孫子曰く、地の刑には、通じる者有り、挂かる者有り、支かつ者有り、隘き者有り、険しき者有り、遠き者有り。

其十1-1

孫子曰、地刑、有通者、有挂者、有支者、有隘者、有險者、有遠者。

sūn zǐ yuē、dì xíng、yoǔ tōng zhě、yoǔ guà zhě、yoǔ zhī zhě、yoǔ ài zhě、yoǔ xiǎn zhě、yoǔ yuǎn zhě。

解読文

孫先生が言うには、

①戦地の型には、交通が開けて往来しやすい戦地の型「通」があり、移動しづらい障害物があって敵部隊を謀り取りやすい戦地の型「挂」があり、枝分かれして敵軍を分断できる戦地の型「支」があり、狭い場所で敵軍を苦しめる戦地の型「隘」があり、地勢が険しく堅固に守れる戦地の型「険」があり、遠く離れていて敵部隊を寝返らせるべき戦地の型「遠」がある。

②戦地の型をお手本にする将軍は、戦地の型「通」を占有して往来するのであり、戦地の型「挂」を占有した時は敵部隊を謀り取る奇策部隊を配置するのであり、戦地の型「支」を占有した時は敵軍を分断させるおとり部隊を出現させるのであり、戦地の型「隘」を占有した時は敵軍を苦しめる正攻法部隊を配置するのであり、戦地の型「険」を占有した自軍は守りが堅固となって、遠く離れた敵軍に備えるのである。

③戦地で軍隊を整え治める将軍は、戦地の型「挂」を占有して障害を除いて通るようにして戦地の型「通」を占有するのであり、戦地の型「支」を占有して心引かれて誘惑に乗る敵部隊を出現させて敵軍を分断させるのであり、戦地の型「隘」を占有する奇策部隊は敵部隊を攻め取るのである。戦地の型「険」を占有する自軍は、敵を驚かす奇策部隊を備えるのであり、敵軍から離反して自国に寝返る敵兵達を出現させるのである。

④防御して持ち堪える多人数の正攻法部隊が、敵本軍から引き離した敵部隊を出現させることに成功すれば、隠れている奇策部隊の間者を出現させるのであり、地位や境遇が良くなるならば心引かれる敵兵が出現するのである。よこしまな敵兵達が多ければ、敵軍から離反して自国に寝返る敵兵達は多いのである。
書き下し文
孫子曰く、

①地の刑には、通じる者有り、挂(か)かる者有り、支(わ)かつ者有り、隘(せま)き者有り、険しき者有り、遠き者有り。

②地に刑(のっと)る者は、有(たも)ちて通るなり、有(たも)つに挂(か)く者おらしむなり、有(たも)つに支(わ)かれしむ者あらしむなり、有(たも)つに隘(あい)せしむ者おらしむなり、有(たも)つ者は険(けん)たりて、遠き者に有(たも)つなり。

③地に刑(おさ)める者は、有(たも)ちて通して有(たも)つなり、有(たも)つなり、有(たも)ちて挂(か)ける者あらしめて支(わ)かれしむなり、有(たも)つ者は隘(へだ)てるなり。有(たも)つ者は、険(けん)なる者を有(たも)つなり、遠(おと)ざけしむ者あらしむなり。

④有りて支(ささ)える者の、隘(へだ)てる者有らしむに刑(な)れば、地より有らしむなり、通(つう)ずれば挂(か)ける者有るなり。険しき者有れば、遠(おと)ざけしむ者有るなり。
<語句の注>
・「地」は①②③其一2-5②「地」、④其一2-5③「地」、の意味。
・「刑」は①鋳型、②手本にする、③整え治める、④成功する、の意味。
・1つ目の「有」は①事物が存在する、②③占有する、④ある事情が出現したり発生したりする、の意味。
・「通」は①往来する、交通が開けたさま、②往来する、③障害を除いて通るようにする、④地位や境遇が良くなる、の意味。
・1つ目の「者」は①②③助詞「もの」、④仮定表現の助詞、の意味。
・2つ目の「有」は①事物が存在する、②③占有する、④多い、の意味。
・「挂」は①ひっかかる、謀り取る、②謀り取る、③④心が引かれる、の意味。
・2つ目の「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・3つ目の「有」は①事物が存在する、②③占有する、④多い、の意味。
・「支」は①枝、ばらばらに分ける、②③ばらばらに分ける、④防ぐ、持ち堪える、の意味。
・3つ目の「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・4つ目の「有」は①事物が存在する、②③占有する、④ある事情が出現したり発生したりする、の意味。
・「隘」は①土地や場所が狭小であるさま、苦しむさま、②苦しむさま、③④引き離す、の意味。
・4つ目の「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・5つ目の「有」は①事物が存在する、②③占有する、④多い、の意味。
・「険」は①地勢の険しさ、守りが堅固であるさま、②守りが堅固であるさま、③人を驚かすようなさま、④よこしま、の意味。
・5つ目の「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・6つ目の「有」は①事物が存在する、②③備える、④多い、の意味。
・「遠」は①へだたりが大きい、疎遠にする、②へだたりが大きい、③④疎遠にする、の意味。
・6つ目の「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」は地刑篇全て欠落しているため、孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)の原文を採用した。なお、「刑篇」同様に「形」は「刑」と置き換えた。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「通」、「挂」、「支」、「隘」、「険」、「遠」は、全て“場所の特徴”と“戦地として持つ意味”を組み合わせていると考察。この考察に応じて「地の刑」は、「地」は其一2-5②「」と同意とし、「戦地の型」と解読。
なお、「刑」の“鋳型”は、鋳物を鋳造するための型であり、これは全く同じ鋳物を生産できる物である。また、其四4-5⑧「解読の注」で“鋳型”は過去の戦争事例を統計した“成否の類型(パターン)”だと考察している。これに準じて「型」と解読している。

