凡そ四なせば軍は利しく之くなり、黄帝は之なす所を以いて四帝に勝つなり。

其九1-10

凡四軍之利、黃帝之所以勝四帝也。

fán sì jūn zhī lì、huáng dì zhī suǒ yǐ shèng sì dì yĕ。

解読文

①四種類の場所における軍事全てを行えば戦争は順調に進むのであり、黄帝は、四種類の場所における軍事を行うよろしき実の軍隊を率いて他の四帝を抑えたのである。

②自国の戦争が順調に進めば人民達は正攻法部隊の兵士となるのであり、成熟した君主が、敵里等を陣地にする戦略を将軍に採用させた時、その君主の正攻法部隊は盛大になるのである。

③都合良く四種類の場所における軍事を行う平凡な将軍が戦争に赴けば、自国の帝王になろうとする諸侯の正攻法部隊が出現すると見なす君主は、軍事機関に赴いて注意や警告をするのである。

④自国の帝王になろうとする諸侯の正攻法部隊が出現した時、成熟した君主は、敵将軍の可愛がる者を殺害する間者を敵軍営に赴かせて、あらゆる範囲において自軍に都合良い状況にするのであり、自国がよろしき実の状態に変われば諸侯の正攻法部隊を抑えて戦争を終えるのである。
書き下し文
①凡そ四なせば軍は利(よろ)しく之(ゆ)くなり、黄帝は之なす所を以(ひき)いて四帝に勝つなり。

②利(よろ)しく之(ゆ)けば凡(はん)は四の軍たるなり、黄(こう)たる帝の所を之に以(もち)いらしむに、帝の四は勝(しょう)たりてなり。

③利(よろ)しく四なす凡なるものの軍に之(ゆ)けば、帝たらんとする勝(しょう)たる四ありと以(おも)う帝は、所に之(ゆ)きて黄(こう)たるなり。

④帝たらんとする四あるに、黄(こう)たる帝は、四を軍に之(ゆ)かしめて凡そ利(よろ)しくするなり、所に之(ゆ)けば勝ちて以(や)めるなり。
<語句の注>
・「凡」は①全て、②俗世間の人、③傑出せずに普通であるさま、④あらゆる範囲で、の意味。
・1つ目の「四」は①数の名、②③(あるものの数が)四つ、④四回目という序数、の意味。
・「軍」は①戦争、②兵士、③戦争、④軍営、意味。
・1つ目の「之」は①②③赴く、④使う、の意味。
・「利」は①②順調なさま、③④都合が良い、の意味。
・「黄」は①黄帝の略称、②③④黄色の、の意味。
・1つ目の「帝」は①②③④天子、の意味。
・2つ目の「之」は①代名詞、②彼、③赴く、④変わる、の意味。
・「所」は①よろしき状態、虚実の代名詞、②正しい方法、③官署や公的機関の事務を取り扱う所、④よろしき状態、虚実の代名詞、の意味。
・「以」は①~を率いて、②採用する、③見なす、④終える、の意味。
・「勝」は①抑える、②③盛大な、④抑える、の意味。
・2つ目の「四」は①数の名、②③④(あるものの数が)四つ、の意味。
・2つ目の「帝」は①②天子、③④帝王となる、の意味。
・「也」は①②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・1つ目の「四」の“数の名”は、其九1-2から其九1-9までで説かれた「山、陸、水、斥」の「高くそびえた山、高くて平坦な土地、河川、乾燥地」を利用する軍事を指すと考察。結果、「四」で簡潔に「四種類の場所における軍事」と解読。③も同様に解読。

・「黄帝」は最古の帝王、五帝の第一で中央。文明の創始者、民族の祖とされる。そのまま「黄帝」と解読。なお、孫子(講談社)、新訂孫子(岩波)、Web漢文大系の解説を参考にした。

