勁き者は先んずるも、罷れる者の後れれば、則ち十より一のみ以いて至るなり。

其七2-4

勁者先、罷者後、則十一以至。

jìn zhě xiān、bà zhě hòu、zé shí yī yǐ zhì。

解読文

①しっかりと力がみなぎる兵士達が敵里に向かって前進しても、疲労した兵士達が遅れるならば、完全な状態の大軍十万から一部の軍隊だけを率いて敵里に行き着くのである。

②敵里に行き着いて留まる一部の軍隊は腕力を第一にする兵士達であり、遅れる兵士達は行軍を休止することで完全な状態を保つ道理である。

③完全な状態を保つ道理を使って軍隊をまとめる時は、敵里に行き着くことを後回しにして行軍を休止することを、しっかりと力がみなぎる兵士達に指導するのである。

④罪人を放免した猛々しい兵士達に行軍における休止を指導し、荒々しい闘争心を湧かせて恐怖心を後回しにすることをお手本にすれば、大いに活気溢れた勢いが最も極まった状態に達するのであり、完全な状態を保ったまま戦争を終えて敵国を自国に統一するのである。
書き下し文
①勁(つよ)き者は先んずるも、罷(つか)れる者の後(おく)れれば、則ち十より一のみ以(ひき)いて至るなり。

②至りて以(や)む一は勁(けい)を先にする者なり、後(おく)れる者は罷(や)めて十たる則(そく)なり。

③十たる則(そく)を以(もち)いて一となるに、至ること後にして罷(や)めること、勁(つよ)き者に先だつなり。

④罷(や)めて勁(つよ)き者に先だち、後にすることに則(のっと)れば至るなり、十たりて以(や)めて一となるなり。
<語句の注>
・「勁」は①しっかりと力がみなぎるさま、②腕力、③しっかりと力がみなぎるさま、④猛々しい、の意味。
・1つ目の「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・「先」は①先制する、②第一にする、③④導く、の意味。
・「罷」は①疲労したさま、②③休止する、④罪人を放免する、の意味。
・2つ目の「者」は①②助詞「もの」、③④助詞「こと」、の意味。
・「後」は①②他のものよりも後になる、③④後回しにする、の意味。
・「則」は①~ならば、②③道理、④模範とする、の意味。
・「十」は①数の名、完全なさま、②③④完全なさま、の意味。
・「一」は①②多くの事物の中の一部、③まとめる、④統一する、の意味。
・「以」は①~を率いて、②留まる、③使用する、④終える、の意味。
・「至」は①②③行き着く、④極限にまで至る、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「勁者先、罷者後、則十一以至。」と「罷」を「疲」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「先」の“前進する”は、其七2-3④「将軍が先を争って敵里に陣取ることに励み努力する時」に関連して話が続いていると考察。結果、「敵里に向かって前進する」と解読。

・「十」の“完全なさま”においては、話の流れより軍隊が完全な状態で整っていることと解釈できる。また、“数の名”の意味に着眼すると、其七2-1①「師」で記述された「大軍十万は揃って敵里に到着しない」に関連していると考察できる。結果、「十」は“完全なさま”と“数の名”の掛け言葉と解釈し、「十」で「完全な状態の大軍十万」と解読。

・「一」の“多くの事物の中の一部”は、「完全な状態の大軍十万」の中の一部と考察。結果、「一部の軍隊」と解読。②も同様に解読。

・「至」の“行き着く”は、話の流れより「敵里に行き着く」と補って解読。②③も同様に解読。

<②について>
・「罷」の“休止する”は、①「疲労した兵士達が遅れる」に基づき、行軍を休止するのだと考察。結果、「行軍を休止する」と解読。③も同様に解読。

・「十」の“完全なさま”は、其三1-1①「全」の「自他を問わず、完全な状態に保つこと」を指すと解釈。結果、「十たり」で「完全な状態を保つ」と解読。③④も同様に解読。

<③について>
・特に無し。

<④について>
・「罷」で“罪人を放免する”の意味を採用した理由は、其一6-1②「解読の注」で解釈した「敵に打ち勝つ条件を備えた軍隊をつくるためには、犯罪歴のある“成年に達して役務や肉体労働に従事する人”は重要な要素と考察できる」にある。そして、「敵に打ち勝つ条件」は「荒々しい闘争心を湧かせて大いに活気溢れた勢いを生み出すこと」が含まれると解釈できる。

・「先」の“導く”は、③「敵里に行き着くことを後回しにして行軍を休止すること」を指導することと考察。結果、簡潔に「行軍における休止を指導する」と解読。

・「後にすることに則れば至る」の直訳は“後回しにすることを模範とすれば極限にまで至る”となる。これは、其九4-27⑧「最も重要なことは、兵士達に、敵軍に対する荒々しい闘争心を湧かせて恐怖心は後回しにして考えさせなければ、大いに活気溢れた勢いが最も極まった状態に達するのである」をお手本にすることと考察。結果、「荒々しい闘争心を湧かせて恐怖心を後回しにすることをお手本にすれば、大いに活気溢れた勢いが最も極まった状態に達する」と解読。

・「一」の“統一する”は、「以」の“終える”が戦争を終えることと解釈できるため、完全な状態を保ったまま敵国を自国の配下に置いて統一する意味と考察できる。結果、「敵国を自国に統一する」と解読。

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