此の六者の凡は、地を之いる道なり。至る将は之を不いなる可として任するなり、不いに察するなり。

其十1-14

凡此六者、地之道也。將之至任、不可不察也。

fán cǐ liù zhě、dì zhī daò yĕ。jiāng zhī zhì rèn、bù kĕ bù chá yĕ。

解読文

①これら六種類の戦地の型「通、挂、支、隘、険、遠」の教えにおける要旨は、間者が隠れて出現する場所を使う技術である。周到に行き届いた将軍は、間者が隠れて出現する場所を使う技術を大いなる利点として使うのであり、大いに考察するのである。

②これら奇策部隊の間者は全て、ひたすら技術を指導した上で使うのである。将軍は、奇策部隊の間者を十分に調べてから選任しなければならないのであり、厚く信用して間者が隠れて出現する場所に配置するのである。

③平凡な将軍は、これら六種類の戦地の型「通、挂、支、隘、険、遠」の教えを語っても、戦地に到達した時、奇策部隊が出撃する場所と時機を識別できない存在である。その将軍は、間者が隠れて出現する場所を使う技術を大いなる利点として考察したことが無く、奇策部隊の間者の思い通りにさせることになるのである。

④戦地に赴く軍隊は全て、戦地の型「遠」を経由するのである。周到に行き届いた将軍は五種類の間者を大いに使うのであり、自軍の利点について大いに調査させるのである。
書き下し文
①此の六者の凡(はん)は、地を之(もち)いる道なり。至る将は之を不(おお)いなる可として任(にん)するなり、不(おお)いに察するなり。

②此の六なる者は凡(およ)そ、地(た)だ道(みちび)きて之(もち)いるなり。将は之を察せざる可からざるなり、任せて至らしむなり。

③凡なるものは、此を道(い)うも、地に之(いた)るに、六たる者なり。将は、不(おお)いなる可として察すること不(な)く、之に任せるに至るなり。

④地に之(ゆ)く者は凡そ、此の六に道(よ)るなり。至る将は之を不(おお)いに任(にん)するなり、可を不(おお)いに察せしむなり。
<語句の注>
・「凡」は①要旨、②全て、③傑出せずに普通であるさま、④全て、の意味。
・「此」は①②③④代名詞、の意味。
・「六」は①数の名、②③陰の喩え、④六番目という序数、の意味。
・「者」は①~種、②③④助詞「もの」、の意味。
・「地」は①其一2-5③「地」、②ひたすら、③④其一2-5②「地」、の意味。
・1つ目の「之」は①②使う、③ある地点や事情に達する、④赴く、の意味。
・「道」は①技、②指導する、③語る、④経由する、の意味。
・1つ目の「也」は①②③④断定の語気、の意味。
・「将」は①②③④将軍、の意味。
・2つ目の「之」は①②③代名詞、④彼ら、の意味。
・「至」は①周到に行き届いたさま、②行き着く、③~になる、④周到に行き届いたさま、の意味。
・「任」は①使用する、②厚く信用する、③自由に思い通りにさせる、④使用する、の意味。
・1つ目の「不」は①大いに、②~しない、③④大いに、の意味。
・「可」は①長所、②~できる、③④長所、の意味。
・2つ目の「不」は①大いに、②~しない、③無い、④大いに、の意味。
・「察」は①考察する、②十分に調べてから選ぶ、③考察する、④調査する、の意味。
・2つ目の「也」は①②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」は地刑篇全て欠落しているため、孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)の原文を採用した。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「此」は、其十1-1から其十1-13で記述されている「通」、「挂」、「支」、「隘」、「険」、「遠」の各戦地の型と解釈。結果、「此の六者」で「これら六種類の戦地の型「通、挂、支、隘、険、遠」の教え」と解読。

・2つ目の「之」は、「道」の「間者が隠れて出現する場所を使う技術」を指示する代名詞と解読。

<②について>
・「此の六なる者」は直訳すると“これら陰の者“である。まず、「此」は①「此」同様に「戦地の型「通、挂、支、隘、険、遠」の教え」と解釈した上で「これら」と解読する。次に”陰“は、其七4-2①「知るを難くすること陰の如く」で使用される喩え表現であり、その意味は「奇策部隊の出撃する場所と時機の識別を難しくさせる様子はまるで曇り空から変化していく天気を正確に識別できない様子に等しい」である。これは奇策部隊が出現するのか、出現しないのかを敵軍が判別できない状況を表している記述であり、この句においては奇策部隊を率いる其十二2-2①「生きたまま敵を取得する間者」を指すと考察。結果、わかりやすく「これら奇策部隊の間者」と解読。

・「道」の“指導する”は、①「間者が隠れて出現する場所を使う技術」を踏まえると「技術を指導する」と補って解読。

・2つ目の「之」は、「者」の「奇策部隊の間者」を指示する代名詞と解読。

・「至」の“行き着く”は、「奇策部隊の間者」を①「間者が隠れて出現する場所」に行かせて配置することと考察。結果、使役形で「間者が隠れて出現する場所に配置する」と補って解読。

<③について>
・「此」は、①「これら六種類の戦地の型「通、挂、支、隘、険、遠」の教え」を指示する代名詞と解読。

・「六」の“陰の喩え”は、②「六」同様に其七4-2①「奇策部隊の出撃する場所と時機の識別を難しくさせる様子はまるで曇り空から変化していく天気を正確に識別できない様子に等しい」の意味を積み上げていると考察すれば、奇策部隊の出撃する場所と時機の識別ができない将軍を描写したと解釈できる。結果、「六たる者」で「奇策部隊が出撃する場所と時機を識別できない存在」と解読。

・「可」の“長所”は、①「可」で記述された「間者が隠れて出現する場所を使う技術を大いなる利点として使う」の意味を積み上げていると考察。結果、「不いなる可として察すること不し」で「間者が隠れて出現する場所を使う技術を大いなる利点として考察したことが無い」と補って解読。

・2つ目の「之」は、②「者」の「奇策部隊の間者」を指示する代名詞と解読。

<④について>
・「此の六」の直訳は“これらの六番目”となる。これは、「此」を①「これら六種類の戦地の型「通、挂、支、隘、険、遠」の教え」を指示する代名詞と解釈すれば、六番目に記述された戦地の型「遠」を指すと考察できる。結果、「戦地の型「遠」」と解読。

・2つ目の「之」の“彼ら”は、来襲した敵軍を調査する文意と解釈すれば、其十二2-2①「敵里の人民と親しく交流する間者がおり、敵組織内部と親しく交流する間者がおり、敵から寝返らせても敵と親しく交流する間者がおり、敵将軍の可愛がる者を殺害する間者がおり、生きたまま敵を取得する間者がいる」の五種類の間者全てを指すと考察。結果、「五種類の間者」と解読。

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