通に刑める者は、高き陽に居ること先にして、糧を道らしむ利ありて、以て戦うことに則りて利あらしむなり。

其十1-3

通刑者、先居高陽、利糧道、以戰則利。

tōng xíng zhě、xiān jū gaō yáng、lì liáng daò、yǐ zhàn zé lì。

解読文

①交通が開けて往来しやすい戦地の型「通」で軍隊を整え治める将軍は、兵士数が盛大な正攻法部隊によって占拠することを第一にして、食糧を経由させる通路を得るのであり、そして、軍隊の勢いで優劣を争うことをお手本にして自軍に勢いを生じさせるのである。

②交通が開けて往来しやすい戦地の型「通」を先制して、軍隊を整え治める将軍は物事を熟知しているのであり、軍隊に勢いを生じさせる時は見通しの良い高い所に留まって、食糧は残すことを考えるのである。自軍の勢いを切れ味の鋭い武器にすれば敵軍を恐れ震えさせるのである。

③軍隊の勢いを盛大に蓄積した自軍の正攻法部隊に向かって前進すれば、痛みを伴うと敵兵達に感じさせることに成功する将軍は、富を得ることと租税等を免除することを説いて、真心のある法規や決まりを利点と思わせることで敵兵達の心を揺さぶるのである。

④地位や境遇が良くなる真心のある法規や決まりによって恐れ震える敵兵達を導く間者は、高貴な地位を装って、住居と富と食糧が得られると説くのであり、間者が提示した条件に対して都合が良いならばその敵兵達は戦うことを止めるのである。
書き下し文
①通に刑(おさ)める者は、高き陽に居ること先にして、糧(かて)を道(よ)らしむ利ありて、以て戦うことに則(のっと)りて利あらしむなり。

②先んじて刑(おさ)める者は通ずるなり、利あらしむに陽(あき)らかなる高に居(お)き、糧(かて)を以(や)むこと道(おも)うなり。利(と)くすれば則ち戦(おのの)かしむなり。

③高くして居(お)く陽に先だてば、通(いた)むこと刑(な)る者は、利ありて糧(りょう)を以(や)むこと道(い)いて、則(そく)を利とせしめて戦(そよ)げしむなり。

④通ずる刑に先だつ者は、高を陽(いつわ)りて、居(す)まいと利と糧(かて)ありと道(い)うなり、利(よろ)しければ則ち戦いは以(や)むなり。
<語句の注>
・「通」は①往来する、交通が開けたさま、②物事を熟知する、③痛いと感じる、④地位や境遇が良くなる、の意味。
・「刑」は①②整え治める、③成功する、④おきて、の意味。
・「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・「先」は①第一にする、②先制する、③前進する、④導く、の意味。
・「居」は①占拠する、②留まる、③蓄積する、④住居、の意味。
・「高」は①盛大なさま、②高い所、③盛大なさま、④高貴な地位、の意味。
・「陽」は①太陽、②鮮明であるさま、③太陽、④装う、の意味。
・1つ目の「利」は①利益を得る、②勢い、③④富、の意味。
・「糧」は①②食糧、③租税、④食糧、の意味。
・「道」は①経由する、②考える、③④説く、の意味。
・「以」は①そして、②③留める、④終える、の意味。
・「戦」は①優劣を争う、②(恐れや寒さのために)震える、③揺れ動く、④戦をする、の意味。
・「則」は①模範とする、②~ならば、③決まり、④~ならば、の意味。
・2つ目の「利」は①勢い、②鋭い、③利益と思う、④都合が良い、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」は地刑篇全て欠落しているため、孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)の原文を採用した。なお、「刑篇」同様に「形」は「刑」と置き換えた。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「通」は、其十1-1①「通」で記述された「交通が開けて往来しやすい戦地の型「通」がある」の意味を積み上げていると考察。結果、「通」で「交通が開けて往来しやすい戦地の型「通」」と解読。

