往かしめて以む可きも、返ること以し難ければ、挂と曰う。

其十1-4

可以往、難以返、曰挂。

kĕ yǐ wǎng、nán yǐ fǎn、yuē guà。

解読文

①軍隊を赴かせて留めることはできても、元の場所に戻ることを実行しにくければ、移動しづらい障害物があって敵部隊を謀り取りやすい戦地の型「挂」と名付ける。

②移動しづらい障害物があって敵部隊を謀り取りやすい戦地の型「挂」であれば、敵軍を赴かせて留めさせた時、奇策部隊が武力で攻め取って敵国から自国に寝返らせることができるのである。

③戦地の型「挂」に適合すると見なせば、敵軍を戦地の型「挂」に送り届けた後に「気にかかる」と言わせるのであり、元の場所に戻ろうとすれば奇策部隊が武力で攻め取るのである。

④気にかかると敵軍に言わせる時は、敵をなじって去ってしまう兵士を利点として足止めするのであり、それによって元の場所に戻らせるのである。
書き下し文
①往(ゆ)かしめて以(や)む可きも、返(かえ)ること以(な)し難(がた)ければ、挂(かい)と曰う。

②挂(かい)なれば、難(なん)を往(ゆ)かしめて以(や)むに、曰(ここ)に以(な)して返(かえ)しむ可きなり。

③可(よ)きと以(おも)えば、難(なん)を往(おく)るに挂(か)かると曰わしむなり、返(かえ)らんとすれば以(な)すなり。

④挂(か)かると曰わしむに、難(なじ)る往(おう)を可として以(や)むなり、以て返(かえ)らしむなり。
<語句の注>
・「可」は①②~できる、③適合するさま、④長所、の意味。
・1つ目の「以」は①②留める、③見なす、④留める、の意味。
・「往」は①②赴く、③送り届ける、④行ってしまうもの、の意味。
・「難」は①~しにくい、②③敵、④責める、の意味。
・2つ目の「以」は①②③事を行う、④それによって、の意味。
・「返」は①もとに戻る、②取り替える、③④もとに戻る、の意味。
・「曰」は①~と名付ける、②語気の強調、③④~と言う、の意味。
・「挂」は①②ひっかかる、謀り取る、③④気にかかる、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」は地刑篇全て欠落しているため、孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)の原文を採用した。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「返」の“もとに戻る”は、移動しづらい障害物があって敵部隊を謀り取りやすい戦地の型「挂」に入った軍隊が元の場所に戻ることと考察。結果、「元の場所に戻る」と補って解読。③④も同様に解読。

・「挂」は、其十1-1①「挂」で記述された「移動しづらい障害物があって敵部隊を謀り取りやすい戦地の型「挂」がある」の意味を積み上げていると考察。結果、「挂」で「移動しづらい障害物があって敵部隊を謀り取りやすい戦地の型「挂」」と解読。②も同様に解読。

<②について>
・「返」の“取り替える”は、戦地の型「挂」に留めさせた敵軍が、服従する国を敵国から自国に取り替えて寝返らせることと解釈。結果、使役形で「敵国から自国に寝返らせる」と解読。

・2つ目の「以」の“事を行う”は、罠に誘い込んだ敵軍を攻め取る文意であるため奇策部隊が武力で攻め取ることを指すと考察。結果、「奇策部隊が武力で攻め取る」と解読。③も同様に解読。

<③について>
・「可きと以う」の直訳は“適合すると見なす”となる。これは戦地の型「挂」に適合すると見なすことと考察。結果、「戦地の型「挂」に適合すると見なす」と補って解読。

・「往」の“送り届ける”は、敵軍が戦地の型「挂」に向かうことを邪魔することなく送り届けることと考察。結果、「戦地の型「挂」に送り届ける」と補って解読。

<④について>
・「難る往」の直訳は“責めて行ってしまう者”となる。これは戦地の型「挂」に送り届けた敵軍を足止めし、反転させて元の場所に戻らせる役割の者と考察。結果、「敵をなじって去ってしまう兵士」と解読した。

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