・「通」は、其十1-2其十1-3の解読内容に基づき、“往来する”と“交通が開けたさま”の掛け言葉と解釈。結果、「交通が開けて往来しやすい」と解読。

・1つ目の「者」の“助詞「もの」”は、冒頭「地の刑」の「戦地の型」に対する具体的な内容を挙げていることを踏まえて、「戦地の型「通」」と解読した。

・「挂」は、其十1-4其十1-5の解読内容に基づき、“ひっかかる”と“謀り取る”の掛け言葉と解釈。“ひっかかる”は、邪魔になるものがあって移動に手間取ることと解釈。結果、「移動しづらい障害物があって敵部隊を謀り取りやすい」と解読。

・2つ目の「者」の“助詞「もの」”は、冒頭「地の刑」の「戦地の型」に対する具体的な内容を挙げていることを踏まえて、「戦地の型「挂」」と解読した。

・「支」は、其十1-6其十1-7其十1-8の解読内容に基づき、“枝”と“ばらばらに分ける”の掛け言葉と解釈。“枝”は、道が枝分かれていることを表現したと解釈。“ばらばらに分ける”は、敵軍を分断することと解釈。結果、「枝分かれして敵軍を分断できる」と解読した。

・3つ目の「者」の“助詞「もの」”は、冒頭「地の刑」の「戦地の型」に対する具体的な内容を挙げていることを踏まえて、「戦地の型「支」」と解読した。

・「隘」は、其十1-9其十1-10の解読内容に基づき、“土地や場所が狭小であるさま”と“苦しむさま” の掛け言葉と解釈。結果、「狭い場所で敵軍を苦しめる」と解読した。

・4つ目の「者」の“助詞「もの」”は、冒頭「地の刑」の「戦地の型」に対する具体的な内容を挙げていることを踏まえて、「戦地の型「隘」」と解読した。

・「険」は、其十1-11其十1-12の解読内容に基づき、“地勢の険しさ”と“守りが堅固であるさま”の掛け言葉と解釈。結果、「地勢が険しく堅固に守れる」と解読した。

・5つ目の「者」の“助詞「もの」”は、冒頭「地の刑」の「戦地の型」に対する具体的な内容を挙げていることを踏まえて、「戦地の型「険」」と解読した。

・「遠」は、其十1-13の解読内容に基づき、“へだたりが大きい”と“疎遠にする”の掛け言葉と解釈。“へだたりが大きい”は、敵軍と自軍が遠く離れていることと解釈。“疎遠にする”は、敵部隊(敵兵達)を敵本軍から引き離して自国に寝返らせる戦術を使うことと解釈。結果、「遠く離れていて敵部隊を寝返らせるべし」と解読した。

・6つ目の「者」の“助詞「もの」”は、冒頭「地の刑」の「戦地の型」に対する具体的な内容を挙げていることを踏まえて、「戦地の型「遠」」と解読した。

<②について>
・「地」は、①「地」の「戦地の型」の意味を積み上げていると考察。結果、「戦地の型」と解読。

・1つ目の「有」の“占有する”は、①1つ目の「有」で記述された「交通が開けて往来しやすい戦地の型「通」がある」の意味を積み上げていると考察。結果、「戦地の型「通」を占有する」と補って解読。③も同様に解読。

