鳥の起つは、伏なればなり。

其九4-3

鳥起者、伏也。

niǎo qǐ zhě、fú yĕ。

解読文

①鳥が飛び立つ要因は、敵の伏兵が潜んでいるからである。

②おとり部隊を動員する将軍は、同時に奇策部隊を待ち伏せさせるのである。

③おとり部隊は潜み隠れる敵の伏兵を出撃させるのである。

④おとり部隊を泳がせて出撃した敵の伏兵に追従させるのである。

⑤出撃した敵の伏兵を獲物とするのは、潜み隠れている奇策部隊である。

⑥攻め取った敵兵を助け回復させれば、その敵兵は従うのである。

⑦取得した敵兵を啓発する自軍は、敵兵を感服させるのである。

⑧取得した敵兵を自軍で起用できる要因は、敵兵を感服させたことにある。
書き下し文
①鳥の起つは、伏なればなり。

②鳥を起こす者は、伏せしむなり。

③鳥は伏す者起(た)たしめるなり。

④鳥をして起(た)つ者伏せしむなり。

⑤起(た)つ者を鳥とするは、伏なり。

⑥鳥を起こせしめば、伏せるなり。

⑦鳥を起こす者は、伏せしむなり。

⑧鳥を起こすは、伏せしめばなり。
<語句の注>
・「鳥」は①鳥の総称、②③④⑤⑥⑦⑧其五3-2④「鳥」、の意味。
・「起」は①鳥が飛び立つ、②動員する、③④⑤立ち上がる、出発する、⑥助け回復する、⑦啓発する、⑧採用する、の意味。
・「者」は①因果関係「也」に対応した置き字、②③④⑤助詞「もの」、⑥仮定表現の助詞、⑦助詞「もの」、⑧因果関係「也」に対応した置き字、の意味。
・「伏」は①伏兵、②③待ち伏せする、④従わせる、⑤伏兵、⑥従う、⑦⑧感服する、の意味。
・「也」は①因果関係を表す助詞、②③④⑤⑥⑦断定の語気、⑧因果関係を表す助詞、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は欠落しているため、孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)の原文に従った。
・この句には、八通りの書き下し文と解読文がある。①~⑧と付番して、以下、それぞれについて解説する。

<①について>
・「伏」の“伏兵”は、文意から敵の伏兵とわかるため「敵」と補った。敵が伏兵を潜ませていることを察知したら回避するのも選択肢の一つだが、其二4-1①「敵する之を取りて利ある者は貨うなり」の教えが優先されるべきであり、敵兵を取得する具体的な方法が②~⑧で記述されている。

<②について>
・「鳥」は其五3-2①「」と考察。つまり、鷹が強奪する“獲物の鳥”であり、其五4-5①「お手本を使って意図的に勢いを削いだおとり部隊に心を向かわせて追わせることを必ず実行する」に基づけば、敵の伏兵を誘き出すためには捕獲しやすそうな獲物を装ったおとり部隊を泳がせるのだとわかるため、「鳥」は「おとり部隊」と解読。以降、同様に解読。

・「伏」の“待ち伏せする”は、其五4-6①「敵軍からの攻撃を誘う陣形等の型を使って正攻法部隊を動員し、生きたまま敵を取得する間者を採用した中隊の奇策部隊を使うのである」に基づけば、敵がおとり部隊を攻め取る瞬間を待ち受ける中隊は奇策部隊であり、おとり部隊を使う時は中隊の奇策部隊も同時に仕掛けるとわかる。結果、使役形で「奇策部隊を待ち伏せさせる」と補って解読。

・「者」は、おとり部隊と奇策の戦術を指揮する者と考察。結果、「将軍」と解読。

<③について>
・特に無し。

<④について>
・この記述にある、おとり部隊の仕事によって敵の伏兵は、奇策部隊が待ち伏せる罠に誘導されていくと考察。

<⑤について>
・②③④「鳥」は自軍が仕掛けた「おとり部隊」だが、この記述以降は「鳥」は「獲物=敵の伏兵」となる。

・「伏」の“伏兵”は、②で解説した其五4-6①の解釈を積み上げて「潜み隠れている奇策部隊」と具体的に解読した。この記述で、敵の伏兵を獲物と表現しているため、奇策部隊が攻め取ったと解釈する。

<⑥について>
・「鳥」は“獲物”の意味だが既に攻め取っているため「攻め取った敵兵」と解読。

<⑦について>
・「鳥」は“獲物”の意味だが、⑥で「攻め取った敵兵」を従わせた後、自国に服従させたと考察して「取得した敵兵」と解読(①で解説した其二4-1参照)。

<⑧について>
・「起」の“採用する”は、取得した敵兵に関する記述であり、其二4-2①「敵戦車の旗印は自軍のものに取り替えて、その戦車と自軍の戦車を組み合わせて敵国への進攻に使用」の記述に基づけば、自軍に加えて兵士として起用することと解釈できる。結果、話の流れに合わせて「自軍で起用できる」と解読。これは、攻め取った敵兵を力で屈伏させただけでは其二4-2①「敵に勝ちて而は強を益す」を実践できず、感服させて心から従わせてこそ「敵に勝ちて而は強を益す」が実践できる文意と考察できる。

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