之を以いて交なりて故るに合わし、之の以べば武を済すなり。是なるものも必ず取りて胃する。

其九5-6

故合之以交、濟之以武、是胃必取。

gù hé zhī yǐ jiāo、jì zhī yǐ wŭ、shì wèi bì qŭ。

解読文

①法規の賞罰制度を使って切羽詰まって衰えた状態に対応し、兵士を鞭打ったことがない決まりが広まれば兵士数を増やすのである。全ての志願者を必ず採用し、自軍の兵士数を増やさなければならない。

②戦争を起こす時は、将軍は過去の戦争事例を使用して全ての志願者で大軍十万を編制し、一斉に率いて敵国に侵入する。どんな戦争事例でも必ず引き出して、直面している戦争に適合する事例を採用しなければならない。

③直面している戦争と一致する過去の戦争事例を採用して、将軍を戦術に長けていると認めている諸侯を利用するのである。この教えを消化して身につけて、必ず気持ちが通じ合う諸侯を連れて来なければならない。

④気持ちが通じ合う諸侯と連合して分岐路にある瞿地に至らせて留めた時、敵軍の進路を妨害することで自軍が敵里を陣地にする戦略を援助して、その上、自軍の武力を強大にする。正確な判断を行って、気持ちが通じ合う諸侯を連れて来て軍隊規模を強大にすれば、自軍の立場を確固たるものにするのである。

⑤敵将軍は侵略した自軍と諸侯に対応しようとするが、もはや切羽詰まった状態で動けなくなり、戦術に長けた将軍は敵里を奪い取って統治するのである。敵里を奪い取る戦略を決行した時は、自軍で統治して陣地を増やすのである。

⑥敵里を開拓して陣地として結び付ければ、敵将軍は敗北したことを認めるのである。行き来させる自国の人民を増やし、大いに家屋を立てて侵略を成し遂げた成果とする。開拓した陣地を自国の領地にして定住するに至れば、きっと自国の人民は妻を得るだろう。

⑦両国の人民は習慣として男女で連れ合いとなり、そして、子供を産んで人口が増えて、奪った元敵国領地を継いでいこうと考えるのである。敵国は、奪われた領地が自国に領地にされたことを肯定して、統治権の正当性を認めてしまうだろう。

⑧敵国が互いに援助する関係に同意して講和すれば、敵国を完全な状態に保って自国に統一するに至るのである。確かに自国の統治下に入ったと断定した時、自国の武力に加わったと見なすのである。
書き下し文
①之を以(もち)いて交(こう)なりて故(ふ)るに合(あ)わし、之の以(およ)べば武を済(ま)すなり。是(いか)なるものも必ず取りて胃する。

