卒は強くして吏の弱きは、弛と曰う。

其十2-4

卒強吏弱、曰弛。

zú qiáng lì ruò、yuē chí。

解読文

①兵士の立場が強くて役人の立場が弱い状態は、兵士達の緊張感が緩む災い「弛」と名付ける。

②役人が任務に励んでも全て軽視されれば、軍隊を治める任務がいい加減になるのである。

③軍隊を治める任務がいい加減になれば、実務を担当する優れた小役人が存在しても尽き果てるのであり、その結果、兵士達の緊張感が緩んで軍隊の勢いを削ぐのである。

④兵士達に対して「軍隊を治める任務がいい加減になれば敵に負ける」と説く者を役人にすれば、役人の立場を強くして軍隊を強化するのである。
書き下し文
①卒(そつ)は強くして吏(り)の弱きは、弛(し)と曰う。

②吏(り)の強(つと)めるも卒(ことごと)く弱しとされれば、曰(ここ)に弛(ゆる)むなり。

③弛(ゆる)めば、強なる吏(り)あるも卒(お)わるなり、曰(ここ)に弱(よわ)めるなり。

④卒(そつ)に、弛(ゆる)めば弱めると曰うものを吏(り)とすれば、強めるなり。
<語句の注>
・「卒」は①兵士、②全て、③尽き果てる、④兵士、の意味。
・「強」は①力があるさま、②励む、③優れたさま、④強化する、の意味。
・「吏」は①②役人の通称、③役所の長が採用した実務・雑務を担当する小役人、④役人にする、の意味。
・「弱」は①気力や勢力がないさま、②軽視する、③勢力を削ぐ、④負ける、の意味。
・「曰」は①~と名付ける、②③語気の強調、④~と説く、の意味。
・「弛」は①きつく締まっているものをゆったりさせる、②③④いい加減になる、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」は地刑篇全て欠落しているため、孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)の原文を採用した。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「強」の“力があるさま”と、「弱」の“気力や勢力がないさま”は、軍組織内における力関係を説くと解釈できるため、それぞれ「立場が強い」、「立場が弱い」と補って解読した。

・「弛」の“きつく締まっているものをゆったりさせる”は、其十2-1①「弛」の「兵士達の緊張感が緩む災い「弛」」の意味を積み上げていると考察。結果、「弛」で「兵士達の緊張感が緩む災い「弛」」と解読。

<②について>
・「弛」の“いい加減になる”は、其十2-1③「弛」の「軍隊を治める任務がいい加減になる」の意味が積み上げられていると考察。結果、「軍隊を治める任務がいい加減になる」と解読。③④も同様に解読。

<③について>
・「弱」の“勢力を削ぐ”は、役人の立場が弱くて兵士達の緊張感が緩んでいる状態を踏まえると軍隊の勢いを削ぐことと考察できる。結果、「兵士達の緊張感が緩んで軍隊の勢いを削ぐ」と補って解読。

<④について>
・「強」の“強化する”は、役人の立場を強くして兵士達の緊張感が緩む災い「弛」を回避することであり、③「兵士達の緊張感が緩んで軍隊の勢いを削ぐ」からの話の流れを考慮すれば、結果的に軍隊を強化することになると解釈。結果、「役人の立場を強くして軍隊を強化する」と補って解読。

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