是なる軍も、故より、重き輜毋ければ則ち亡れるなり、食らう糧無ければ則ち亡れるなり、責めるも委无ければ則ち亡れるなり。

其七2-7

是故、軍毋輜重則亡、無糧食則亡、无委責則亡。

shì gù、jūn wú zī zhòng zé wáng、wú liáng shí zé wáng、wú wĕi jī zé wáng。

解読文

①どんな兵士達でも、必ず、必要度が極めて高い武器や食糧を乗せた荷車が無ければ逃走するのであり、食べる食糧が無ければ逃走するのであり、自国に食糧輸送を要求しても役所の穀物倉庫が空っぽならば亡命するのである。

②軍隊が衰えた状態になる理由は、武器や食糧を乗せた荷車を大事なものと見なすことが無ければ失う道理があり、食糧を食べることが無ければ死去する道理があり、自軍が要求する穀物の豊富な貯えが敵里に無ければ軍隊が滅亡する道理があるからである。

③これら三つの道理を正しくして軍隊を統率する時は、武器や食糧を乗せた荷車を大事な物と見なす条文を軽んじてはならない、陣地にした敵里から穀物の実を租税に取って生活にあてることをお手本にして食糧を無くしてはならない、恭しく生活の面倒をみて元敵人民に穀物を山のように蓄えさせることをお手本にすれば軍隊が滅亡することは無い。

④常日頃、正確な判断をする軍隊は、武器や食糧を乗せた荷車を大事な物と見なす条文が記憶からなくなることが無く、陣地にした敵里から穀物の実を租税に取って生活にあてるお手本が記憶からなくなること無く租税を課し、恭しく生活の面倒をみて元敵人民に穀物を山のように蓄えさせるお手本が記憶からなくなること無く元敵人民に命じるのである。
書き下し文
①是(いか)なる軍も、故(もと)より、重き輜(し)毋(な)ければ則ち亡(のが)れるなり、食らう糧(かて)無ければ則ち亡(のが)れるなり、責めるも委(い)无(な)ければ則ち亡(のが)れるなり。

②軍の故(ふ)るに是(ゆ)くは、輜(し)を重んずること毋(な)ければ亡(うしな)う則(そく)あり、糧(かて)を食うこと無ければ亡(し)する則(そく)あり、責める委(い)あること无(な)ければ亡(ほろ)びる則(そく)あればなり。

③故を是(ただ)して軍するに、輜(し)を重んずる則(そく)を亡(なみ)する毋(な)かれ、食(は)むことに則(のっと)りて糧(かて)を無くす亡(な)かれ、委(つ)むこと責むに則(のっと)れば亡(ほろ)ぼすこと无(な)し。

④故(もと)より是(ぜ)ある軍は、輜(し)を重んずる則(そく)を亡(わす)れること毋(な)し、食(は)む則(そく)を亡(わす)れること無くして糧(りょう)あり、委(つ)む則(そく)を亡(わす)れること無くして責めるなり。
<語句の注>
・「是」は①どんな~でも、②至る、③正しくする、④正確な判断、の意味。
・「故」は①必ず、②衰える、③道理、④常日頃、の意味。
・「軍」は①兵士、②軍隊、③軍を統率する、④軍隊、の意味。
・「毋」は①②存在しない、③~してはならない、④存在しない、の意味。
・「輜」は①②③④武器や食糧などを運ぶ荷車、の意味。
・「重」は①必要度が極めて高いさま、②③④大事なものと見なす、の意味。
・1つ目の「則」は①~ならば、②道理、③④条文、の意味。
・1つ目の「亡」は①逃走する、②無くす、③軽んじる、④記憶からなくなる、の意味。
・「無」は①②③④無い、の意味。
・「糧」は①②③食糧、④租税、の意味。
・「食」は①②食べる、③④租税を取って生活にあてる、の意味。
・2つ目の「則」は①~ならば、②道理、③模範とする、④模範、の意味。
・2つ目の「亡」は①逃走する、②死去する、③~してはならない、④記憶からなくなる、の意味。
・「无」は①②③④存在しない、の意味。
・「委」は①役所の穀物倉庫、②物事の結末、③④積み重ねる、の意味。
・「責」は①②③要求する、④命じる、の意味。
・3つ目の「則」は①~ならば、②道理、③模範とする、④模範、の意味。
・3つ目の「亡」は①亡命する、②③滅亡する、④記憶からなくなる、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「是故、軍毋輜重則亡、無糧食則亡、无委積則亡」と「責」を「積」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「責めるも委无し」の直訳は“要求しても役所の穀物倉庫が存在しない”となる。話の流れを踏まえると、これは敵国に侵略中の軍隊から自国に輸送を要求しても役所の穀物倉庫に食糧が無い状態と解釈できる。結果、「自国に食糧輸送を要求しても役所の穀物倉庫が空っぽである」と言い換えた。

<②について>
・「責める委」の直訳は“要求する物事の結末”となる。これは解読文③「委むこと則る」で「恭しく生活の面倒をみて元敵人民に穀物を山のように蓄えさせることをお手本にする」と解読すること逆引きして、「自軍が要求する穀物の豊富な貯え」と言い換えることができる。

<③について>
・「故」の“道理”は、解読文②で記述された三つの道理を指すと考察。結果、「これら三つの道理」と補って解読。

・「武器や食糧を乗せた荷車を大事な物と見なす条文」は、其七2-2③④で記述されている。

・「食むことに則る」の直訳は“租税を取って生活にあてることを模範とする”となる。これは其九4-23⑤「互いに距離がかけ離れていない敵里に陣取っていく将軍は、陣地を増やして穀物の実を租税に取って生活にあてて、自軍に服従させた敵里を敵に放棄させれば、敵国に侵略して完全な状態に保って消耗し尽くさせないのである」で記述された、陣地にした敵里から穀物の実を租税に取って生活にあてることを指すと考察。
なお、「穀物の実」が生活の助けになる理由は、其二3-9③「陣地にした町、村、里、集落で耕作する時、穀類一鍾分を種子にすれば自軍は兵糧二十鍾を得るのであり、その豆や稲の茎を大きくすることだけに集中すれば、自軍はきっと豆がらと藁を二十石分得るだろう」によって、「穀物の実」を耕作して増やして食糧にすることがわかる。結果、「陣地にした敵里から穀物の実を租税に取って生活にあてることをお手本にする」と解読。

・「委むこと責むに則る」の直訳は“積み重ねること要求することを模範とする”となる。これは其十一3-3①「町、村、里等の元敵人民に対して恭しく生活の面倒をみてこき使うことが無ければ、敵人民は自軍に対する怒りを捨て去って穀物を山のように蓄えることに尽力するのである」で記述された、恭しく生活の面倒をみて元敵人民に穀物を山のように蓄えることに尽力させることをお手本とすることと考察。結果、「恭しく生活の面倒をみて元敵人民に穀物を山のように蓄えさせることをお手本にする」と解読。

<④について>
・「食」の“租税を取って生活にあてる”は、③同様に解釈して「陣地にした敵里から穀物の実を租税に取って生活にあてる」と解読。

・「委」の“積み重ねる”は、③同様に解釈して「恭しく生活の面倒をみて元敵人民に穀物を山のように蓄えさせる」と解読。

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