以すに治する侍を乱すなり、以すに静かなる侍をして譁せしむなり。此、治して心なす者なり。

其七6-4

以治侍亂、以靜侍譁。此治心者也。

yǐ zhì shì luàn、yǐ jìng shì huá。cǐ zhì xīn zhě yĕ。

解読文

①敵里を経由して陣地にする戦略を実行した時は抵抗する敵将軍の側近に正気を失わせるのであり、奇正の戦術を実行した時は動かずじっとしている奇策部隊の間者を使って獲物となった敵部隊を騒がせるのである。これが合理的に行動して考えていた計画を実行する将軍である。

②合理的に行動して考えていた計画を実行する将軍は、人民の生活を支える役人を使って元敵里の乱れを管理させるのであり、生きたまま敵を取得する間者を使って騒ぎ立てる攻め取った敵兵達を落ち着き安定させて自軍に編制するのである。考えていた計画を実行する将軍は人民の生活を支える役人と生きたまま敵を取得する間者に訓練させるのである。

③訓練した人民の生活を支える役人は、掻き乱す元敵人民の世話をして心を平安にさせるのであり、訓練した生きたまま敵を取得する間者は、穏やかで誠実な態度で騒ぎ立てる攻め取った敵兵達に諫言するのである。人民の生活を支える役人と生きたまま敵を取得する間者は、敵人民の気持ちを整えるのである。

④敵人民の気持ちを整える人民の生活を支える役人は、謀反を起こそうとする元敵兵の傍に付き従って集団生活を安定させるのであり、敵人民の気持ちを整える生きたまま敵を取得する間者は、でたらめを言う元敵兵が存在すれば傍に付き従う兵士達を配置して言動を止めるのである。謀反を起こそうとする元敵兵とでたらめを言う元敵兵は、それぞれ自国又は軍隊の真ん中で管理するのである。

⑤謀反を起こそうとする元敵兵を自国内部で管理する時は、謀反を起こそうとする元敵兵の監視役を駐在させて正し治めるのであり、でたらめを言う元敵兵を軍隊の真ん中で管理する時は、攻め取った元敵兵の世話役が騒ぎ立てることででたらめをかき消すのである。謀反を起こそうとする元敵兵の監視役と攻め取った元敵兵の世話役は、元敵兵の思想を管理するのである。

⑥謀反を起こそうとする元敵兵の思想を管理する監視役は、謀反を起こそうとする元敵兵が平和を掻き乱した時に諫言するのであり、攻め取った元敵兵の思想を管理する世話役は、攻め取った元敵兵が画策しようとしてでたらめを言った時に諫言するのである。謀反を起こそうとする元敵兵と攻め取った元敵兵は自国の思想に抵抗するのである。

⑦自国の思想に抵抗して謀反を起こそうとする元敵兵は、地方政府の所在地で謀反を起こして他の兵士達に諫言するのであり、攻め取った元敵兵が自国の思想に抵抗する時は、他の兵士達に対する諫言を巧妙に偽ってでたらめを言うのである。自国の思想に抵抗する元敵兵達は、このように出現するのである。

⑧元敵兵が地方政府の所在地で謀反を起こして他の兵士達に諫言すれば、将軍は、側近の部下を使って元敵兵がでたらめを言って諫言する行為を終わらせて平定させるのであり、正し治めて平和にするのである。このような将軍は思想によって国家を安定させるのである。
書き下し文
①以(な)すに治(ち)する侍(じ)を乱すなり、以(な)すに静かなる侍(じ)をして譁(か)せしむなり。此、治(ち)して心なす者なり。

②以(な)すものは侍(じ)をして乱れを治めしむなり、侍(じ)をして譁(かまびす)しきものは静めしめて以(もち)いるなり。心なす者は此に治めしむなり。

③以(な)すものは乱すもの侍(やしな)いて治(おさ)まらしむなり、以(な)すものは静(まこと)ありて譁(かまびす)しきものに侍(すす)めるなり。此の者は心を治めるなり。

