鳥の雑まるは、虚なればなり。

其九4-18

鳥襍者、虚也。

niǎo zá zhě、xū yĕ。

解読文

①鳥が集まる要因は、その場所に誰もいないことにある。

②誰もいない場所をつくれば、多種多様な鳥が集まって入り混じるのである。

③集まった多種多様な鳥達が乱れている理由は、上辺だけの集まりだからである。

④乱れた多種多様な鳥達の集まりであれば、その集まりには隙間が生じているのである。

⑤隙間のある部隊は、多種多様な種類が入り混じって乱れている鳥達であり、獲物となる敵部隊である。

⑥獲物となる敵部隊が整っていないならば、びくびくしているのである。

⑦獲物となる敵部隊がびくびくしているならば、見かけだけを取り繕うのである。

⑧獲物となる敵部隊は見かけだけを取り繕っても、脆い敵軍である。
書き下し文
①鳥の雑(あつ)まるは、虚なればなり。

②虚ならば、鳥は雑(ま)じるなり。

③鳥の雑なるは、虚なればなり。

④雑なる鳥ならば、虚あるなり。

⑤虚ある者は雑(ま)じりて、鳥なり。

⑥鳥の雑たれば、虚なるなり。

⑦鳥の虚なれば、雑するなり。

⑧鳥の雑するも、虚なる者なり。
<語句の注>
・「鳥」は①②③④鳥の総称、⑤⑥⑦⑧其五3-2④「鳥」、の意味。
・「襍=雑」は①集合する、②いろいろな種類のものが混じったさま、③④⑤乱れているさま、⑥整理されていないさま、⑦⑧飾る、の意味。
・「者」は①因果関係「也」に対応した置き字、②仮定表現の助詞、③因果関係「也」に対応した置き字、④仮定表現の助詞、⑤助詞「もの」、⑥⑦仮定表現の助詞、⑧助詞「もの」、の意味。
・「虚」は①空っぽな、②場所を空ける、③うわべだけのさま、④⑤隙間、⑥⑦(やましさや自信の無さから)びくびくしたさま、⑧其五1-4①「虚」、の意味。
・「也」は①因果関係を表す助詞、②断定の語気、③因果関係を表す助詞、④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「鳥集者、虚也。」と「襍」を「集」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には、八通りの書き下し文と解読文がある。①~⑧と付番して、以下、それぞれについて解説する。

<①について>
・「虚」の“空っぽな”は、人がいる所には鳥が集まらない文意を考慮すれば、誰もいない場所を指すとわかる。結果、「誰もいない場所」と解読した。

<②について>
・「虚」の“場所を空ける”は、①「虚」の「誰もいない場所」を意図的に作ることと解釈して「誰もいない場所をつくる」と解読した。

・「雑」の“いろいろな種類のものが混じったさま”は、①「雑」の「集まる」意味が積み上げられていると解釈し、“いろいろな種類のものが混じったさま”は「多種多様な鳥が集まって入り混じる」と解読した。この多種多様とは、羽毛の色、鳥の大きさ等の容姿に対する形容であることが解読文⑦⑧で明らかになる。

<③について>
・「鳥」は、②「鳥」で記述された「多種多様な鳥が集まって入り混じる」の意味を積み上げていると考察。結果、「集まった多種多様な鳥達」と解読。

・「虚」の“うわべだけのさま”は、「集まった多種多様な鳥達」に対する説明と解釈。多種多様な鳥達を大きな視点で見れば「鳥」の一言で表現できるが、実際にはそれぞれ種類が異なる鳥の集まりである。鳥達はそれぞれ習性が異なるため動き方が揃うことはなく、異なる種類のため互いに寄り添うこともない。つまり、一見すれば鳥の集まりだが、実際には上辺だけの集まりなのだと考察できるため、「上辺だけの集まり」と補って解読。

<④について>
・「鳥」は、③「集まった多種多様な鳥達」を「多種多様な鳥達の集まり」と言い換えた。

・「虚」の“隙間”は、「多種多様な鳥達」の集まり方に対する説明と解釈。鳥達はそれぞれ習性が異なるため動き方が揃うことはなく、異なる種類のため互いに寄り添うこともない。だからこそ、多種多様な鳥達の集まりには隙間が生じると解釈できる。結果、「その集まりには隙間が生じている」と解読。

<⑤について>
・「雑」の“乱れているさま”は、「鳥達」は多種多様な種類が入り混じっているため、文意がわかるように「隙間のある部隊は、多種多様な種類が入り混じって乱れている鳥達である」と補って解読。

・「鳥」は、其五3-2①「鷹が獲物の鳥に追いついて強奪する時は、周到に行き届いているのであり、獲物の鳥を傷つけて挫折させる要因は、攻め取る節目と時機が出現したからである」の「獲物の鳥」と考察。結果、「獲物となる敵部隊」と解読。⑥⑦⑧も同様に解読。
本来、「鳥」は同じ種類で集まる習性と言える。逆を言えば、この記述における鳥は同じ種類の集まりから離れて誰もいない場所に来たと考察できる。この「種類」を「部隊の種類」とすれば、正式に所属している部隊を離れた兵士が誰もいない場所に逃亡してきたと解釈できる。つまり、逃亡して“離れた兵士”は「所属部隊から逃げた兵士」の喩えとなる。多種多様な各部隊から逃げたそれぞれの兵士は、鳥の道理に従い、皆が誰も無い場所に集まってくるのである。その結果、誰もいない場所には、「多種多様な部隊が入り混じって乱れている兵士達」が集まって「獲物となる敵部隊」になると解釈できる。

<⑥について>
・特に無し。

<⑦について>
・「雑」の“飾る”は、見かけだけを取り繕う意味と解釈。「見かけだけを取り繕う」と解読した。「獲物となる敵部隊」は「所属部隊から逃げた兵士」の集まりが「見かけだけを取り繕う」とは、具体的には多種多様な部隊から逃げてきた兵士達を形式的にまとめて、部隊らしく体裁を整えて編制しただけの部隊と解釈できる。⑧も同様に解読。

<⑧について>
・「虚」は、其五1-4①「虚」の「虚弱な“虚”」と考察。虚実の「虚」と考察すれば、其五5-2②「軍隊の勢いを利用する将軍は、人民を使って敵軍と優劣を争わせるのであり、石を丸太にころがり落とすに等しく勢いを生じさせた堅固な自軍で脆い敵軍に向かって前進させる」で記述された「脆い敵軍」を指すと解釈できる。結果、「虚なる者」で「脆い敵軍」と解読。

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