②故あるに、之は武を以(もち)いて之を合せしめ、交(こもごも)以(ひき)いて済(とお)る。是(いか)なることも必ず取りて胃する。

③故と合う之を以(もち)いて、之を武(たけ)しと以(おも)う交わりを済(もち)いるなり。是を胃して必ず取る。

④故と合して交に之(いた)らしめて以(や)むに、之を済(すく)いて、以て武たり。是なして取りて胃すれば必するなり。

⑤之は故に合わさんとするも以(すで)に交なりて済(や)み、武(たけ)き之は以(な)すなり。是を取ること必するに、胃するなり。

⑥合すれば、之は故すると以(おも)うなり。交(まじ)わらしむ之を済(ま)し、以(な)して武とするなり。胃するに是(ゆ)かば、必ず取(めと)らん。

⑦之は故に合(ごう)たり、以て交わりて之を済(ま)して、武(つ)がんと以(おも)うなり。胃されること必して、是取(ぜしゅ)さらん。

⑧交(こもごも)済(すく)うこと以(おも)わば、故(ふる)くして合わすに之(いた)るなり。是れ胃取(いしゅ)すると必するに、之の武たりと以(おも)うなり。
<語句の注>
・「故」は①衰える、②事変、③出来事、④旧交、⑤災い、⑥死ぬ、⑦ならわし、⑧元のままの、の意味。
・「合」は①対応する、②一緒に集まる、③一致する、④連合する、⑤対応する、⑥結びつく、⑦連れ合い、⑧統一する、の意味。
・1つ目の「之」は①②③代名詞、④ある地点や事情に達する、⑤⑥彼、⑦彼ら、⑧ある地点や事情に達する、の意味。
・1つ目の「以」は①使用する、②~を率いて、③採用する、④留める、⑤もはや、⑥認める、⑦そして、⑧認める、の意味。
・「交」は①切羽詰まったさま、②一斉に、③友人、④交差する、⑤切羽詰まったさま、⑥行き来する、⑦性交する、⑧互いに、の意味。
・「済」は①増やす、②密入(出)国する、③利用する、④援助する、⑤停止する、⑥増やす、⑦増える、⑧援助する、の意味。
・2つ目の「之」は①代名詞、②③④⑤あなた、⑥⑦彼ら、⑧あなた、の意味。
・2つ目の「以」は①押し及ぶ、②使用する、③認める、④その上、⑤⑥事を行う、⑦考える、⑧見なす、の意味。
・「武」は①兵士、②事跡、③戦術に長けているさま、④武力が強大なさま、⑤戦術に長けているさま、⑥事跡、⑦跡を継ぐ、⑧武力、の意味。
・「是」は①全ての、②どんな~でも、③代名詞、④正確な判断、⑤代名詞、⑥至る、⑦正しいと認める、⑧確かに、の意味。
・「胃」は①②③④⑤⑥⑦⑧飲食したものを蓄え消化する器官、の意味。
・「必」は①②③必ず~しなければならない、④立場を確かにする、⑤決行する、⑥きっと、⑦肯定する、⑧断定する、の意味。
・「取」は①採用する、②引き出す、③④持ち帰る、⑤攻め取る、⑥妻を得る、⑦~してしまう、⑧~している、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「故合之以交、濟之以武、是謂必取。」と「胃」を「謂」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には、八通りの書き下し文と解読文がある。①~⑧と付番して、以下、それぞれについて解説する。

<①について>
・1つ目の「之」は、其九5-5②「則」等の「法規」を指示する代名詞と解釈。但し、ここでは其九4-26⑤「自軍が兵士達の過ちによって行き詰まれば、規律に従って罰金を取るのである」の罰金制度と、其九4-25②「困難な状況に陥った敵の隊長は、褒美の品を一つひとつ挙げて兵士達に説明する」の褒賞制度を指すと考察。結果、「法規の賞罰制度」と解読。

・2つ目の「之」は、其九5-5⑥「則」の「兵士を鞭打ったことがない決まり」を指示すると解読。なお、「法規の賞罰制度」と「兵士を鞭打ったことがない決まり」は表現が異なるだけであり、いずれも同じ「法規」である。

・2つ目の「以」の“押し及ぶ”は、「兵士を鞭打ったことがない決まり」が広まることと考察。結果、「広まる」と解読。

・「是なるもの」の直訳は“全ての者”となる。この者は、集まってきた其九5-5⑥「将軍を信頼する志願者」を指すと解釈。結果、「全ての志願者」と解読。

・「胃」は“飲食したものを蓄え消化する器官”であり、飲食したものを自分の血や肉に変える器官である。そこで“飲食したもの”を“採用した志願者”と置き換えれば、“血や肉に変える”とは“自軍の兵士達を増やす”ことと解釈できる。結果、「自軍の兵士数を増やす」と解読。

<②について>
・2つ目の「之」の“あなた”は、話の流れより将軍を指すと考察。結果、「将軍」と解読。③⑤も同様に解読。

・「武」の“事跡”は、其九5-2⑤「過去の戦争事例」を指すと考察。結果、「過去の戦争事例」と解読。

・1つ目の「之」は、①「是」の「全ての志願者」を指示する代名詞と解読。

・「合」の“一緒に集まる”は、「全ての志願者」を集めることであり、敵国に侵略する際の準備となる其二1-1①「鎧を着た兵士は十万人を率いる」及び其二1-1③「大軍十万」等の記述から大軍十万を編制することと考察できる。結果、使役形で「大軍十万を編制する」と解読。

・「済」の“密入(出)国する”は、敵国に侵略戦争を仕掛け始める意と解釈できるため「敵国に侵入する」と解読した。

・「是なること」の直訳は“どんな事でも”となる。この“事”は「武」の「過去の戦争事例」を指示すると解釈して「どんな戦争事例でも」と解読。

・「取」の“引き出す”は、其九5-2⑤「過剰に戦争の過去事例を出し尽くし、無理をしなければ決行できない事例を取り除く考え方をする」の“出し尽くす”を言い換えた表現と考察できる。