④以(な)すものは乱さんとするもの侍(はべ)て治めしむなり、以(な)すものは譁(か)するものあれば侍(はべ)るものあらしめて静めるなり。此の者は心に治めるなり。

⑤以(な)すに侍(やしな)うもの治(ち)せしめて乱(おさ)めるなり、以(な)すに侍(やしな)うものは譁(かまびす)しくして静(きよ)むなり。此の者は心を治めるなり。

⑥以(な)すものは治(ち)を乱すに侍(すす)めるなり、以(な)すものは静(はか)らんとして譁(か)するに侍(すす)めるなり。此の者の心を治めるなり。

⑦以(な)すものは治(ち)に乱して侍(すす)めるなり、以(な)すに侍(すす)めること静(せい)して譁(か)するなり。心を治(ち)する者は、此(か)くあるなり。

⑧以(な)せば、侍(じ)をして、譁(か)して侍(すす)めること以(や)めしめて静(やす)んぜしむなり、乱(おさ)めて治(ち)たらしむなり。此(か)く者は心に治まらしむなり。
<語句の注>
・1つ目の「以」は①②③④⑤⑥⑦⑧事を行う、の意味。
・1つ目の「治」は①抵抗する、②管理する、③心が平安なさま、④国や社会が安定する、⑤駐在して政令を実行する、⑥平和な世の中、⑦地方政府の所在地、⑧平和な世の中、の意味。
・1つ目の「侍」は①②目上の人に仕える人、③世話をする、④目上の人の傍に付き従う、⑤世話をする、⑥⑦進言や諫言をする、⑧目上の人に仕える人、の意味。
・「乱」は①正気を失わせる、②世の中の乱れ、③掻き乱す、④謀反を起こす、⑤正し治める、⑥掻き乱す、⑦謀反を起こす、⑧正し治める、の意味。
・2つ目の「以」は①事を行う、②採用する、③④⑤⑥⑦⑧終える、の意味。
・「静」は①動かないさま、じっとしているさま、②落ち着き安定する、③穏やかで誠実なさま、④動きを止める、⑤掃除する、⑥画策する、⑦巧妙に偽る、⑧平定する、の意味。
・2つ目の「侍」は①②目上の人に仕える人、③進言や諫言をする、④目上の人の傍に付き従う、⑤世話をする、⑥⑦⑧進言や諫言をする、の意味。
・「譁」は①②③騒ぎ立てる、④でたらめを言う、⑤騒ぎ立てる、⑥⑦⑧でたらめを言う、の意味。
・「此」は①②③④⑤⑥代名詞、⑦このように、⑧このような、の意味。
・2つ目の「治」は①合理的な行動、②訓練する、③整える、④⑤管理する、⑥抵抗する、⑦修理する、⑧国や社会が安定する、の意味。
・「心」は①②考え、③気持ち、④物事の真ん中、⑤⑥⑦⑧思想、の意味。
・「者」は①②③④⑤⑥⑦⑧助詞「もの」、の意味。
・「也」は①②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「以治待亂、以靜待譁、此治心者也。」と「侍」を「待」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・1つ目の「以」の“事を行う”の“事”は、其七6-3⑥「敵里を経由して陣地にする戦略」を指すと考察。結果、「敵里を経由して陣地にする戦略を実行する」と解読。

・1つ目の「侍」の“目上の人に仕える人”は、其七2-3③「上級武将の側近が、憂い悲しんで誤りを正させようと励み努力しても、敵里に陣取ることを強く求める上級武将は捕虜にされる道理である」から類推して「敵将軍の側近」と解読。

・2つ目の「以」の“事を行う”の“事”は、文意より奇正の戦術を指すと考察。結果、「奇正の戦術を実行する」と解読。

・2つ目の「侍」の“目上の人に仕える人”は、其十二2-3④「軍神である将軍は、生きたまま敵を取得する間者の養育係になるのである。間者を一人前にする時は、何度も戦争に連れ立って起用して、敵兵達の士気が殺がれる時機を識別することを指導して習熟させるのである」に基づき、将軍の傍にいる「生きたまま敵を取得する間者」と考察。但し、ここでは奇正の戦術について説く前提があると解釈して「奇策部隊の間者」と解読する。

