為し交なりて斥に軍すれば、沢いを中ちしめて之いるなり、草ある水に依りて衆き樹を倍するなり。此、斥に沢を之いて軍する処なり。

其九1-9

為交軍斥澤之中、依水草而倍衆樹。此處斥澤之軍也。

wèi jiāo jūn chì zé zhī zhōng、yī shuǐ caǒ ér bèi zhòng shù、cǐ chù chì zé zhī jūn yĕ。

解読文

①もしも切羽詰まって乾燥地で駐屯するならば、雨露を充満させて使うのであり、燃料や飼料の草がある塩分濃度の高い地下水が溜まった窪地や塩湖を拠り所にして、数多くある立ち木を背にするのである。これが、乾燥地において雨露を使って駐屯するお手本である。

②乾燥地で切羽詰まって雨露を充満させる時は、塩分濃度の高い地下水が溜まった窪地や塩湖を開拓して軍営を設置するのであり、数多くある立ち木と盛んに茂った雑草を湿らせて雨露を増やすのである。これが、塩分濃度の高い地下水が溜まった窪地や塩湖を開拓して軍営に変えるお手本である。

③立ち木と雑草によって雨露を多くする途中の時は、兵士達を行き来させるのであり、雨露を集める仕事に従事させる将軍は、さらにまして雨露を集めるための雑草と立ち木の数を増やすのである。これが、兵士達を使って雨露を多くするお手本である。

④雨露を多くして充満した状態に達すれば、切羽詰まった兵士達を癒すのであり、将軍は、拠り所にする雨露と燃料や飼料の草を増やして軍隊を確立させるのである。乾燥地に赴いた時、自軍に恩恵を施す理由は、このように定めた軍事を行うからである。
書き下し文
①為(も)し交(こう)なりて斥(せき)に軍すれば、沢(うるお)いを中(み)ちしめて之(もち)いるなり、草ある水に依(よ)りて衆(おお)き樹(き)を倍(はい)するなり。此、斥(せき)に沢(たく)を之(もち)いて軍する処なり。

②交(こう)なりて之を中(み)ちしむに沢(さわ)を斥(ひら)いて軍を為(な)すなり、衆(おお)き樹(き)と依(い)たる草を水にして倍(ま)すなり。此、沢(さわ)を斥(ひら)いて軍に之(ゆ)かしむ処なり。

③之に沢(うるお)いを斥(せき)たらしむ中(なか)なるに、軍を交(まじ)わら為(し)むなり、水に依(よ)らしむ而(なんじ)は、倍(ますます)草と樹を衆(おお)くするなり。此、軍を之(もち)いて沢(うるお)いを斥(せき)たらしむ処なり。

④沢(うるお)いを斥(せき)たらしめて中(み)ちるに之(いた)れば、交(こう)なる軍を為(おさ)めるなり、而(なんじ)は、依(よ)る水と草を倍(ま)して衆を樹(た)てるなり。斥(せき)に之(ゆ)くに、沢(うるお)すは、此(か)く処(しょ)して軍なせばなり。
<語句の注>
・「為」は①もしも、②設置する、③~させる、④癒す、の意味。
・「交」は①②切羽詰まったさま、③行き来する、④切羽詰まったさま、の意味。
・1つ目の「軍」は①駐屯する、②軍営、③④兵士、の意味。
・1つ目の「斥」は①塩辛い土地、②開拓する、③④多い、の意味。
・1つ目の「沢」は①雨露、②水の溜まった窪地、③④雨露、の意味。
・1つ目の「之」は①使う、②③代名詞、④ある地点や事情に達する、の意味。
・「中」は①②充満する、③物事が途中であるさま、④充満する、の意味。
・「依」は①拠り所にする、②盛んに茂るさま、③従う、④拠り所にする、の意味。
・「水」は①水を湛えた所(河川、泉、湖沼、海洋の総称)、②湿らせる、③水を汲んだりそれを用いたりする仕事、④無味無色透明の液体、の意味。
・「草」は①燃料や飼料の草、②③雑草、④燃料や飼料の草、の意味。
・「而」は①②順接の関係を表す接続詞、③④あなた、の意味。
・「倍」は①背にする、②増やす、③さらにまして、④増やす、の意味。
・「衆」は①②数が多い、③数を増やす、④軍隊、の意味。
・「樹」は①②③立ち木、④確立させる、の意味。
・「此」は①②③代名詞、④このように、の意味。
・「処」は①②③規律、④定める、の意味。
・2つ目の「斥」は①塩辛い土地、②開拓する、③多い、④塩辛い土地、の意味。
・2つ目の「沢」は①雨露、②水の溜まった窪地、③雨露、④恩恵を施す、の意味。
・2つ目の「之」は①使う、②変わる、③使う、④赴く、の意味。
・2つ目の「軍」は①駐屯する、②軍営、③兵士、④軍事、意味。
・「也」は①②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「若交軍斥澤之中、依水草而背衆樹。此處斥澤之軍也。」と「為」を「若」とし、「倍」を「背」するが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・1つ目と2つ目の「斥」の “塩辛い土地”は、其九1-8①②「」同様に「乾燥地」と解読。

・「水」の“水を湛えた所(河川、泉、湖沼、海洋の総称)”は、其九1-8①「沢」等の「塩分濃度の高い地下水が溜まった窪地や塩湖」を指すと考察。結果、「塩分濃度の高い地下水が溜まった窪地や塩湖」と言い換えた。

・「此」は、「為交軍斥澤之中、依水草而倍衆樹」を指示する代名詞と考察。ここでは「これ」と解読。②③も同様に解読。

・「処」の“規律”は、其九1-2①2つ目の「」同様に「お手本」と解読。②③も同様に解読。

<②について>
・「交」の“切羽詰まったさま”は、①「交」で記述された「もしも切羽詰まって乾燥地で駐屯するならば、雨露を充満させて使う」の意味を積み上げていると考察。結果、「乾燥地で切羽詰まる」と補って解読。

・1つ目の「之」は、①1つ目の「沢」の「雨露」を指示する代名詞と解読。

・1つ目と2つ目の「沢」の“水の溜まった窪地”は、其九1-8①「沢」同様に「塩分濃度の高い地下水が溜まった窪地や塩湖」と解読。

・「倍」の“増やす”は、話の流れより「雨露」を増やすと考察。結果、「雨露を増やす」と補って解読。

<③について>
・1つ目の「之」は、②「衆き樹と依たる草」の「樹」と「草」を指すと考察。結果、「立ち木と雑草」と解読。

・「水に依らしむ」の直訳は“水を汲んだりそれを用いたりする仕事に従わせる”となる。つまり、兵士達に、雨露を集める仕事に従事させることと解釈できる。結果、「雨露を集める仕事に従事させる」と解読した。

・「倍草と樹を衆くす」の直訳は“さらにまして雑草と立ち木の数を増やす”となる。これは兵士達を行き来させることで、雨露を集めるための雑草と立ち木を増やすことと考察。結果、「さらにまして雨露を集めるための雑草と立ち木の数を増やす」と解読。

<④について>
・「水」の“無味無色透明の液体”は、話の流れより充満させた「雨露」を指すと考察。結果、「雨露」と解読。

・2つ目の「斥」の “塩辛い土地”は、其九1-8①②「」同様に「乾燥地」と解読。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。