九変に於いてするに、之を利とすること通ぜざる将は、雖だ地の刑を知るのみ、地に之くに利を得ること能わざる矣。

其八1-4

將不通於九變之利者、雖知地刑、不能得地之利矣。

jiāng bù tōng yú jiŭ biàn zhī lì zhě、suī zhī dì xíng、bù néng deǐ dì zhī lì yǐ。

解読文

①九種類の異変が存在している時、その異変を利点として用いる方法を熟知していない将軍は、ただ「泛地、瞿地、絶地、囲地、死地」という場所の型に関する知識があるにすぎず、戦地に変わった時に勝利を手に入れることができないのである。

②ただ「泛地、瞿地、絶地、囲地、死地」の型に関する知識があるにすぎない将軍は、「泛地、瞿地、絶地、囲地、死地」を利点として用いることが無く、獲物となる敵部隊を移動させて一所に集めろと述べるのである。ひたすら獲物となる敵部隊を一所に集める利点を強く求めるが、実現することはできないのである。

③「泛地、瞿地、絶地、囲地、死地」を利点として用いることが無く、ひたすら獲物となる敵部隊を一所に集める利点を強く求める将軍は、その志を遂げることは無いのである。ひたすら鞭打つ処罰を行っても実現できないと感じるけれども、しかしながら、鞭打つ処罰を利点として用いて一所に集めた兵士達を死亡させるのである。

④鞭打つ処罰を利点として用いれば服従する兵士達は無く、自国に仕返しする覚悟を持った元敵兵達を一所に集めて謀反を起こす者を出現させるのである。「泛地、瞿地、絶地、囲地、死地」という場所に応じて軍隊を整え治める知識があるだけならば、戦地に変わった時、どうしてひどく激しい軍隊の勢いを備えることができるだろうか、いや、ひどく激しい軍隊の勢いを備えることはできない。
書き下し文
①九変に於(お)いてするに、之を利とすること通(つう)ぜざる将は、雖(た)だ地の刑を知るのみ、地に之(ゆ)くに利を得ること能(あた)わざる矣(なり)。

②雖(た)だ地の刑を知る将は、之を利とすること不(な)く、於(う)を変えしめて九(あつ)めろと通(つう)ずるなり。地(た)だ之を利(むさぼ)るも、得ること能(あた)わざる矣(なり)。

③地(た)だ之を利(むさぼ)る将は、通ずること不(な)きを於(な)し。地(た)だ刑するも得ること能(あた)わざること知ると雖(いえど)も、之を利として九(あつ)める者を変たらしむ矣(なり)。

④之を利とすれば将(したが)うもの不(な)く、通じんとする於(う)を九(あつ)めて変ずる者あらしむなり。雖(た)だ地に刑(おさ)めること知るのみなれば、地に之(ゆ)くに能(よ)く不(おお)いなる利を得る矣(や)。
<語句の注>
・「将」は①②③将軍、④服従する、の意味。
・1つ目の「不」は①~しない、②③④無い、の意味。
・「通」は①物事を熟知する、②述べる、③④志を遂げる、の意味。
・「於」は①在る、②カラス、③~である、④カラス、の意味。
・「九」は①数の名、②③④一所に集める、の意味。
・「変」は①異変、②移動する、③死亡、④謀反を起こす、の意味。
・1つ目の「之」は①②③④代名詞、の意味。
・1つ目の「利」は①②③④利益あるものとして用いる、の意味。
・「者」は①②助詞「こと」、③④助詞「もの」、の意味。
・「雖」は①②ただ~にしかすぎない、③Aではあるけれども、しかしながらBである、④ただ~にしかすぎない、の意味。
・「知」は①②知識がある、③感じる、④知識がある、の意味。
・1つ目の「地」は①②其一2-5①「地」、③ひたすら、④其一2-5①「地」、の意味。
・「刑」は①②鋳型、③罰する、④整え治める、の意味。
・2つ目の「不」は①②③~しない、④大いに、の意味。
・「能」は①②③④~することができる、の意味。
・「得」は①手に入れる、②③実現する、④備える、の意味。
・2つ目の「地」は①其一2-5②「地」、②③ひたすら、④其一2-5②「地」、の意味。
・2つ目の「之」は①変わる、②③代名詞、④変わる、の意味。
・2つ目の「利」は①勝利、②③利益を強く求める、④勢い、の意味。
・「矣」は①②③必然的な判断を表す語気、④反語を表す語気、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は欠落しているため、孫子(講談社)の原文に従った。但し、「形」は他句を参考にして「刑」に置き換えた。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「九変」は、其八1-2①「途有所不由」の「所」の“場所”を指す「泛地、瞿地、絶地、囲地、死地」の5つと、其八1-2①「軍有所不擊、城有所不攻、地有所不爭」の「所」で記述された3つの“よろしき状態”、そして其八1-2①「君令有所不行」の「所」で記述された“軍事機関を占有する君主“を合わせた九種類を指すと考察。つまり、「変」は通常とは異なる状態であり、“異変”の意味を採用して「九種類の異変」と解読した。

