯に分岐路にある瞿地を占領させた上で自軍を統率するならば、大軍十万は大いに揃って敵里に到着するのである。

④全軍が揃って敵里に到着するお手本を大いに尊重して従うのであり、自軍の兵士達と敵人民の全てを合わせても軍隊を統率すれば、兵士数で差を出して権勢を生じるのである。
書き下し文
①軍を挙げて争いて利(むさぼ)れば、則ち師及ばず。

②而(なんじ)の軍を利するも、挙げしむに争(へだ)てて、及ばざる師もある則(そく)なり。

③而(なんじ)の争いて利(むさぼ)るに、挙(あ)げしめて軍すれば、則ち師の不(おお)いに及ぶなり。

④及ぶ則(そく)に不(おお)いに師(したが)うなり、挙げるも軍すれば而(すなわ)ち争(へだ)てて利あるなり。
<語句の注>
・「挙」は①まとめる、②成し遂げる、③占領する、④全てを合わせる、の意味。
・「軍」は①其三1-1①1つ目の「軍」、②兵士、③④軍を統率する、の意味。
・「而」は①順接の関係を表す接続詞、②③あなた、④条件関係を表す接続詞、の意味。
・「争」は①先を争う、②差が出る、③先を争う、④差が出る、の意味。
・「利」は①利益を強く求める、②利益で誘う、③利益を強く求める、④権勢、の意味。
・「則」は①~ならば、②道理、③~ならば、④模範、の意味。
・「師」は①②③軍隊、④尊び従う、の意味。
・「不」は①②~しない、③④大いに、の意味。
・「及」は①肩を並べる、②到達する、③④肩を並べる、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文では「舉軍而爭利、則◇不及」と一字欠落。孫子(講談社)、新訂孫子(岩波)共に原文は「舉軍而爭利、則不及」とする。この記述のざっくりとした直訳は、一万二千五百人の軍団をまとめて利を奪い合えば“何か”が到達しないとなる。其二1-2①「師」の「大軍十万」より敵国への侵略において整える規模と記述されている。其七2-1の続きを確認すれば、大軍十万の師が揃って到達できないことがわかる。そのため、欠落した一字は「師」と推察して補った。なお、其七2-2「委軍而爭利、則輜重捐」とは対句と考察でき、最後の一語以外は韻が同じである。そのため、「師(shī)」は「輜(zī)」と同じ韻であるため適当と判断した。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「軍」は、其三1-1①1つ目の「軍」の「軍団」と同意と考察。なお、「軍団」の兵士数は一万二千五百人であり、率いるのは将軍と推察できる。

・「利」の“利益を強く求める”の“利益”は、其七1-2②「先を争って敵里に陣取る将軍は、気持ちが通じ合う諸侯に文書を届けて分岐路にある瞿地に布陣させ、敵軍の進路を妨害してその前進を制止するのであり、敵将軍を思い悩ませて留まらせた状態で順調に敵里を奪い取って統治し、多くの陣地を手に入れるのである」を実現するために敵里に陣取ることを指すと考察。結果、「敵里に陣取ること強く求める」と解読。③も同様に解読。

・「師」の“軍隊”は、其二1-2①「師」の「大軍十万」の意味を積み上げていると考察し、「大軍十万」と解読。③も同様に解読。

・「及ばず」の直訳は“肩を並べない”となる。この主語は「大軍十万」であるため、話の流れより「大軍十万」が全軍揃って敵里に到着しないことと解釈できる。結果、「揃って敵里に到着しない」と解読。

<②について>
・「軍を利する」の直訳は“兵士を利益で誘う”となる。この“利益”は、其一3-2①「賞」の「褒美の品」を指すと考察。結果、「兵士達を褒美の品で誘う」と解読。

・「挙」の“成し遂げる”は、①「敵里に陣取ること強く求める」に基づき、「敵里に陣取ることを成し遂げる」と補って解読。

・「争」の“差が出る”は、①「大軍十万は揃って敵里に到着しない」となる原因を説いた解釈できるため、「各部隊の到着時間に差が出る」と解読。

・「師」の“軍隊”は、話の流れより「各部隊の到着時間に差が出る」の「各部隊」を指すと解釈できる。結果、「部隊」と解読。

<③について>
・「挙」の“占領する”は、其七1-2②「先を争って敵里に陣取る将軍は、気持ちが通じ合う諸侯に文書を届けて分岐路にある瞿地に布陣させ、敵軍の進路を妨害してその前進を制止する」に基づき、諸侯を分岐路にある瞿地に布陣させることと考察。結果、使役形で「気持ちが通じ合う諸侯に分岐路にある瞿地を占領させる」と解読。

・「及」の“肩を並べる”は、①「及」同様に解釈して「(全軍が)揃って敵里に到着する」と解読。④も同様に解読。

<④について>
・「挙」の“全てを合わせる”は、話の流れより、自軍の兵士と敵里の人民を合わせて自軍の兵士数を増やす文意と考察。結果、「自軍の兵士達と敵人民の全てを合わせる」と解読。

・「争」の“差が出る”は、其七1-2④「争」の「兵士数で差を出す」と同意と考察し、「兵士数で差を出す」と解読。

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