夜するに嘑ぶ者は、恐れるなり。

其九4-19

夜嘑者、恐也。

yè hū zhě、kŏng yĕ。

解読文

①夜行する時、大声で呼び立てる兵士は、怖がっているのである。

②怖がっている兵士は、夜行する時に横柄な態度になるのである。

③横柄な態度で夜行する兵士達は、正体不明の何かを心配しているのである。

④正体不明の何かを心配して夜行している兵士達であれば、大声で叫べば、その兵士達の士気は殺がれるのである。

⑤夜行中に大声で呼び立てている敵兵達は、自軍の奇策部隊が出現することを怖がっているのである。

⑥自軍の奇策部隊が、夜行中に大声で呼び立てている敵兵達を威嚇すれば、驚いて大声で叫ぶのである。

⑦驚いて大声で叫ぶ敵兵達が出現すれば、夜行している敵軍は正体不明の何かを怖がるのである。

⑧正体不明の何かを怖がる敵軍が存在すれば、自軍の奇策部隊は大声で叫んで敵兵達を威嚇するのである。
書き下し文
①夜するに嘑(さけ)ぶ者は、恐れるなり。

②恐れる者は、夜するに嘑(こ)たるなり。

③嘑(こ)たりて夜する者は、恐れるなり。

④恐れる者なれば、嘑(さけ)べば夜(よ)たらしむなり。

⑤嘑(さけ)ぶ者は、夜あること恐れるなり。

⑥夜の恐(おど)せば、嘑(さけ)ぶなり。

⑦嘑(さけ)ぶ者あれば、夜するものは恐れるなり。

⑧恐れる者あれば、夜は嘑(さけ)ぶなり。
<語句の注>
・「夜」は①②③夜行する、④暮れ時、⑤⑥日没から日の出の直前までの間、⑦夜行する、⑧日没から日の出の直前までの間、の意味。
・「嘑」は①呼ばわる、②③横柄なさま、④大声で叫ぶ、⑤呼ばわる、⑥⑦⑧大声で叫ぶ、の意味。
・「者」は①②③④⑤助詞「もの」、⑥仮定表現の助詞、⑦⑧助詞「もの」、の意味。
・「恐」は①②怖がる、③④心配する、⑤怖がる、⑥威嚇する、⑦⑧怖がる、の意味。
・「也」は①②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には、八通りの書き下し文と解読文がある。①~⑧と付番して、以下、それぞれについて解説する。

<①について>
・特に無し。

<②について>
・特に無し。

<③について>
・「恐」の“心配する”対象は、敵かもしれず、獣かもしれず、化け物の類かもしれない正体不明の何かと解釈。「正体不明の何かを心配している」と補って解読。

<④について>
・「恐れる者」は、③「恐」で記述された「横柄な態度で夜行する兵士達は、正体不明の何かを心配している」の意味を積み上げていると考察。結果、「正体不明の何かを心配して夜行している兵士達」と補って解読。

・「夜」の“暮れ時”は、其七6-2①「道理は、早朝の士気は旺盛であり、昼間の士気は緩み、夕暮れ時の士気は殺がれるのである」の「夕暮れ時の士気は殺がれる」を指すと考察。結果、「その兵士達の士気は殺がれる」と解読。

<⑤について>
・①②③④は普遍的な道理に関する記述だが、⑤以降はその道理を活かす方法が記述されている。そのため「者」は「敵兵達」と解読。

・「嘑」の“呼ばわる”は、④「嘑」で記述された「正体不明の何かを心配して夜行している兵士達であれば、大声で呼び立てていても士気は殺がれている」の意味を積み上げていると考察。結果、「夜行中に大声で呼び立てる」と補って解読。

・「夜」の“日没から日の出の直前までの間”は、漢字「日」の対義語であることを踏まえれば、其五2-3「日月」の解釈より「月」の「奇策部隊」を指すと考察できる(参考:「日」は正攻法部隊)。結果、「自軍の奇策部隊」と解読した。⑥⑧も同様に解読。

<⑥について>
・「恐」の“威嚇する”は、⑤「夜行中に大声で呼び立てている敵兵達」を威嚇することと考察。結果、「夜行中に大声で呼び立てている敵兵達を威嚇する」と補って解読。

・「嘑」の“大声で叫ぶ”は、「夜行中に大声で呼び立てて士気が殺がれている敵兵達」が驚いて叫ぶことと考察。結果、「驚いて大声で叫ぶ」と補って解読。⑦も同様に解読。

<⑦について>
・「恐」の“怖がる”は、③「正体不明の何かを心配している」の「正体不明の何か」が対象と考察。結果、「正体不明の何かを怖がる」と補って解読。⑧も同様に解読。

<⑧について>
・「嘑」の“大声で叫ぶ”は、⑥「自軍の奇策部隊が、夜行中に大声で呼び立てている敵兵達を威嚇すれば、驚いて大声で叫ぶのである」の威嚇を指すと考察。結果、「大声で叫んで敵兵達を威嚇する」と補って解読。

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