此の六者の凡は、敗に之る道なり。将は之に至れば任えて、察せざる可からざるなり。

其十2-9

凡此六者、敗之道也。將之至任、不可不察也。

fán cǐ liù zhě baì zhī daò yĕ。jiāng zhī zhì rèn、bù kĕ bù chá yĕ。

解読文

①これら六種類の災い「走、弛、陥、崩、乱、北」の教えにおける要旨は、敗北に達する道理である。将軍は、自軍が敗北に達すれば責任や重みをこらえて、敗北に達する道理をお手本にして敗北した原因を考えなければならない。

②平凡な将軍は、これら六種類の災い「走、弛、陥、崩、乱、北」の教えについて語るが、敗北に達するのである。この将軍は自軍が敗北に達した時、責任や重みをこらえることができず、敗北に達する道理をお手本にして敗北した原因を考えることも無いのである。

③このような平凡な将軍は、敵軍に敗北した時に意向が変わり、自国を裏切って災いを起こす存在である。自国を裏切った将軍は、敵国に服従してもこの上なく厚く信用されることが無く、採用条件に適合しても推挙されることは無いのである。

④このような自国を裏切って災いを起こす将軍は、敵里等に赴いた時、その敵里等を破壊して支配しようとするのである。周到に行き届いた将軍は、災いを起こす将軍を大いに見抜くことができるのであり、思い通りにさせることが無いのである。
書き下し文
①此の六者の凡(はん)は、敗に之(いた)る道なり。将は之に至れば任(た)えて、察せざる可からざるなり。

②凡なるものは、此の六者を道(い)うも、敗に之(いた)るなり。将は之に至るに、任(た)える可からず、察することも不(な)きなり。

③此(か)く凡なるものは、敗れるに道は之(ゆ)きて六たる者なり。之は、将(したが)うも至って任せらること不(な)く、可(よ)きも察されること不(な)きなり。

④此(か)く六たる者は、凡(はん)に道(よ)りて之(いた)るに敗(やぶ)りて道(おさ)めんとするなり。至る将は、之を不(おお)いに察する可きなり、任せること不(な)きなり。
<語句の注>
・「凡」は①要旨、②③傑出せずに普通であるさま、④俗世、の意味。
・「此」は①②代名詞、③④このような、の意味。
・「六」は①②数の名、③④六番目という序数、の意味。
・「者」は①②~種、③④助詞「もの」、の意味。
・「敗」は①②敗北、③負ける、④壊す、の意味。
・1つ目の「之」は①②ある地点や事情に達する、③変わる、④赴く、の意味。
・「道」は①道理、②語る、③意向、④統治する、の意味。
・1つ目の「也」は①②③④断定の語気、の意味。
・「将」は①②将軍、③服従する、④将軍、の意味。
・2つ目の「之」は①②③④代名詞、の意味。
・「至」は①②達する、③この上なく、④周到に行き届いたさま、の意味。
・「任」は①②責任や重みをこらえる、③厚く信用する、④自由に思い通りにさせる、の意味。
・1つ目の「不」は①②~しない、③④無い、の意味。
・「可」は①~すべきである、②~できる、③適合するさま、④~できる、の意味。
・2つ目の「不」は①~しない、②③無い、④大いに、の意味。
・「察」は①②鑑みる、③推挙する、④見抜く、の意味。
・2つ目の「也」は①②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」は地刑篇全て欠落しているため、孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)の原文を採用した。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「此」は、其十2-1から其十2-8で記述された「走」、「弛」、「陥」、「崩」、「乱」、「北」の災いと解釈。結果、「此の六者」で「これら六種類の災い「走、弛、陥、崩、乱、北」の教え」と解読。②も同様に解読。

・2つ目の「之」は、「敗」の「敗北」を指示する代名詞と解読。

・「察」の“鑑みる”は、「敗北に達する道理」のお手本と将軍が行った軍事を比較して敗北の原因を考えることと考察。結果、「敗北に達する道理をお手本にして敗北した原因を考える」と補って解読。②も同様に解読。

<②について>
・2つ目の「之」は、「敗」の「敗北」を指示する代名詞と解読。

<③について>
・「六」の“六番目という序数”は、①②「此の六者」の「これら六種類の災いの型「走、弛、陥、崩、乱、北」の教え」の六番目である「北」を指し、其十2-1①「北」の「兵士が自国を裏切る災い「北」が存在する」の意味が積み上げられていると考察できる。結果、其十2-1①「北」の意味から類推して、「六たる者」で「自国を裏切って災いを起こす存在」と解読できる。

・2つ目の「之」は、「者」の「自国を裏切って災いを起こす存在」を指示する代名詞と解釈。結果、文意に合わせて「自国を裏切った将軍」と解読。

・「将」の“服従する”は、「自国を裏切った将軍」が服従する相手として敵国と補い、「敵国に服従する」と解読。

・「可」の“適合するさま”は、役人等に選任してもらえる条件に適合することと推察。結果、「採用条件に適合する」と解読。

<④について>
・「六たる者」は、③同様に解釈し、話の流れに合わせて「自国を裏切って災いを起こす将軍」と解読。

・「凡」の“俗世”は、其一2-5④「地」の「敵国の町、村、里、集落」を指すと考察。ここでは自軍が奪い取って統治する段階の記述と解釈し、「敵里等」と解読。

・「道」の“統治する”は、善行によって統治するのではなく、暴力によって支配する意味合いが強いと考察し、「支配する」と言い換えた。

・2つ目の「之」は、「者」の「自国を裏切って災いを起こす存在」を指示する代名詞と解釈。結果、文意に合わせて「災いを起こす将軍」と解読。

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