杖つきて立つ者あるは、飢なればなり。

其九4-15

杖而立者、飢也。

zhàng ér lì zhě、jī yĕ。

解読文

①杖をついて身を起こしている者が出現する理由は、食物がなく食べられない状態だからである。

②食物がなく食べられない状態ならば、棍棒を頼りに盗賊をして生存しようとするのである。

③飢えている者は棍棒を手に持って脅迫し、自軍の兵士を留めようとするのである。

④腹が減って留めようとする者は、自軍の兵士を食糧の拠り所にしているのである。

⑤自軍の兵士はすぐに飢えている者から棍棒を奪うのである。

⑥食糧の拠り所にされた自軍の兵士は、飢えている者を改心させて忠誠を誓わせるのである。

⑦飢えていた者は自国を生活の拠り所にして一人前になるのである。

⑧将軍は、食物がなく食べられない状態だった者に仕事を与えて頼りにするのである。
書き下し文
①杖つきて立つ者あるは、飢(き)なればなり。

②飢(き)ならば、杖(たよ)りて立たんとするなり。

③飢える者は、杖(と)りて而(なんじ)を立てんとするなり。

④飢にして立てんとする者は、而(なんじ)を杖(たよ)りにするなり。

⑤而(なんじ)は、立(たちどころ)に飢える者より杖(と)るなり。

⑥杖(たよ)らる而(なんじ)は、飢える者を立てるなり。

⑦飢える者は、而(なんじ)を杖(たよ)りて立つなり。

⑧而(なんじ)は飢(き)なる者を立てて杖(たよ)るなり。
<語句の注>
・「杖」は①杖をつく、②棍棒、頼りにする、③棍棒、手に持つ、④頼りにする、⑤棍棒、手に持つ、⑥⑦⑧頼りにする、の意味。
・「而」は①②順接の関係を表す接続詞、③④⑤⑥⑦⑧あなた、の意味。
・「立」は①真っすぐに身を起こす、②生存する、③④留める、⑤すぐに、⑥真っすぐに据える、⑦一人前となる、⑧地位につける、の意味。
・「者」は①助詞「もの」、②仮定表現の助詞、③④⑤⑥⑦⑧助詞「もの」、の意味。
・「飢」は①②食物がなく食べられない状態、③飢えているさま、④腹が減ること、⑤⑥⑦飢えているさま、⑧食物がなく食べられない状態、の意味。
・「也」は①因果関係を表す助詞、②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には、八通りの書き下し文と解読文がある。①~⑧と付番して、以下、それぞれについて解説する。

<①について>
・其九4-15①~⑧の文意を読み解けば、この飢えた者は、敵とは限らず、飢えた要因も問わないと解釈できる。敵味方なく、飢えに苦しんで盗賊してでも必死に生き延びようとする者が対象である。

<②について>
・「杖」は“棍棒”と“頼りにする”の掛け言葉と解釈。棍棒を頼りにして“生存する”意味は、棍棒で盗賊するのだと推察できるため「棍棒を頼りに盗賊をする」と補って解読。

<③について>
・「而」の“あなた”は、話の流れより「自軍の兵士」と解読。④⑤⑥も同様に解読。

・「杖」は“棍棒”と“手に持つ” の掛け言葉と解釈。また、自軍の兵士をその場に留める文意であるため、手に持った棍棒で飢えた者が脅迫している場面と推察できる、結果、「棍棒を手に持って脅迫する」と補って解読。

<④について>
・「杖」の“頼りにする”は、話の流れから飢えた者が盗賊行為をして食糧を得ようとすることがわかる。結果、「食糧の拠り所にする」と補って解読。

<⑤について>
・「杖」は“棍棒”と“手に持つ” の掛け言葉と解釈。ここでは、飢えた者が持っていた「棍棒を奪う」と考察。棍棒を奪える理由は、①「杖をついて身を起こしている」の記述を踏まえれば、飢えた者は、相当に弱っているため容易く棍棒を奪われてしまうと推察できる。

<⑥について>
・「杖」の“頼りにする”は、④「杖」の「食糧の拠り所にする」と同意と考察。結果、受身形で「食糧の拠り所にされる」と解読。

・「立」の“真っすぐに据える”は、“相手の曲がった心を、真っすぐ自分や自国に向けさせる”ことと解釈して「改心させて忠誠を誓わせる」と解読した。

<⑦について>
・「而」の“あなた”は、話の流れより「自国」と解読。

・「杖」の“頼りにする”は、飢えていた者が襲った自国を生活の拠り所にすると解釈して、「生活の拠り所にする」と解読した。

・「飢」の“飢えているさま”は、⑥の記述まで「飢えている者」と現在形で解読してきたが、⑦の記述は襲った相手である自軍に生活の面倒をみてもらうため、過去形で「飢えていた者」と解読した。飢えていた者が一人前になるまで生活を助けることで、飢えていた者は襲った相手である自軍に対する忠誠心を厚くすると推察できる。

<⑧について>
・「而」の“あなた”は、話の流れより「将軍」と解読。

・「立」の“地位につける”は、⑥⑦で改心させて一人前になるまで面倒をみることから、飢えていた者に将軍が「仕事を与える」と解読。盗賊する程に飢えている者を改心させて仕事を与え、しかも、一人前になるまで面倒見れば、最終的には絶対的な信頼をおける存在になるのだと推察した。

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