素なる令の行わば、与する衆を相い得るなり。

其九6-3

令素行者、與衆相得也。

lǐng sù xíng zhě、yŭ zhòng xiàng deǐ yĕ。

解読文

①真心のある法規や決まりが広まれば、自国は、味方になる多くの人々を次第に手に入れていくのである。

②味方になった者は、日頃から真心のある法規や決まりを広めるのであり、次第に味方の人数を増やしていくはずである。

③味方の人数を増やす者は立派な手紙を書くのであり、諸侯との会盟を世話する使者に相応しいのである。

④諸侯との会盟を世話する使者が立派な手紙を書けば、敵軍に対抗する諸侯の軍隊を手に入れるのである。

⑤手紙によって敵軍に対抗する諸侯の軍隊を分岐路にある「瞿地」に赴かせれば、あらゆる事柄を補佐することになるのである。

⑥前もって行動する将軍は、あらゆる事柄を補佐する同盟を結んだ諸侯に号令できるのである。

⑦前もって行動する将軍が号令した時は、あらゆる事柄において同盟を結んだ諸侯と力を合わせて戦略を実現するのである。

⑧真心のある法規や決まりを採用すれば、味方になる多くの人々と、互いに恩恵を施し合うのである。
書き下し文
①素なる令の行わば、与(くみ)する衆を相い得るなり。

②与(くみ)する者は、素(もと)より令を行わしむなり、相い衆(おお)くすを得るなり。

③与を衆(おお)くする者は令(よ)き素を行うなり、相(そう)に得るなり。

④相(そう)の令(よ)き素を行わば、与(あ)たる衆を得るなり。

⑤素をして与(あ)たる者を行(ゆ)か令(し)めば、衆を相(たす)けるを得るなり。

⑥素(もと)より行う者は、衆を相(たす)ける与に令すを得るなり。

⑦素(もと)より行う者の令するに、衆に与と相い得るなり。

⑧素なる令を行えば、与(くみ)する衆と、相い得(とく)するなり。
<語句の注>
・「令」は①②法令、おきて、③④立派な、⑤仮にAがBを動詞したならば、⑥⑦号令する、⑧法令、おきて、の意味。
・「素」は①真心、②日頃から、③④⑤手紙、⑥⑦前もって、⑧真心、の意味。
・「行」は①②広まる、③④なす、⑤赴く、⑥⑦行動、⑧採用する、の意味。
・「者」は①仮定表現の助詞、②③助詞「もの」、④仮定表現の助詞、⑤⑥⑦助詞「もの」、⑧仮定表現の助詞、の意味。
・「与」は①②味方になる、③仲間、④⑤相手に抵抗する、⑥⑦同盟を結んだ者、⑧味方になる、の意味。
・「衆」は①多くの人々、②③数を増やす、④軍隊、⑤⑥⑦あらゆる事柄、⑧多くの人々、の意味。
・「相」は①次第に、②次第に、③④祭礼や儀礼や会盟を世話する人、⑤⑥補佐する、⑦力を合わせて、⑧互いに、の意味。
・「得」は①手に入れる、②~するはずである、③適う、④手に入れる、⑤~することになる、⑥~できる、⑦実現する、⑧恩恵を施す、の意味。
・「也」は①②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「令素信者、與衆相得也。」と「行」を「信」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には、八通りの書き下し文と解読文がある。①~⑧と付番して、以下、それぞれについて解説する。

<①について>
・「令」は、其九6-1①「令」同様に「法規や決まり」と解読。⑧も同様に解読。

<②について>
・「令」は、①「令」の「真心のある法規や決まり」の意味を積み上げていると考察。結果、「真心のある法規や決まり」と解読。

・「衆」の“数を増やす”の“数”は、「真心のある法規や決まり」を伝えて味方になった者の人数を指すと考察。結果、「味方の人数を増やす」と補って解読。

<③について>
・「与」の“仲間”は、表記を統一して「味方」と解読。

・「行」の“なす”は、文意から「書く」と解読。④も同様に解読。

・「相」の“祭礼や儀礼や会盟を世話する人”は、其九5-1⑥「将軍の戦略を雄健な筆勢で記して会盟を世話する使者を遣わして、将軍と大いに気持ちが通じ合い、その上、必ず恭しく将軍の戦略に了解し、敵軍を除き去るために大々的に協力してくれる古い付き合いの諸侯を迎えて連れて来させるのである」の「会盟を世話する使者」と同じと考察。結果、「諸侯との会盟を世話する使者」と解読。④も同様に解読。

<④について>
・「与」の“相手に抵抗する”の“相手”は、諸侯と共に戦う相手であるため敵軍とわかる。また、自軍から侵略戦争を仕掛けていることが前提にあるため“抵抗する”は“対抗する”と言い換える。結果、「敵軍に対抗する」と解読。⑤も同様に解読。

・「衆」の“軍隊”は、手紙によって協力してくれる諸侯であるため「諸侯の軍隊」と補って解読。

<⑤について>
・「行」の“赴く”の目的地は、其九5-6④「気持ちが通じ合う諸侯と連合して分岐路にある瞿地に至らせて留めた時、敵軍の進路を妨害することで自軍が敵里を陣地にする戦略を援助して、その上、自軍の武力を強大にする」の「分岐路にある瞿地」と考察。結果、使役形で「分岐路にある「瞿地」に赴かせる」と補って解読。

・「衆」の“あらゆる事柄”とは、主に其九5-6④「敵軍の進路を妨害することで自軍が敵里を陣地にする戦略を援助して、その上、自軍の武力を強大にする」を指すと考察できる。但し、これら以外の事柄も含まれる可能性があるため、そのまま「あらゆる事柄」と包括的に解読した。

<⑥について>
・「行」の“行動”は、書き下し文で“行い”と記述する名詞。しかし、ここでは動詞扱いされているため、“行う”の動詞活用によって「行動する」と解読した。⑦も同様に解読。

・「同盟を結んだ諸侯に号令できる」について、この理由は其十一1-6②「周到に行き届いて指導する将軍は諸侯が仰ぎ頼る存在となるが、あらゆる事柄に対して命令を出す方法を具備して学習させた時、諸侯を驚き恐れさせるのである」で記述されるように事前に諸侯に指導しているからである。

<⑦について>
・「得」の“実現する”は、其九5-6④「気持ちが通じ合う諸侯と連合して分岐路にある瞿地に至らせて留めた時、敵軍の進路を妨害することで自軍が敵里を陣地にする戦略を援助して、その上、自軍の武力を強大にする」で記述された戦略と解釈。結果、簡潔に「戦略を実現する」と補って解読。

<⑧について>
・特に無し。

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