・「譁」の“騒ぎ立てる”の主語は、奇策部隊が攻め取る相手であるため、「獲物となった敵部隊を騒がせる」と補って解読。

・「此」は、「以治侍亂、以靜侍譁」を指示する代名詞と解釈。ここでは「これ」と解読。

・「心」は、其七6-1①「心」の「考えていた計画」と同意と考察。結果、「考えていた計画」と解読。②も同様に解読。

<②について>
・1つ目の「以」の“事を行う”の“事”は、①「合理的に行動して考えていた計画を実行する(将軍)」と同意と考察。結果、「以すもの」で「合理的に行動して考えていた計画を実行する将軍」と解読。

・1つ目の「侍」の“目上の人に仕える人”は、其四1-1③「侍」の「人民の生活を支える役人」を指すと考察。結果、「人民の生活を支える役人」と解読。

・「乱」の“世の中の乱れ”の“世の中”は、陣地にした敵里の乱れと考察。結果、「元敵里の乱れ」と解読。

・2つ目の「侍」の“目上の人に仕える人”は、①同様に「奇策部隊の間者」と解読しても良いが、間者の技術に関する内容であるため「生きたまま敵を取得する間者」と解読。

・「譁しきもの」の直訳は“騒ぎ立てる者”となる。これは奇策部隊が攻め取った敵兵達が騒ぎ立てているのだと考察。結果、「騒ぎ立てる攻め取った敵兵達」と解読。③も同様に解読。

・2つ目の「以」の“採用する”は、「騒ぎ立てる攻め取った敵兵達」を自軍に編制することと考察。結果、「自軍に編制する」と言い換えた。

・「此」は、「人民の生活を支える役人」と「生きたまま敵を取得する間者」を指示する代名詞と解釈。結果、「人民の生活を支える役人と生きたまま敵を取得する間者」と解読。

<③について>
・1つ目の「以」の“事を行う”の“事”は、②「考えていた計画を実行する将軍は人民の生活を支える役人と生きたまま敵を取得する間者に訓練させる」で記述された訓練した者達を指すと考察。但し、ここでは前者だけを指すと解釈できるため、「以すもの」で「訓練した人民の生活を支える役人」と解読。

・2つ目の「以」の“事を行う”の“事”は、②「考えていた計画を実行する将軍は人民の生活を支える役人と生きたまま敵を取得する間者に訓練させる」で記述された訓練した者達を指すと考察。但し、ここでは後者だけを指すと解釈できるため、「以すもの」で「訓練した生きたまま敵を取得する間者」と解読。

・「此」は、「人民の生活を支える役人」と「生きたまま敵を取得する間者」を指示する代名詞と解釈。結果、「此の者」で「人民の生活を支える役人と生きたまま敵を取得する間者」と解読。

<④について>
・1つ目の「以」の“事を行う”の“事”は、③「人民の生活を支える役人と生きたまま敵を取得する間者は敵人民の気持ちを整える」で記述された敵人民の心を整えることと考察。但し、ここでは前者だけを指すと解釈できるため、「以すもの」で「敵人民の気持ちを整える人民の生活を支える役人」と解読。

・2つ目の「以」の“事を行う”の“事”は、③「人民の生活を支える役人と生きたまま敵を取得する間者は敵人民の気持ちを整える」で記述された敵人民の心を整えることと考察。但し、ここでは後者だけを指すと解釈できるため、「以すもの」で「敵人民の気持ちを整える生きたまま敵を取得する間者」と解読。

・「譁するもの」の直訳は“でたらめを言う者”となる。この者は②③「騒ぎ立てる攻め取った敵兵達」の一部と考察できるため、「でたらめを言う元敵兵」と解読。

・「此」は、「謀反を起こそうとする元敵兵」と「でたらめを言う元敵兵」を指示する代名詞と解釈。結果、「此の者」で「謀反を起こそうとする元敵兵とでたらめを言う元敵兵」と解読。

・「心」の“物事の真ん中”は、其十三4-6⑤「他国に亡命しようとする元敵兵達は、大いに年貢等を免除する利点を繰り返して労わって自国に封じる」や其三1-1②「完全な状態に保つことをお手本にして兵士に力を尽くさせる概略は、停留している敵軍の小隊を打ち破っても、施して怪我が治れば自軍に所属させるのであり、背こうとすれば中隊の真ん中に配置して前進するのである」で記述された元敵人民を配置させる場所を指すと考察。結果、「自国又は軍隊の真ん中」と解読。