・「胃」は“飲食したものを蓄え消化する器官”であり、飲食したものを自分の血や肉に変える器官である。そこで“飲食したもの”を“過去の戦争事例”と置き換えれば、“血や肉に変える”とは“直面している戦争に適合する事例だけを採用する“ことと解釈できる。結果、「直面している戦争に適合する事例を採用する」と解読。

<③について>
・「故」の“出来事”は、②「どんな戦争事例でも必ず引き出して、直面している戦争に適合する事例を採用しなければならない」からの話の流れを踏まえると「直面している戦争」と解読できる。

・1つ目の「之」は、②「武」の「過去の戦争事例」を指示する代名詞と解読。

・「交」の“友人”は、其七2-1③「気持ちが通じ合う諸侯に分岐路にある瞿地を占領させる」で記述された「気持ちが通じ合う諸侯」を指すと考察。結果、冗長にならないように「諸侯」と簡潔に解読。

・「是」は、「故合之以交、済之以武」を指示する代名詞と解釈。結果、簡潔に「この教え」と解読。

・「胃」は“飲食したものを蓄え消化する器官”であり、飲食したものを自分の血や肉に変える器官である。そこで“飲食したもの”を“教え”と置き換えれば、“血や肉に変える”とは“(教えを)身につける”ことと解釈できる。結果、「消化して身につける」と解読する。

・「取」の“持ち帰る”は、其九5-1⑥「迎」の「古い付き合いの諸侯を迎えて連れて来させる」を言い換えた表現と解釈。結果、「気持ちが通じ合う諸侯を連れて来る」と解読。④も同様に解読。

<④について>
・「故」の“旧交”は、③「交」の「気持ちが通じ合う諸侯」と同意と考察。結果、「気持ちが通じ合う諸侯」と解読。

・「交」の“交差する”は、「気持ちが通じ合う諸侯」を留まらせる場所を表現していると考察すれば、其八1-1①「分岐路にある「瞿地」は気持ちが通じ合う諸侯によって完全に塞ぐ」の「分岐路にある「瞿地」」を指すと解釈できる。結果、「交」で「分岐路にある「瞿地」」と解読。

・2つ目の「之」の“あなた”は、話の流れより自軍を指すと考察。結果、「自軍」と解読。⑧も同様に解読。

・「済」の“援助する”は、其七1-4①「敵軍の進路を妨害して陣地にする敵里に直進する戦略」を援助することと考察できる。結果、「之を済う」で「敵軍の進路を妨害することで自軍が敵里を陣地にする戦略を援助する」と補って解読。

・「胃」は“飲食したものを蓄え消化する器官”であり、飲食したものを自分の血や肉に変える器官である。そこで“飲食したもの”を“諸侯”と置き換えれば、“血や肉に変える”とは“軍隊規模を強大にする”ことと解釈できる。結果、「軍隊規模を強大にする」と解読する。

<⑤について>
・1つ目の「之」の“彼”は、諸侯を連れて来て軍隊規模を強大にした自軍に対応する存在である敵将軍と解釈。結果、「敵将軍」と解読。⑥も同様に解読。

・「故」の“災い”は、敵国に侵入した自軍と敵軍の進路を妨害する諸侯を指すと考察。結果、「侵略した自軍と諸侯」と言い換えた。

・「済」の“停止する”は、話の流れに合わせて「動けなくなる」と解読。

・2つ目の「以」の“事を行う”の“事”は、其七1-2②「敵将軍を思い悩ませて留まらせた状態で順調に敵里を奪い取って統治し、多くの陣地を手に入れるのである」に基づけば、敵里を奪い取って統治することと考察できる。結果、「敵里を奪い取って統治する」と解読。

・「取」の“攻め取る”は、“奪い取る”と同意と解釈。結果、「奪い取る」と言い換えた。

・「是」は、2つ目の「以」で記述された「敵里を奪い取って統治する」の「敵里」を指示する代名詞と解読。

・「胃」は“飲食したものを蓄え消化する器官”であり、飲食したものを自分の血や肉に変える器官である。そこで“飲食したもの”を“敵里”と置き換えれば、“血や肉に変える”とは“自軍で統治して陣地を増やす”ことと解釈できる。結果、「自軍で統治して陣地を増やす」と解読する。

<⑥について>
・「合」の“結びつく”は、其七4-3①「県」の“繋ぎ止める”と同意と考察。其七4-3①「開拓した陣地を繋ぎ止めて全軍の権勢が生じる」に基づいて、「敵里を開拓して陣地として結び付ける」と補って解読。

