易なる処に、平らかなる陸あれば、而は右けて高を倍するなり、死を前にして後ろに生うなり。此、陸を之いて軍する処なり。

其九1-3

平陸處易、而右倍高、前死後生。此處陸之軍也。

píng lù chù yì、ér yoù bèi gaō、qián sǐ hòu shēng。cǐ chù lù zhī jūn yĕ。

解読文

①平坦な場所において、傾斜や高低が無くて高くて平坦な土地があれば、将軍は気を配ってその高い所を背にするのであり、命を取り合う「死地」を前方にして後方で兵士達を回復させるのである。これが、高くて平坦な土地を使って軍隊を配置するお手本である。

②平和な高くて平坦な土地は、消耗した部隊と回復した部隊を入れ替える場所であり、前もって隠れている奇策部隊が獲物となった敵部隊を生け捕りにすれば高くて平坦な土地に引き渡し、将軍は攻め取った敵兵達を敬って酒や食事を勧めるのである。このように高くて平坦な土地を使って、消耗した自軍の兵士達や攻め取った敵兵達を落ち着かせるのである。

③普通の将軍は、重要な高くて平坦な土地を軽視して軍隊を配置するのであり、さらにまして盛大な敵軍に前進して、回復させることは後回しにして兵士達を死なせるのである。このように高くて平坦な土地を使って軍事を行う将軍は罰するのである。

④自軍が陸路に留まって議論しているならば、自軍をみくびって近づく敵軍が出現するのである。前もって隠れている奇策部隊を高くて平坦な土地から出現させることで、二倍規模の軍隊にして敵軍を分散させた時、後方から獲物となった敵部隊を生け捕りにするのである。高くて平坦な土地を利用する時は、このように定めて軍隊を配置するのである。
書き下し文
①易(い)なる処に、平らかなる陸(おか)あれば、而(なんじ)は右(たす)けて高を倍(はい)するなり、死を前にして後ろに生(やしな)うなり。此、陸(おか)を之(もち)いて軍する処なり。

②平らかなる陸(おか)は易(か)える処なり、前(さき)に死すものは生なせば後(つ)ぎて、而(なんじ)は倍(そむ)かしむものを高(たか)しとして右(すす)めるなり。此(か)く陸(おか)を之(もち)いて軍を処(お)るなり。

③平なる而(なんじ)は、右なる陸(おか)を易(あなど)りて処(しょ)するなり、倍(ますます)高きものに前(すす)みて、生(やしな)うこと後にして死(ころ)すなり。此(か)く陸(おか)を之(もち)いて軍なすものは処(しょ)するなり。

④陸(りく)に処(お)りて平(ひょう)すれば、而(なんじ)を易(あなど)りて右するものあり。前(さき)に死すもの高よりあらしめて、倍(ばい)するに後より生なすなり。陸(おか)を之(もち)いるに、此(か)く処(しょ)して軍するなり。
<語句の注>
・「平」は①傾斜や高低がないさま、②平和なさま、③普通であるさま、④相談する、の意味。
・1つ目の「陸」は①②③高くて平坦な土地、④陸路、の意味。
・1つ目の「処」は①②場所、③配置する、④留まる、の意味。
・「易」は①平坦なさま、②取り替える、③軽視する、④みくびる、の意味。
・「而」は①②③④あなた、の意味。
・「右」は①気を配る、②酒や食事を勧める、③重要なさま、④近づく、の意味。
・「倍」は①背にする、②外れる、③さらにまして、④二倍にする、の意味。
・「高」は①高い所、②敬う、③盛大なさま、④高い所、の意味。
・「前」は①位置において先、②前もって、③前進する、④前もって、の意味。
・「死」は①其八1-1①「死」、②消える、③死なせる、④消える、の意味。
・「後」は①場所が後方であること、②受け継ぐ、③後回しにする、④場所が後方であること、の意味。
・「生」は①生育する、②生け捕り、③生育する、④生け捕り、の意味。
・「此」は①代名詞、②③④このように、の意味。
・2つ目の「処」は①規律、②落ち着かせる、③罰する、④定める、の意味。
・2つ目の「陸」は①②③④高くて平坦な土地、の意味。
・「之」は①③③④使う、の意味。
・「軍」は①軍隊を配置する、②兵士、③軍事、④軍隊を配置する、意味。
・「也」は①②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「平陸處易、而右背高、前死後生。此處平陸之軍也。」と「倍」を「背」とし、「此處平陸之軍也」に「平」が入るが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)では、四軍の最後の一つとして記述されているが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」は二番目に記述されていることに従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「死」は、其八1-1①「死」の「命を取り合う「死地」」の意味を積み上げていると考察。結果、「命を取り合う「死地」」と解読。

・「生」の“生育する”は、其五2-4③「生」で記述された「正攻法部隊の中で消耗した部隊が生じた時は兵士達を回復させて立て直し、正攻法部隊を構成する各部隊から適切な部隊を正確に判断して前線に出す」の「正攻法部隊の大軍隊が交戦しながらも完全な状態を保つ方法」の「兵士達を回復させる」を指すと考察。結果、「(兵士達を)回復させる」と解読。③も同様に解読。

・「此」は、「平陸處易、而右倍高、前死後生」を指示する代名詞と考察。ここでは「これ」と解読。

・2つ目の「処」の“規律”は、其九1-2①2つ目の「」同様に「お手本」と解読。

<②について>
・「易える処」の直訳は“取り替える場所”となる。これは①「命を取り合う「死地」を前方にして後方で兵士達を回復させる」及び其五2-4③「正攻法部隊の中で消耗した部隊が生じた時は兵士達を回復させて立て直し、正攻法部隊を構成する各部隊から適切な部隊を正確に判断して前線に出す」を踏まえれば、消耗した部隊と回復した部隊を入れ替える場所を考察できる。結果、「消耗した部隊と回復した部隊を入れ替える場所」と補って解読。

・「前に死すもの」の直訳は“前もって消える者”となる。これは戦闘前に隠れて獲物となる敵部隊を待ち受ける奇策部隊を指すと考察。結果、「前もって隠れている奇策部隊」と解読。④も同様に解読。

・「生」の“生け捕り”は、奇策部隊が獲物となった敵部隊を攻め取って生け捕りにすることと考察。結果、「生なす」で「獲物となった敵部隊を生け捕りにする」と補って解読。④も同様に解読。

・「後」の“受け継ぐ”は、奇策部隊が生け捕りにした敵兵達を後方にある高くて平坦な土地に引き渡すことと考察。結果、「高くて平坦な土地に引き渡す」と補って解読。

・「倍」の“外れる”は、話の流れより奇策部隊が攻め取った敵部隊の兵士達と解釈できる。結果、「倍かしむもの」で「攻め取った敵兵達」と解読。

・「軍」の“兵士”は、「消耗した部隊」の自軍の兵士達や「攻め取った敵兵達」を指すと考察。結果、「消耗した自軍の兵士達や攻め取った敵兵達」と補って解読。

<③について>
・特に無し。

<④について>
・「高」の“高い所”は、解読文①②より「陸」の「高くて平坦な土地」と同意とわかるため、「高くて平坦な土地」と解読。

・「倍」の“二倍にする”は、其三3-1②「倍」の「敵軍を分散させる時は二倍規模の軍隊にする」の意味を積み上げていると考察。結果、「二倍規模の軍隊にして敵軍を分散させる」と補って解読。

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