<⑤について>
・1つ目の「以」の“事を行う”の“事”は、④「謀反を起こそうとする元敵兵とでたらめを言う元敵兵は、それぞれ自国又は軍隊の真ん中で管理する」で記述された真ん中で管理することと考察。但し、ここでは前者だけを指すと解釈できるため、「謀反を起こそうとする元敵兵を自国内部で管理する」と解読。

・1つ目の「侍」の“世話をする”は、「謀反を起こそうとする元敵兵」を監視する者を指すと考察。結果、「侍うもの」で「謀反を起こそうとする元敵兵の監視役」と補って解読。

・2つ目の「以」の“事を行う”の“事”は、④「謀反を起こそうとする元敵兵とでたらめを言う元敵兵は、それぞれ自国又は軍隊の真ん中で管理する」で記述された真ん中で管理することと考察。但し、ここでは後者だけを指すと解釈できるため、「でたらめを言う元敵兵を軍隊の真ん中で管理する」と解読。

・2つ目の「侍」の“世話をする”は、攻め取った元敵兵の世話をする兵士達と考察。結果、「侍うもの」で「攻め取った元敵兵の世話役」と補って解読。

・「静」の“掃除する”は、攻め取った元敵兵の世話役が騒ぎ立てることで「でたらめを言う元敵兵」のでたらめをかき消すことと考察。結果、「でたらめをかき消す」と解読。

・「此」は、「謀反を起こそうとする元敵兵の監視役」と「攻め取った元敵兵の世話役」を指示する代名詞と解釈。結果、「此の者」で「謀反を起こそうとする元敵兵の監視役と攻め取った元敵兵の世話役」と解読。

<⑥について>
・1つ目の「以」の“事を行う”の“事”は、⑤「謀反を起こそうとする元敵兵の監視役と攻め取った元敵兵の世話役は、元敵兵の思想を管理する」で記述された元敵兵の思想を管理することと考察。但し、ここでは前者だけを指すと解釈できるため、「以すもの」で「謀反を起こそうとする元敵兵の思想を管理する監視役」と解読。

・2つ目の「以」の“事を行う”の“事”は、⑤「謀反を起こそうとする元敵兵の監視役と攻め取った元敵兵の世話役は、元敵兵の思想を管理する」で記述された元敵兵の思想を管理することと考察。但し、ここでは後者だけを指すと解釈できるため、「以すもの」で「攻め取った元敵兵の思想を管理する世話役」と解読。

・「此」は、「謀反を起こそうとする元敵兵」と「攻め取った元敵兵」を指示する代名詞と解釈。結果、「此の者」で「謀反を起こそうとする元敵兵と攻め取った元敵兵」と解読。

<⑦について>
・1つ目の「以」の“事を行う”の“事”は、⑥「謀反を起こそうとする元敵兵と攻め取った元敵兵は自国の思想に抵抗する」で記述された元敵兵による自国の思想への抵抗と考察。但し、ここでは前者だけを指すと解釈できるため、「以すもの」で「自国の思想に抵抗して謀反を起こそうとする元敵兵」と解読。

・2つ目の「以」の“事を行う”の“事”は、⑥「謀反を起こそうとする元敵兵と攻め取った元敵兵は自国の思想に抵抗する」で記述された元敵兵による自国の思想への抵抗と考察。但し、ここでは後者だけを指すと解釈できるため、話の流れに合わせて「攻め取った元敵兵が自国の思想に抵抗する」と補って解読。

<⑧について>
・1つ目の「以」の“事を行う”の“事”は、⑦「自国の思想に抵抗して謀反を起こそうとする元敵兵は、地方政府の所在地で謀反を起こして他の兵士達に諫言する」と考察。結果、「元敵兵が地方政府の所在地で謀反を起こして他の兵士達に諫言する」と補って解読。

・1つ目の「侍」の“目上の人に仕える人”は、将軍の配下にいる武将達と考察。結果、簡潔に「側近の部下」と解読。

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