数罰すは、困しめばなり。

其九4-26

數罰者、困也。

shù fá zhě、kùn yĕ。

解読文

①敵の隊長が、度々、兵士を鞭打っている理由は、鞭打たれている兵士達の過ちによって、敵軍が行き詰まっているからである。

②行き詰まっている敵の隊長は、一つひとつの罪状を数え挙げて責めてから鞭打つのである。

③一つひとつの罪状を数え挙げて責めてから鞭打つ敵の隊長は、疲れるのである。

④鞭打つ敵の隊長は、鞭打たれた兵士達に取り囲まれる運命である。

⑤自軍が兵士達の過ちによって行き詰まれば、規律に従って罰金を取るのである。

⑥一つひとつ計算して罰金を取れば、過ちを犯した兵士達は貧しくなるだけである。

⑦過ちを犯した兵士達は貧しくなれば、最も地位や身分が高そうな武将を誅殺するのである。

⑧褒美を明らかにした規律と規律に対応した罰則があれば、敵軍を苦難の境地に追い込むのである。
書き下し文
①数(しばしば)罰すは、困(くる)しめばなり。

②困(くる)しむ者は、数(せ)めて罰するなり。

③数(せ)めて罰する者は、困(くる)しむなり。

④罰する者は、困(くる)しむ数なり。

⑤困(くる)しめば、数により罰するなり。

⑥数えて罰すれば、困(くる)しむのみなり。

⑦困(くる)しめば、数えて罰すればなり。

⑧数と罰あれば、困(こま)らしむなり。
<語句の注>
・「数」は①たびたび、②③一つひとつの罪状を数え挙げて責める、④運命、⑤規律、⑥一つひとつ計算する、⑦他と比較して最も際立つと見なす、⑧規律、の意味。
・「罰」は①②③④鞭打つ、⑤⑥罰金を取る、⑦誅殺する、⑧規則や約束を守らなかった者への処分、の意味。
・「者」は①因果関係「也」に対応した置き字、②③④助詞「もの」、⑤⑥⑦⑧仮定表現の助詞、の意味。
・「困」は①②行き詰まる、③疲れたさま、④取り囲まれる、⑤行き詰まる、⑥⑦貧しい、⑧苦難の境地に追い込む、の意味。
・「也」は①因果関係を表す助詞、②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には、八通りの書き下し文と解読文がある。①~⑧と付番して、以下、それぞれについて解説する。

<①について>
・「罰」の“鞭打つ”は、其九4-25同様に解釈して「敵の隊長」と主語を補った。

・「困」の“行き詰まる”は、鞭打たれている兵士達が行き詰まった原因となる過ちを犯したのだと推察できる。結果、「鞭打たれている兵士達の過ちによって、敵軍が行き詰まっている」と補って解読。

<②について>
・特に無し。

<③について>
・この記述から一度に処罰される兵士は一人ではなく、複数名いることが伺える。行き詰まった原因となる過ちを犯した部隊において隊長が多くの兵士を鞭打ったと推察できる。

<④について>
・「困」の“取り囲まれる”の対象は、「鞭打つ敵の隊長」であり、取り囲む者達は鞭打って処罰された兵士達と解釈できため、「鞭打たれた兵士達に取り囲まれる」と解読。
③「鞭打つ敵の隊長は、疲れる」を踏まえれば、過ちを犯した兵士達を鞭打って処罰すれば強い反感を買うため、鞭打つ隊長が疲れたら処罰した兵士達に囲まれて反撃を受けるのだと解釈できる。また、③「鞭打つ敵の隊長は、疲れる」を無視しても、鞭打たれた兵士達は強い反感を持つため、鞭打った隊長に復讐するため離反して敵となって取り囲みに来るとも考察できる。つまり、「運命」とは、鞭打って処罰するやり方を採用すれば、その部隊は消滅するのが道理と説いたと推察する。

<⑤について>
・①②③④までの記述は一般論又は優れていない将軍の軍隊に関する内容が記述されており、⑤以降は孫子兵法で進める処罰のやり方が説かれていると解釈。

・「困」の“行き詰まる”は、①「困」の「鞭打たれている兵士達の過ちによって、敵軍が行き詰まっている」から類推して、「自軍が兵士達の過ちによって行き詰まる」と補って解読。なお、この記述は其一3-2①「賞と罰は孰れか明らかなり」の「賞罰」に関する具体的な内容と考察。

<⑥について>
・「困」の“貧しい”は、主語が罰金を取られた兵士であるため、「過ちを犯した兵士達は貧しくなる」と補って解読。⑦も同様に解読。

<⑦について>
・「数えて罰する」の直訳は“他と比較して最も際立つと見なして誅殺する”となる。これは“最も際立つ”意味から、大きな褒賞を貰える武将を誅殺することと考察。結果、「最も地位や身分が高そうな武将を誅殺する」と解読。
つまり、罰金を取られた兵士は、自分の過ちによって低くなった評価と財貨を取り戻すために高額の褒美を期待できる武将を狙うようになると解釈できる。この記述から⑤「数=規律」には、過ちを犯しても武功を挙げて取り戻せる仕組みがあるだけでなく、より多くの褒美を得るために兵士達を奮起させる仕組みがあると推察できる。

<⑧について>
・「数」の“規律”は、解読文⑦と其一3-2②「人民と下僕は処罰の内容と褒美の品について詳しくなろうと努力する」に基づき、「褒美を明らかにした規律」と解読。

・「罰」の“規則や約束を守らなかった者への処分”は、規律を守らなかった兵士への処分であり、単に罰則があるだけではなく、規律と罰則が対応していることが重要と考察。結果、「規律に対応した罰」と解読。

・「褒美を明らかにした規律と規律に対応した罰則」があれば、兵士達は過ちを犯していても、犯していなくても、全員が高額な褒美を得るために奮起して地位や身分の高い武将を狙うことになる。また、戦争で武功を挙げることが兵士の仕事であることを保障して出世の仕組みも明らかにするため、日頃から訓練する兵士が増えると考察できる。つまり、其一3-2①「人民と下僕はどちらの国が軍事訓練をできているか」について、兵士達に自主的に取り組ませる効果が期待できる。その結果、自軍の兵士達は強くなることも、敵軍を苦難の境地に追い込む要因になると推察する。

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