・「通」の“遮られることなく達する”は、自軍の合従策に協力する諸侯や救援部隊等が自軍のいる場所まで到達できることと考察。結果、「通る者」で「遮られることなく自軍の所まで到達する軍隊」

・2つ目の「有」の“占有する”は、①2つ目の「有」で記述された「移動しづらい障害物があって敵部隊を謀り取りやすい戦地の型「挂」がある」の意味を積み上げていると考察。結果、「戦地の型「挂」を占有する」と補って解読。③も同様に解読。

・「挂く者」の直訳は“謀り取る者”となる。これは、其十1-4より敵部隊を攻め取る奇策部隊を指すと考察できる。結果、「敵部隊を謀り取る奇策部隊」と解読。

・3つ目の「有」の“占有する”は、①3つ目の「有」で記述された「枝分かれして敵軍を分断できる戦地の型「支」がある」の意味を積み上げていると考察。結果、「戦地の型「支」を占有する」と補って解読。③も同様に解読。

・「支かれしむ者」の直訳は“ばらばらに分ける者”となる。これは、敵軍を分断するために誘導していくおとり部隊と解釈。結果、「敵軍を分断させるおとり部隊」と補って解読。

・4つ目の「有」の“占有する”は、①4つ目の「有」で記述された「狭い場所で敵軍を苦しめる戦地の型「隘」がある」の意味を積み上げていると考察。結果、「戦地の型「隘」を占有する」と解読。③も同様に解読。

・「隘せしむ者」の直訳は“苦しませる者”となる。これは、其十1-9②「敵軍が、狭い場所で敵軍を苦しめる戦地の型「隘」に至れば、必ず隊列を長細くして対応しなければならず、先制して自軍を到達させて占拠させておけば、敵軍の行く手を阻むことに成功する」より敵軍を苦しませるために戦地の型「隘」を占拠させた自軍を指すと考察できる。この自軍は正攻法部隊であるため、「敵軍を苦しめる正攻法部隊」と解読。

・5つ目の「有」の“占有する”は、①5つ目の「有」で記述された「地勢が険しく堅固に守れる戦地の型「険」がある」の意味を積み上げていると考察。結果、「戦地の型「険」を占有する」と解読。③も同様に解読。

・「遠き者」の直訳は“へだたりが大きい者”となる。これは遠く離れている敵軍を指すと考察。結果、「遠く離れた敵軍」と解読。

<③について>
・「刑」の“整え治める”は、将軍が軍隊を整え治めることと考察。結果、「軍隊を整え治める」と補って解読。

・「挂ける者」の直訳は“心が引かれる者”となる。これは戦地の型「支」で分断された敵部隊を指す考察。結果、「心引かれて誘惑に乗る敵部隊」と解読。

・3つ目の「者」の“助詞「もの」”は、話の流れより②「戦地の型「隘」を占有した時は敵軍を苦しめる奇策部隊を配置する」の奇策部隊を指すと考察。結果、「奇策部隊」と解読。

・「隘」の引き離す”は、「心引かれて誘惑に乗る敵部隊」から話が続いていると解釈すれば、その敵部隊を敵軍から攻め取って引き離すことと考察。結果、「敵部隊を攻め取る」と解読できる。

・「険なる者」の直訳は“人を驚かすような者”となる。話の流れより奇策部隊を指すと考察できるため、「敵を驚かす奇策部隊」と解読。

・「遠ざけしむ者」の直訳は“疎遠にさせる者”となる。話の流れより奇策部隊に攻め取られて、自国に寝返らせる敵兵達を指すと考察。結果、「敵軍から離反して自国に寝返る敵兵達」と補って解読。④も同様に解読。

<④について>
・「支」は、文意より“防ぐ”と“持ち堪える”の掛け言葉と解釈。結果、「防御して持ち堪える」と解読。

・「有りて支える者」は、「支」を「防御して持ち堪える」と解釈すれば“防御して持ち堪える多くの者”となる。これは、其三5-3②「多人数部隊は、孤立させる敵部隊を識別して、敵軍の攻撃を持ち堪える戦術に力を尽くすのである」の多人数部隊を指すと考察。また、多人数部隊は其五1-3②「全軍の正攻法部隊は多人数部隊」に基づけば、正攻法部隊とわかる。結果、「防御して持ち堪える多人数の正攻法部隊」と解読。

・「地より有らしむ」は、「地」を「間者が隠れて出現する場所」と解釈すれば“間者が隠れて出現する場所から出現させる“となる。この間者は其十二2-2①「生きたまま敵を取得する間者」であり、奇策部隊に所属しているため、「隠れている奇策部隊の間者を出現させる」と話の流れに合わせて解読。

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