・「故」の“死ぬ”は、敗北した状態を表現していると解釈。結果、「敗北する」と解読。

・2つ目の「之」の“彼ら”は、話の流れから敵里を奪って得た陣地に行き来させる人々と解釈。結果、「自国の人民」と解読した。

・2つ目の「以」は“事を行う”の“事”は、其九4-23⑧「完全な状態に保って敵国を抑えつけて大いに家屋を立てて定住すれば、敵国への侵略戦争が終わる」の「大いに家屋を建てて定住」することと考察。結果、「大いに家屋を建てて定住する」と解読。

・「武」の“事跡”は、“物事が行われたあと”と解釈すれば、「侵略を成し遂げた成果」と解読できる。

・「胃」は“飲食したものを蓄え消化する器官”であり、飲食したものを自分の血や肉に変える器官である。そこで“飲食したもの”を“開拓した陣地”と置き換えれば、“血や肉に変える”とは侵略を終えた時に“自国の領地にして定住する”と解釈できる。結果、「開拓した陣地を自国の領地にして定住する」と解読する。

・「取」の“妻を得る”は、主語は行き来していた人々が主語と解釈して「自国の人民は妻を得る」と補って解読。

<⑦について>
・1つ目と2つ目の「之」の“彼ら”は、⑥「開拓した陣地を自国の領地にして定住するに至れば、きっと自国の人民は妻を得るだろう」に基づけば、「両国の人民」と解読できる。

・「故」の“ならわし”は、「習慣」と言い換えた。

・「合」の“連れ合い”は、⑥「自国の人民は妻を得るだろう」に基づいて、「合たり」で「男女で連れ合いとなる」と補って解読。

・「交わりて之を済す」は、「之」の「両国の人民」と解釈すれば“性交して(両国の)人民を増やす”となる。このままでは表現が露骨なため、「子供を産んで人口が増える」と言い換えて解読した。

・「武」の“跡を継ぐ”は、話の流れから生まれた子供が、奪った敵地を継いでいくと解釈できるため、“跡”を“奪った元敵国領地”と言い換えて、「奪った元敵国領地を継いでいく」と解読した。

・「胃」は“飲食したものを蓄え消化する器官”であり、飲食したものを自分の血や肉に変える器官である。ここでは敵国の立場から“飲食したもの”を“奪われた領地”と置き換えれば、“血や肉に変える”とは“自国の領地にされる”ことと解釈できる。結果、使役形で「奪われた領地が自国に領地にされる」と解読する。

・「是取」の直訳は“正しいと認めてしまう”となる。これは、奪われた領地が自国の領地になることを正しいと認めることと解釈し得るが、敵国の人民にとっては侵略者の領地にすることを素直に認めづらいのではないかと推察する。そこで、奪われた領地に対する「統治権の正当性」を認めるのだと推察した。結果、「統治権の正当性を認めてしまう」と解読。

<⑧について>
・「交済うこと以う」の直訳は“互いに援助すること認める”となる。これは、其九4-12⑦「もしも、相互に文字による誓いを立てて、そのうえ、講和した相手国の使者が程よく穏やかな様子で教えを請えば、相談に応じるのである」及び其九4-12⑧「まとわりついて相手に求めることなく、自国に追従する国のために働くのである」に基づけば、自国から互いに援助する関係を提案して敵国が悪意なく了解すれば、文字による誓いを立てて講和するのだと解釈できる。但し、必ずしも敵国が素直に屈するとは限らないため、仮定文として「敵国が互いに援助する関係に同意して講和すれば」と解読した。

・「故くして合わす」の直訳は“元のまま統一する”となる。これは、其三1-1①「自他を問わず、国家を完全な状態に保つことを上策」を表現していると解釈。結果、「敵国を完全な状態に保って自国に統一する」と解読した。

・「胃」は“飲食したものを蓄え消化する器官”であり、飲食したものを自分の血や肉に変える器官である。そこで“飲食したもの”を“敵国”と置き換えれば、“血や肉に変える”とは“自国の統治下に入る”ことと解釈できる。結果、「胃取」で「自国の統治下に入っている」と解読。

・この記述から、其三1-1①「自他を問わず、国家を完全な状態に保つことを上策」は、相手国を丸ごと自国に吸収する意味よりも、むしろ相手国を抑えつけて統治下に置くことが主たる意味だと解釈できる。

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