是れ、軍の正は故より曰く、言は相い聞こえず、故に鼓の金を為す。視は相い見らしめず、故に旌を旗と為す。

其七5-1

是故、軍正曰、言不相聞、故為鼓金。視不相見、故為旌旗。

shì gù、jūn zhèng yuē、yán bù xiàng wén、gù wéi gŭ jīn、shì bù xiàng jiàn、gù wéi jìng qí。

解読文

①軍隊の各隊長は、必ず、「号令では兵士達に伝わらない。だから、太鼓の音を鳴らす。目配せでは兵士達に目で確認させられない。だから、旗を目印にする必要がある」と説くのである。

②特に軍隊を統率する時は、兵士達に正確な判断をさせた上できちんと整えるのである。太鼓の音を鳴らせば必ず号令は大いに兵士達に伝え広まり、旗印の仕事を担当する兵士は必ず軍隊の兵士達に目で確認させて大いに任務を遂行させるのである。

③正確な判断をして戦闘になると予期した時は、軍隊を配置して「号令を耳にすれば大いに力を合わせて敵軍を衰えさせろ、奮い起こして褒賞の品を手に入れろ、旗印の仕事を担当する兵士は奇策部隊を出現させる戦術を大いに補佐して合図を送れ」と言う。

④戦闘に至れば、軍隊の各隊長は大いに観察するのであり、時に乗じて号令を告げて、太鼓の音を鳴らして敵軍を衰えさせるのである。旗印の仕事を担当する兵士が合図を送れば、奇策部隊は大いに衰えた敵部隊を選択して出現するのである。
書き下し文
①是れ、軍の正は故(もと)より曰く、言は相い聞こえず、故に鼓(こ)の金(きん)を為す。視(し)は相い見らしめず、故に旌(せい)を旗(き)と為す。

②故(ことさら)に軍するに、是(ぜ)せしめて正(ただ)すなり。曰く、鼓金(こきん)を為せば、故(もと)より言は不(おお)いに相い聞こえ、旌旗(せいき)を為(な)るものは故(もと)より相い見らしめて不(おお)いに視(み)らしむ。

③是(ぜ)なして故ありと正(あらかじ)めするに、軍して曰く、言を聞けば不(おお)いに相い故(ふ)らしめ、鼓(こ)して金を為(な)せ、旌旗(せいき)を為(な)るものは見(あらわ)れしむ故を不(おお)いに相(たす)けて視(しめ)せ。

④故に是(ゆ)けば、曰(ここ)に軍の正は不(おお)いに相(み)るなり、聞(ぶん)して言いて鼓(こ)の金(きん)を為せしめ、故(ふ)らしむなり。旌旗(せいき)を為(な)るもの視(しめ)せば、不(おお)いに故(ふ)るもの相(えら)びて見(あらわ)れるなり。
<語句の注>
・「是」は①~である、②③正確な判断、④至る、の意味。
・1つ目の「故」は①必ず、②特に、③④事変、の意味。
・「軍」は①軍隊、②軍を統率する、③軍隊を配置する、④軍隊、の意味。
・「正」は①ある役職の長、②きちんと整える、③予期する、④ある役職の長、の意味。
・「曰」は①~と説く、②~である、③~と言う、④語気の強調、の意味。
・「言」は①②③号令、④告げる、の意味。
・1つ目の「不」は①~しない、②③④大いに、の意味。
・1つ目の「相」は①②ある対象に、③力を合わせて、④観察する、の意味。
・「聞」は①伝える、②伝え広まる、③耳にする、④時に乗じる、の意味。
・2つ目の「故」は①だから、②必ず、③④衰える、の意味。
・1つ目の「為」は①②演奏する、③持つ、④演奏する、の意味。
・「鼓」は①②太鼓、③奮い起こす、④太鼓、の意味。
・「金」は①②鐘やどらの音、③財貨、④鐘やどらの音、の意味。
・「視」は①眼光、②職務を行う、③④明示する、の意味。
・2つ目の「不」は①~しない、②③④大いに、の意味。
・2つ目の「相」は①②ある対象に、③補佐する、④選択する、の意味。
・「見」は①②目で見る、③④出現する、の意味。
・3つ目の「故」は①だから、②必ず、③たくらみ、④衰える、の意味。
・2つ目の「為」は①必要がある、②③④担当する、の意味。
・「旌」は①②③④旗の通称、の意味。
・「旗」は①②③④印、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「是故、軍正曰、言不相聞、故為鼓金。視不相見、故為旌旗。」と「正」を「政」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「正」の“ある役職の長”は、文意より正攻法部隊の各隊長を指すと解釈できる。結果、「各隊長」と解読。④も同様に解読。

・1つ目と2つ目の「相」の“ある対象に”の“ある対象”は、号令を伝える相手であるため「兵士達に」と解読できる。②も同様に解読。

・「視」の“眼光”は、兵士達に合図を送るための手段と考察すれば、「目配せ」と解読できる。②も同様に解読。

・「見」の“目で見る”は、兵士達が「目配せ」を視認できないことと考察。結果、使役形で「目で確認させる」と解読。②も同様に解読。

<②について>
・「旌旗を為るもの」の直訳は“旗の目印を担当する者”となる。これは、其九4-21②「旗印の仕事をする兵士は、軍隊を正し治めるのである」の「旗印の仕事をする兵士」と同意と考察。結果、「旗印の仕事を担当する兵士」と解読。③④も同様に解読。

・「視」の“職務を行う”は、兵士達が任務を遂行することと考察。結果、使役形で「任務を遂行させる」と解読。

<③について>
・「金」の“財貨”は、金品であり、兵士達に対する「褒賞の品」と考察。結果、「褒賞の品」と解読。

・「見れしむ故」の直訳は“出現させるたくらみ”となる。これは隠れさせた奇策部隊が出現することを指すと考察。結果、「奇策部隊を出現させる戦術」と補って解読。

・「視」の“明示する”は、「旗印の仕事を担当する兵士」から隠れている奇策部隊に旗印で合図を送ることと考察。結果、「合図を送る」と言い換えた。④も同様に解読。

<④について>
・「言」の“告げる”は、①②③「言」の「号令」の意味を積み上げていると考察。結果、「号令を告げる」と補って解読。

・「不いに故(ふ)るもの相ぶ」の直訳は“大いに衰えた者を選択する”となる。話の流れより、これは隠れている奇策部隊が攻め取る敵部隊を選択することと考察できる。結果、「奇策部隊は大いに衰えた敵部隊を選択する」と補って解読。

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