饒かな野を掠めて於いてすれば、三軍の食は足らん。

其十一3-2

掠於饒野、三軍足食。

lüè yú ráo yĕ、sān jūn zú shí。

解読文

①富み栄えた郊外の町、村、里等を奪い取って滞在すれば、全軍の食糧は十分に備わるだろう。

②郊外の町、村、里等を奪い取ってもひなびていれば滞在して手厚く与えるのであり、兵士達が何度も耕作すれば全軍の食糧は十分に備わるだろう。

③全軍は、山の麓の木を伐採することで、あり余る広く平坦な場所を出現させて滞在した上で、兵士達が何度も耕作するのである。

④木を伐採した一定の範囲が肥沃な土地になれば、何度も軍営に食糧を加えるのである。

⑤その食糧を強奪する野蛮な人民が存在しても大目に見るのであり、軍営から何度も敵人民に食事を与えて満足させるのである。

⑥軍営から何度も敵人民に食事を与えて満足させれば、全軍は、木を伐採して兵士達が滞在する家屋を数多く建てて、町、村、里等の中で駐屯することができるのである。

⑦教養がなく洗練されておらず、何度も敵人民の富を強奪しそうな兵士が存在すると察知した時は、その兵士を山の麓で開拓した場所に滞在させておくのである。

⑧ひなびている町、村、里等を奪い取って滞在することで十分に満ち足りた状態にすれば、自軍は何度も租税を取って生活にあてることができるのである。
書き下し文
①饒(ゆた)かな野を掠(かす)めて於(お)いてすれば、三軍の食は足らん。

②掠(かす)めるも野なれば於(お)いてして饒(ゆた)かにするなり、軍の三たび食(は)めば足らん。

③三軍は、足を掠(りゃく)して、饒(ゆた)かな野あらしめて於(お)いてして、食(は)むなり。

④掠(りゃく)する野の饒(じょう)たりを於(な)せば、三たび軍に食を足すなり。

⑤掠(かす)める野なるものの於(お)いてするも饒(じょう)するなり、軍より三たび食らわして足らしむなり。

⑥食らわせば、三は、掠(りゃく)して於(お)いてする野は饒(ゆた)かにあらしめて、軍すに足るなり。

⑦野なりて三たび饒(じょう)を掠(かす)めんとする軍ありと食(うかが)うに、足に於(お)いてせしむなり。

⑧野を掠(かす)めて於(お)いてして饒(ゆた)かにすれば、軍は三たび食(は)むに足るなり。
<語句の注>
・「掠」は①②奪い取る、③④(木を)切る、⑤強奪する、⑥(木を)切る、⑦強奪する、⑧奪い取る、の意味。
・「於」は①②③在る、④~とする、⑤⑥⑦⑧在る、の意味。
・「饒」は①富むさま、②手厚く与える、③有り余るさま、④土地が肥えたさま、⑤大目に見る、⑥数が多い、⑦富、⑧十分に満ち足りているさま、の意味。
・「野」は①郊外、②ひなびているさま、③広く平坦な地域、④ある一定の範囲、⑤野蛮なさま、⑥田舎の家屋、⑦教養がなく洗練されていないさま、⑧郊外、の意味。
・「三」は①「三軍」で“全軍”、②何度も、③「三軍」で“全軍”、④⑤何度も、⑥其十一3-2①「三」、⑦⑧何度も、の意味。
・「軍」は①「三軍」で“全軍”、②兵士、③「三軍」で“全軍”、④⑤軍営、⑥駐屯する、⑦兵士、⑧軍隊、の意味。
・「足」は①②十分に備わっているさま、③山の麓、④加える、⑤満足するさま、⑥~できる、⑦山の麓、⑧~できる、の意味。
・「食」は①穀類の食糧、②③耕作する、④穀類の食糧、⑤⑥人に食事を与える、⑦察知する、⑧租税を取って生活にあてる、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「饒かな野」の直訳は“富んだ郊外”となる。これは富み栄えている其一2-5④「地」の「敵国の町、村、里、集落」を指すと考察。但し、集落は渓谷等にあることを踏まえて、「富み栄えた郊外の町、村、里等」と補って解読した。

・「於」の“在る”は、奪い取った町、村、里等に自軍が滞在することと考察。結果、「滞在する」と解読。②③⑥⑦⑧も同様に解読。

<②について>
・「掠」の“奪い取る”は、①「掠」の「郊外の町、村、里等を奪い取る」の意味を積み上げていると考察。結果、「郊外の町、村、里等を奪い取る」と補って解読。

・「足」の“十分に備わっているさま”は、①「足」の「全軍の食糧は十分に備わるだろう」の意味を積み上げていると考察。結果、未来形で「全軍の食糧は十分に備わるだろう」と解読。

<③について>
・「食」の“耕作する”は、②「食」の「兵士達が何度も耕作する」の意味を積み上げていると考察。結果、「兵士達が何度も耕作する」と補って解読。

<④について>
・「饒たりを於す」の直訳は“土地が肥えた状態とする”となる。これは兵士達が開拓した場所を耕作した結果、肥沃な土地になることと考察。結果、「肥沃な土地になる」と解読。

<⑤について>
・「掠」の“強奪する”は、話の流れより主に自軍が耕作して得た食糧を強奪するのだと推察できる。結果、「その食糧等を強奪する」と解読。

・「野なるもの」の直訳は“野蛮な者”となる。これは自軍が奪い取った町、村、里等の人民と考察。結果、「野蛮な人民」と解読。

・「食」の“人に食事を与える”の“人”は、自軍が奪い取って陣地にした「郊外の町、村、里等」の人民を指すと考察。結果、「敵人民に食事を与える」と補って解読。

<⑥について>
・「食」の“人に食事を与える”は、⑤「食」で記述された「軍営から何度も敵人民に食事を与えて満足させる」の意味を積み上げていると考察。結果、「軍営から何度も敵人民に食事を与えて満足させる」と補って解読。

・「三」は、解読文①「三」で記述された「全軍」の意味を積み上げていると考察。結果、「全軍」と解読。

・「野あらしむ」の直訳は“田舎の家屋を出現させる”となる。これは自軍が駐屯する家屋を建てることと考察。結果、「野は饒かにあらしむ」「家屋を数多く建てる」と解読。

・「軍」の“駐屯する”は、「郊外の町、村、里等」の内部に駐屯することと考察。結果、「町、村、里等の中で駐屯する」と補って解読。

<⑦について>
・「饒」の“富”は、自軍が駐屯する「郊外の町、村、里等」の人民達の富と考察。結果、「敵人民の富」と補って解読。

・「足」の“山の麓”は、③「足」で記述された「全軍は、山の麓の木を伐採することで、あり余る広く平坦な場所を出現させて滞在」の意味を積み上げていると考察。結果、「山の麓で開拓した場所」と補って解読。

<⑧について>
・「野」の“郊外”は、②「野」で記述された「郊外の町、村、里等を奪い取ってもひなびていれば滞在して手厚く与える」の意味を積み上げていると考察。結果、「ひなびている町、村、里等」と補って解読。

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