・2つ目の「之」は、「四」の「四種類の場所における軍事」を指示する代名詞と解読。

・「所」は“よろしき状態”の意味だけでなく、虚実の「虚」又は「実」の代名詞の意味があり、「自国の実、自国の虚、敵国の実、敵国の虚」これら四つのいずれかに該当する。ここでは「よろしき実の軍隊」と解読。

・「四帝」は東方の青帝、西方の白帝、南方の赤帝、北方の黒帝。話の流れに合わせて「他の四帝」と解読。なお、孫子(講談社)、新訂孫子(岩波)、Web漢文大系の解説を参考にした。

<②について>
・「利しく之く」は、①「利しく之く」の「四種類の場所における軍事全てを行えば戦争は順調に進むのである」の意味を積み上げていると考察。結果、「自国の戦争が順調に進む」と補って解読。

・「凡」の“俗世間の人” は、其九1-1④「陣地にした元敵里等の人民」とも解釈できるが、ここでは自国の人民も含まれると推察して「人民達」と包括的に解読。

・1つ目と2つ目の「四」の“(あるものの数が)四つ”は、其五2-4③「四」の「正攻法部隊を構成する各部隊」を指すと考察。結果、ここでは簡潔に「正攻法部隊」と解読。

・1つ目と2つ目の「帝」の“天子”は、黄帝の教えに倣う君主を指すと解釈できる。結果、簡潔に「君主」と解読。

・「黄」の“黄色の”は、「修士論文:日中基本色彩語の比喩的意味拡張に関する研究—黒、白、赤、青、黄色のメタファー表現を中心に—(著:宮城教育大学 郭麗)」に参考にすると「成熟する」の意味に拡張して解読することができる。④も同様に解読。

・2つ目の「之」の“彼”は、君主が指令を出す相手と考察。結果、「将軍」と解読。

・「所」の“正しい方法”は、話の流れを踏まえると、敵人民を取得して自軍を盛大にすることに繋がる方法と解釈できる。孫子兵法に登場する敵人民を取得する主な方法は、奇正の戦術によって敵兵達を攻め取ることと、汙直の計(戦略)によって敵里を奪い取って統治することの二つがある。但し、主語が君主であることを踏まえれば「奇正の戦術」は局地戦であるため除外できる。結果、簡潔に「敵里等を陣地にする戦略」と解読。

<③について>
・2つ目の「帝」の“帝王となる”は、諸侯が自国に侵略して、自国の帝王になろうとすることと考察。結果、未来形で「自国の帝王になろうとする」と解読。④も同様に解読。

・2つ目の「四」の“(あるものの数が)四つ”は、②同様に「正攻法部隊」と解読。④も同様に解読。

・1つ目の「帝」の“天子”は、②「帝」同様に「君主」と解読。

・「所」の“官署や公的機関の事務を取り扱う所”は、其三4-2①「所」の「軍事機関」と同意と考察。結果、「軍事機関」と解読。

・「黄」の“黄色の”は、「修士論文:日中基本色彩語の比喩的意味拡張に関する研究—黒、白、赤、青、黄色のメタファー表現を中心に—(著:宮城教育大学 郭麗)」に参考にすると「注意や警告をする」の意味に拡張して解読することができる。
なお、其三4-2②「特に、何度も軍事機関に赴く君主は、軍隊を統率する将軍を心配していると見なす。」に基づけば、君主が将軍を頼りなく感じて「注意や警告をする」のだとわかる。

<④について>
・1つ目の「四」の“四回目という序数”は、其十二2-2①で記述された「五種類の間者」の内、四番目に記述された間者を指示していると考察。結果、「四」は「敵将軍の可愛がる者を殺害する間者」と解読。

・「所」は“よろしき状態”の意味だけでなく、虚実の「虚」又は「実」の代名詞の意味があり、「自国の実、自国の虚、敵国の実、敵国の虚」これら四つのいずれかに該当する。ここでは「よろしき実の状態」と解読。

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