・1つ目の「之」は、「変」の「異変」を指示する代名詞と解読。

・「地の刑」について、「刑」の“鋳型”は、鋳物を鋳造するための型であり、これは全く同じ鋳物を生産できる物である。また、其四4-5⑧「解読の注」で“鋳型”は過去の戦争事例を統計した“成否の類型(パターン)”だと考察している。他句で「陣形の型」等と解読することとの整合を考慮すれば、「地の刑」は“場所の型”と解読できる。但し、この“場所”は其八1-1①「泛地、瞿地、絶地、囲地、死地」を指すと考察。結果、「「泛地、瞿地、絶地、囲地、死地」という場所の型」と解読。

<②について>
・1つ目と2つ目の「地」の“場所”は、①「地の刑」の「地」の「泛地、瞿地、絶地、囲地、死地」という場所と同意と考察。結果、「泛地、瞿地、絶地、囲地、死地」と解読。

・1つ目の「之」は、1つ目の「地」の「泛地、瞿地、絶地、囲地、死地」を指示する代名詞と解読。

・「於」の“カラス”は、其五3-2①「鷹が獲物の鳥に追いついて強奪する時は、周到に行き届いているのであり、獲物の鳥を傷つけて挫折させる要因は、攻め取る節目と時機が出現したからである」の「獲物の鳥」と考察。結果、「獲物となる敵部隊」と解読。

・2つ目の「之」は、「九」で記述された「獲物となる敵部隊を移動させて一所に集める」ことを指示する代名詞と考察。結果、「獲物となる敵部隊を一所に集める」と解読。③も同様に解読。

<③について>
・解読文②からの話の流れをわかりやすくするため、「ひたすら獲物となる敵部隊を一所に集める利点を強く求める将軍」に対して「「泛地、瞿地、絶地、囲地、死地」を利点として用いることが無く、」を補った。

・「刑」の“罰する”は、其九4-26②「行き詰まっている敵の隊長は、一つひとつの罪状を数え挙げて責めてから鞭打つのである」を行うのだと考察し、「鞭打つ処罰を行う」と補って解読。

・1つ目の「之」は、「刑」の「鞭打つ処罰を行う」を指示する代名詞と考察。結果、「鞭打つ処罰」と解読。④も同様に解読。

<④について>
・「於」の“カラス”は、②同様に「獲物となる敵部隊」と解釈できるが、ここでは文意より攻め取った後の敵兵達を指すと考察。結果、「元敵兵達」と簡潔に解読。

・「通じんとする於」は、「於」を「元敵兵達」と解釈すれば“志を遂げようとする元敵兵達”となる。これは其六4-3④「自国に仕返しする覚悟を持った元敵兵達」等を指すと考察。結果、「自国に仕返しする覚悟を持った元敵兵達」と解読。

・1つ目の「地」の“場所”は、①1つ目の「地」の「「泛地、瞿地、絶地、囲地、死地」という場所の型」の意味を積み上げていると考察。結果、「「泛地、瞿地、絶地、囲地、死地」という場所」と解読。

・「不いなる利」の直訳は“大いなる勢い”となる。これは其五3-1④「疾」の「ひどく激しい軍隊の勢い」と同意と考察。結果、「ひどく激しい軍隊の勢い」と解読。

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