・「刑」の“整え治める”は、将軍が軍隊を整え治めることと考察。結果、「軍隊を整え治める」と補って解読。②も同様に解読。

・「高」の“盛大なさま”は、正攻法部隊の属性に対する形容と考察。結果、「兵士数が盛大な」と補って解読。

・「陽」の“太陽”は、其五2-3「」と同意であり、「日月」の解釈より「正攻法部隊」と解読。③も同様に解読。

・「糧を道らしむ利あり」の直訳は“食糧を経由させる利点を得る”となる。これは、其九4-23④「敵の軍事において軽視されている地方の敵里を統治下に置く将軍は、このように困らせる人民が存在しても刑罰を免除して、乱暴をしないで融通を利かせるのであり、穀物を耕作して家畜の馬を飼育するのである」等に基づけば、統治下に置いた元敵里から食糧を運べる状態と考察できる。つまり、“利点”とは、交通が開けて往来しやすい戦地の型「通」を占拠することで手に入れた、統治下に置いた敵里から戦地に食糧を運んでくる「通路」を指すと解釈できる。結果、「食糧を経由させる通路を得る」と解読した。

・「戦」の“優劣を争う”は、其五5-4④「荒々しい軍隊の勢いで優劣を争って敵軍を劣勢にさせる優れた将軍は思いやりの才能がある」等の意味を積み上げていると考察し、「軍隊の勢いで優劣を争う」と解読。

<②について>
・「先」の“先制する”は、「交通が開けて往来しやすい戦地の型「通」」を敵軍よりも先に占拠することと考察。結果、「交通が開けて往来しやすい戦地の型「通」を先制する」と補って解読。

・「陽らかなる高」の直訳は“鮮明である高い所”となる。其十1-1③「戦地で軍隊を整え治める将軍は、戦地の型「挂」を占有して障害を除いて通るようにして戦地の型「通」を占有する」に基づけば、戦地の型「通」には障害物がないことがわかる。ここから類推すると“鮮明である”とは、見通しが良い状況を指すと解釈できる。結果、「見通しの良い高い所」と解読。

・2つ目の「利」の“鋭い”は、其七6-2④「早朝の切れ味の鋭い武器となる士気が激しく旺盛な軍隊の勢いに至らせる」の“切れ味の鋭い武器となる”を指すと考察。結果、「利し」で簡潔に「自軍の勢いを切れ味の鋭い武器にする」と解読。

<③について>
・「高くして居く」の直訳は“盛大に蓄積する”となる。これは、正攻法部隊の状態に対する形容と考察。②「自軍の勢いを切れ味の鋭い武器にする」に基づけば、「軍隊の勢いを盛大に蓄積する」と補って解読できる。

・「通」の“痛いと感じる”は、②「敵軍を恐れ震えさせる」とほぼ同意で使用されていると推察。実際に武力で攻撃する文意ではないことを踏まえて、使役形で「痛みを伴うと敵兵達に感じさせる」と補って解読。

・「糧を以む」の直訳は“租税を留める”となる。これは、其十三4-6③「生け捕りにしても融通性がない敵兵が存在すれば、大いに年貢等を免除して考え方を改めさせる」で記述された年貢等の免除を指すと解釈し得る。結果、「租税等を免除する」と解読した。

・「則」の“決まり”は、其九6-1⑥「令」の「真心のある法規や決まり」を指すと考察。結果、「真心のある法規や決まり」と補って解読。

・「戦」の“揺れ動く”は、租税等の免除と真心のある法規や決まりによって恐れ震えている敵兵達の心を揺さぶることと考察。結果、使役形で「敵兵達の心を揺さぶる」と補って解読。

<④について>
・「刑」の“おきて”は、③「則」の「真心のある法規や決まり」と同意と考察。結果、「真心のある法規や決まり」と解読。

・「先」の“導く”は、導く相手は勢いある自軍に恐れ震えている敵兵達であることを踏まえて、「恐れ震える敵兵達を導く」と補って解読。

・「者」の“助詞「もの」”は、恐れ震える敵兵達を導いて自国に寝返らせる存在であるため、其十二2-2①「生きたまま敵を取得する間者」と考察。結果、冗長にならないように「間者」と解読。

・2つ目の「利」の“都合が良い”は、恐れ震える敵兵達にとって間者が提示した条件が好都合であることと考察。結果、「間者が提示した条件に対して都合が良い」と補って解読。

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