人の地に入るも深からざれば、軽と為す。

其十一1-3

入人之地而不深者、爲輕。

rù rén zhī dì ér bù shēn zhě、wéi qīng。

解読文

①敵国の領土に侵入してもその地に精通していないならば、敵を侮って兵士数を減らす戦地「軽地」と言える。

②その地に精通していない将軍は敵を侮る者と見なされて、敵将軍は、戦地の型を使って自軍の兵士達を攻め取るだろう。

③将軍は、生きたまま敵を取得する間者を敵国の町、村、里、集落に赴かせて敵人民に紛れ込ませれば、その地に精通している敵兵達が大いに自軍を侮ると見なすのである。

④将軍は、敵人民を服従させてその町、村、里、集落を献上させるのであり、大いに学習させた間者は使って、敵兵の人数を減らして自軍の兵士数を豊富にするのである。
書き下し文
①人の地に入(い)るも深からざれば、軽と為(な)す。

②深からざる而(なんじ)は軽んずる者と為(な)されて、人は地を之(もち)いて入(い)らん。

③而(なんじ)は、人を地に之(ゆ)かしめて入(い)らしめば、深き者は不(おお)いに軽んずると為(な)すなり。

④而(なんじ)は、人を之(ゆ)かしめて地を入(い)らしむなり、不(おお)いに為(まな)ばしむ者をして、軽くして深くするなり。
<語句の注>
・「入」は①入る、②没収する、③身内の中にいる、④献上する、の意味。
・「人」は①他人、②優れた人物、③ある種の職能を持つ特定の人、④民衆、の意味。
・「之」は①助詞「の」、②使う、③赴く、④変わる、の意味。
・「地」は①領土、②其十1-1①「地」、③④其一2-5④「地」、の意味。
・「而」は①逆接の関係を表す接続詞、②③④あなた、の意味。
・「不」は①②~しない、③④大いに、の意味。
・「深」は①②③精通する、④よく茂っているさま、の意味。
・「者」は①仮定表現の助詞、②③④助詞「もの」、の意味。
・「為」は①~と言える、②③見なす、④学習する、の意味。
・「軽」は①其十一1-1①「軽」、②③侮る、④減らす、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は欠落しているため、孫子(講談社)の原文を採用した。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、以下、それぞれについて解説する。

<①について>
・「人の地」の直訳は“他人の領土”となる。侵略戦争における他人は敵国であるため、「敵国の領土」と解読。

・「深」の“精通する”は、文意から「敵国の領土」について精通することと考察。結果、「その地に精通している」と補って解読。②③も同様に補。

<②について>
・「人」の“優れた人物”は、奇正の戦術を使って自軍の兵士を攻め取る者であるため、「敵将軍」と解読。

・「地」は、其十1-1①「地」の「戦地の型」の意味を積み上げていると考察。結果、「戦地の型」と解読。なお、「戦地の型」は其十1-14①「六種類の戦地の型「通、挂、支、隘、険、遠」の教えにおける要旨は、間者が隠れて出現する場所を使う技術である」とあり、奇正の戦術を実践する文意と合致する。

・「入」の“没収する”は、敵将軍が奇正の戦術を使って、自軍の兵士達を攻め取ることと考察。結果、「自軍の兵士達を攻め取る」と補って解読。

<③について>
・「人」の“ある種の職能を持つ特定の人”は、敵将軍を油断させて敵兵達を取得する者と解釈すれば、其十二2-2①「生きたまま敵を取得する間者」を指すと考察できる。結果、「生きたまま敵を取得する間者」と解読。

・「地」は、其一2-5④「地」の「敵国の町、村、里、集落」と解読。

・「入」の“身内の中にいる”は、「生きたまま敵を取得する間者」を「敵国の町、村、里、集落」の人民に紛れ込ませることと考察。結果、使役形で「敵人民に紛れ込ませる」と補って解読。

<④について>
・「人を之かしむ」の直訳は“民衆を変化させる”となる。これは「敵国の町、村、里、集落」を自軍が奪い取った後に友好的に統治することを踏まえれば、そこに住む敵人民を自国に服従させることと考察できる。結果、「敵人民を服従させる」と解読。

・「地」は、其一2-5④「地」の「敵国の町、村、里、集落」だが、話の流れに合わせて「その町、村、里、集落」と解読。

・「不いに為ばしむ者」の直訳は“大いに学習させた者”となる。これは③「生きたまま敵を取得する間者」を指すと考察。結果、冗長にならないように「大いに学習させた間者」と簡略化した解読。

・「軽」の“減らす”は、「大いに学習させた間者」を使って敵兵の人数を減らすことと考察。結果、「敵兵の人数を減らす」と補って解読。

・「深」の“よく茂っているさま”は、植物が生い茂っていることと解釈した上で、其五2-3③「月を出現させるに至る太陽は、植物が芽生える準備ができたことを告げる冬のように、隠れている奇策部隊が出撃する準備を整える正攻法部隊である」等の植物の喩えから類推すれば、兵士数が多い状態の喩えと考察できる。結果、「自軍の兵士数を豊富にする」と解読。

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